勝ち取った休暇の過ごし方 2 ~やっぱり数学~
引き続き、ノエルが勝ち取った休暇中だが、初日のボール遊びで私たちは限界だった。
したがって、以降はのんびりと数学をしている。
これでは通常と変わらないと思っていたが、仕事ではない数学というのは明らかに違って、楽しむことができた。
「連立方程式、やっていることは意外と文章問題を解いているときと変わらない。どの問題でも、邪魔な文字を消去するのが肝みたいだ。」
「そうねぇ。形を変えたり、邪魔な文字を消したり、左辺に一文字だけにしたり、そんな感じだよなぁ。」
「姉さんは何を?」
「二次方程式の公式の証明だよ。よく出てくる問題だったし、やってることは等式の整理と変わりないから、ちょっと頭使うのにちょうどいい。」
「ふーん。そろそろ、座標平面も進められませんかね?」
「できないこともない。まだ比例すら教えていない段階だから。そうだね、直線の式程度は余裕でしょ。やってみようか。」
ノエルと他愛のない会話を続け、またいつものように数学を教えていた。
「原点を通るのが比例という特殊な事例で、基本的には直線は一次関数であると。aが傾きでbが切片、傾きとはxが1増加した時のyの増加量で......この、微妙な時は?」
「あぁ、それは1/3だね。」
「1/3とは?」
「嘘、そこ抜けてたか。教え忘れ?まぁいいや。1より細かい数として0.1とかの小数を教えたわけだけど、もうひとつあって、それが分数。例えば、この林檎を二人で半分こしたら1/2だし3人で分けたら1/3なの。要点として、下の部分を分母、上を分子と呼び、これがひっくり返ったのを逆数ということ、分子÷分母という形で割り算として表せること、つまり、割り算は全て分数として表せること、割り算と掛け算の関係性として、分数で割り算するときは割る数を逆数にすること、あたりかな。分母と分子、同じ数で割ることができるときは約分とか分母と分子に同じ数かけて通分とかあるけど、そこら辺はおいおい。」
「?ということは、1を半分に割った時は計算を続けずとも1/2で済むと?」
「まぁ、そういうこと。ゴメンね、ちゃんと伝えられずに。」
「大丈夫。だけど、そっか、うん。小数で求める必要ないんじゃないかって一瞬思ったけど、分数じゃ数がちょっとわかりずらいね。」
「早くもそこに気づくか。そう、その通りなんだよ。分数には帯分数という整数と分数をくっつけた表し方があるんだけど、分母が大きくて約分ができなかったりすると、その数を想像しずらかったりするんだよね。その帯分数を作るために計算したりもするし。あとは、書くときの幅?とか。ぅわぁぁぁ。ちゃんと教えてなかったー!そうだよね?というか、よくこれまで方程式解いてきたね?私、分数がなかったら方程式なんて死ぬだけなんだけど。」
「そりゃぁ、色々とね。でも、なるほど。何となくだけど、整数って、分母が1の分子部分じゃないかって思ったんだけど。」
「正解。よく0と間違えんかったね。分母は0にはならん。これだけは大事。」
「なら、傾きはx方向に進んだのが分母でy方向に進んだのが分子だね。」
「当たり。よく分かるね。天才か?私はマスとか形で何となく分かるようにした。そっちの方が問題解いてて速いからね。」
「うん。で?これはどこで使える?」
「折れ線グラフって覚えている?そんな感じ。ポイントはある式のxとyの組み合わせを延々点で記し続けた結果が線なの。例えば、そうだね。1秒で1進む人がいるとしようか。で、スタート0秒には0という地点にいる。速さは一定で一直線に進む。それを書くならば、y=xとなる。これを書いていくと一目で何秒でどこにいるかが分かる。」
「理解できた。」
「で、例えば、このy=xが私だとして、ノエルが5秒のときに0を出発して1秒で2進んで飛行しながら私を追いかけるとする。私に追いつくのは何秒でどのくらい0から離れているか。」
「追いついてみないと分からないのでは?」
「いいえ。それが分かるのがこのスゴイところ。見てて、ノエルの動きをグラフに書き起こすから。うん、ここ、私の線とノエルの線が交差しているところ。この重なったところが丁度私に追いついたとき。同じ時間に同じ場所にいるでしょ?」
「なるほど、そうか。確かに、そうだね。これは色々なことに活用できそうだね。例えば、今、運んでくれている手紙やお便り、テストの束をどの時間にどこで回収するかのグラフとか。」
「ドンピシャ。ダイヤグラムというものが有名。これはちゃんと停車時間も考えているんだ。こんな感じで、横に平らになっているところが停止しているところ。」
「つまりは、時間は流れているけど、場所は変わっていない。なら、帰りはこうやって、右下がりの直線だ。差し詰め、傾きはマイナスということか?」
「そういうこと。なんなら、ダイヤグラム作ってみる?私、そういうの苦手だからさ。問題として出されるのはいいけど、現実的かどうかって部分でうまく折り合いがつけられないし。ダイアグラムの存在は分かっていたけど、そこまで管理しようと思ったこともなかったし。ノエルの発案、やってみなよ。」
「なら、そうさせてもらおうかな。ほかのことにも使えそうだし、これはやりがいがある。」
こうして、ダラダラと彼らは休暇を使っていく。
休暇こそ、彼らの発想が自由に飛び交う、黄金の時間なのだ。