報告書
セシルが報告書を書くにあたってまず最初に確認したことはレポートの構成であった。
<レポートの基本>
・序論
主題の提示
主題への導入
動機
目的
・本論
統計資料
文献内の記述
考察
・結論
本論の総括
課題
展望
・参考文献
序論・本論・結論という構造で、序論では何故このテーマを書いたのか、これがなんの役に立つのかを提示し、本論で詳しい判断根拠などを記述、結論で纏める。分かりやすい型としてよく紹介されているが、意外と難しい。動機と目的の違いって何だろう?導入とは?と考えてしまうのはやはり仕方のないことであろう。
それでも、セシルは提出するものとして、レポートを何度も校正して、ノエルとも相談をして、少し型を崩してまとめた。
| 識字率向上計画1年目の成果について
1. 序論
i ) 主題の提示
本報告書は国王陛下並びに公爵閣下、辺境伯閣下による要請のもとに取りまとめられたものである。エマール伯爵領内で試験的に行なった識字率向上計画の内容とそれによる結果とその要因として考えられるものをまとめ、次年度以降の計画を向上させることができれば幸いである。
著者であるセシリア・フォン・エマールは世情に疎く、また年端もいかない子どもであるから、この報告書での不作法はお目溢し頂きたい。
ii ) 主題への導入
現在の社会において平民の識字率は限りなく低く、平民で文字を扱うことのできるものは皆無であろう。現在、文字を扱うことができるのは、貴族や親や祖先が貴族であった者の一部である、王都の民や各貴族家で使用人をしている者、王宮に仕えているもの程度である。文献によれば、これまでも、多くの方が文字を扱える人を増やそうとしたが、教えることのできる人数は限られ、また教える側の仕事も繁忙であったり、士気が十分に上がらない、日常で文字を扱う機会がない、などの要因から頓挫していた。これらの要因を潰しながら、現在の技術を活用して識字率を1年で向上させるという実験を行なった。成功の要因や、不出来な部分をより分析し、より良い計画へと改良していきたい。
iii ) 動機
書籍「エマール伯爵家」で識字率の向上が優先的な課題として挙げられていたため。
iv ) 目的
様々な研究成果により豊かにまた仕事が効率化された社会において生きがいの一つとして研究という選択肢を誰もが選べるようにするために、研究に必要な知識の土壌をつくること。
2. 本論
i ) 計画
領内全土に放送することができる魔道具を使用して屋敷から授業という形で知識を教える。
テストを定期的に行い、理解度の確認と士気の向上、授業難易度の調整を行う。
日常的に文字を扱う機会を増やすため村又は集落など授業で使用する教会ごとに交換日記を行う。
楽しみながら学習ができるよう、授業の中にゲームや遊び、工作を取り入れる。
教会で司教による絵本の読み聞かせを行い、架空の話を読むことの楽しさを知ってもらい、読書の入り口とする。
教会に本を置き、誰もが読むことができるようにする。
日常に文字を取り入れる方法を紹介、コンテスト等で優秀作を発表することで興味を惹く。
広報誌やお便り募集で手紙を書く習慣をつける。
ii ) 識字率の遷移
文字を確認するテストでは最初からずっと同じ問題を使用し、点数による遷移をわかりやすくした。
以下は平均点の推移を折れ線グラフで表したものと表にまとめたものである。
(中略)
iii ) 反響が大きかったお楽しみ講座
お楽しみ講座とは、文字を楽しく使ったり、生活を豊かにしたりする、工作等を紹介する講座である。
以下に反響の大きかった講座の内容をまとめた。
・文字デコ講座
第2回の授業で行なったサイン交換会で文字を如何におしゃれに書くのかということに興味がある者が多かったようなので開講した講座である。具体的には縁文字や縦向きの線のみを少し太くするもの、○の形を変えるものなどを紹介した。以降、文字デコについて試行錯誤をしている者が幾人か見られたそうだ。尚、サインは定着をした。
・看板講座
薄い板に塗料などを用いて文字を書いていく講座だ。自分の名前を書いて家の入り口前に飾るほか、畑に作物の名前を書いた木札が刺さっていたりする。塗料の塗り方に試行錯誤の余地がある。
(中略)
iv ) 国語
国語では文章を読み、理解する力、読解力の養成と、正しく文を書く力の養成を図る。研究を行なった際に、正しく、万人が理解できる論文を書ける研究者を、論文を読み多くの知識を力にできる研究者を、育成するための講座である。初年では馴染みのある唄を書き起こすことで、文を読むことの抵抗をなくし、知っている単純な物語で、より文章を読むことへ興味を示してもらうことが目的である。更に、説明文では説明文の構造を理解して、読むときの道標にすること、最後の詩では馴染みのないことも文章から読み取ることを目的としている。
