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ツケは全てセシルへ。

 国王一行はUNOを楽しんだ後、ご機嫌で帰っていった。


 しかし、彼らの疑問が全て解消したわけではなかった。

 聞きたいことと分からないことが多すぎて、時間は足りず、伯爵と伯爵夫人の手に負えず、更には首謀者は領地にいるから全ては分からない。


 最終的に、エマール伯爵家令嬢セシルへ今回の事業についての報告書と教科書ノート一式、UNO及びカードゲームの提出を求めた。UNOやカードゲームは彼らが遊びたいだけではないかという疑惑があるが、それは定かではない。


 ただ、ひとつ言えることがあるとするならば、セシルに報告書を書かせるくらいなら、王都に留まらせる必要はなかったではないか、ということだ。


 伯爵らはとても憤った。何のために貴重な授業を欠席するためになったのか、と。


 しかし、その意義はあった。伯爵家の使用人の知