v ) 算数
算数では研究で最低限必要な数的感覚や数学的思考を養成を図る。最低限の計算をこなし、データを数学的に処理することで新しい事実を発見することができるような統計技術を身につけることが最終目標である。初年では、数の仕組みから簡易的な加減演算を行えるように基礎を徹底した。応用者向けに広報誌では算額という形で難易度の高い問題を出題し、退屈な授業にならないように心がけた。算数は理解しづらい科目で、苦手な人が出やすいが、なるだけ底辺をあげるような授業をするように心がけた上で、"教え合い"の概念を理解してもらえるように努力した。
vi ) 次年以降の展望
科目の追加を検討している。
国語 II 算数 II に加えて、研究基礎 I 領内地理 I 図形 I 文法 I を学習していく予定だ。
国語 II では読解により力を入れて、指示語の指し示す内容や語彙を増やすための学習、文字を読むスピードの向上を図りたい。ディベート等の発信に力を入れた学習も取り入れたい。読書感想文コンテストを検討中。
算数 II では繰り上がりのある加減に加えて、掛け算という概念を学習する。反復をして、なるだけスムーズに、無意識的に計算ができるような授業を考えていくと同時に、証明等の表現する力や、考える問題も増やしていきたい。
研究基礎 I では、実験の基礎や仮説の立て方、研究レポートの書き方などの基礎的な勉強を楽しめそうな実験とともに行っていく。対照実験について学べる実験を検討している。どこかで自由研究コンテストの開催を検討しており、個人か団体かは問わず、賞も考えたい。
領地地理 I では、領地について知ってもらうために、まずは自分の集落について調べてもらう予定だ。統計なども少しずつ折り込み、集落ごとに発表してもらい、皆でより領地のことを知ってもらおうと思っている。ついては、領内万博をいつか実施したいと思っている。
図形 I では、ノエルと固有能力を持つ方々で協力して作った定規やメスシリンダーで量を測るということについての学習や図形ごとの特性を勉強してもらう予定だ。なぜ時計は円なのかなど形の理由につていも迫り、考える授業を行いたい。
文法 I では、主語、述語を学習し、主述のねじれがない文を作ること、文体の一致等を確認していく。テストでは、文を読んで校正するという内容にすることを検討中。
また、今年度実施した授業については、教会で別の時間に放送する予定だ。
今年年齢等の問題で受けられなかった子は来年受けることとなり、別の人間が講師をすることとなる。
講師用の教科書は作成中で、理解している人は授業を行えるようなものにしたい。
尚、余った教科書はエマール伯爵が扱うということになっていたが、恐らく売却することで何らかの利益を得て、次年など領内のために投資を行う予定だったと思われる。
vii ) 成果
1年間の授業において、一定の成功を収めたといえるだろう。
理由は上記のように、識字率の大幅な上昇、ほとんどの領民が文字を扱うことができるようになったからだ。
しかしながら、まだまだ知識レベルは研究をするという最終目標に対して十分でなく、これからも努力が必要だ。例えば、領民用の図書館の設置、交流の機会の設置などがある。
特に憂慮しているのが受け身の授業になっていることだ。彼らが発信することは少ない。
できることなら、対面で少人数で行いたいが、まだ不可能であるから、相互通信型の魔道具の完成を願う。
また、筆記用具は改善の余地があるため、改良を急ぐ。
3. 結論
i ) 本論の総括
今回の計画において一定の成果を得ることはできたと言えるだろう。しかし、完全ではなく、全ての知識の土壌がしっかりとしたと判断するまでに、長い年月がかかると予想される。
(中略)
ii ) 課題
(中略)
iii ) 展望
(中略)
4. 参考文献
書籍「エマール伯爵家」ほか
以上。
(セシル談)
報告書とはこれでよかったのでしょうか?
教科書に載せるだなんて調子に乗ってすんませんした。
高校生だった私がまともに書けるはずがなかった。せめて、大学生まで生きていたら違ったのかな...。
まぁ、済んだことはしゃーない。
子どもだから仕方ないよね、という免罪符で依頼者たちに送りつけるとしましょう。
こんな多忙でやることまみれの時期に報告書を書かすなんて鬼畜は泣けばいいんだ。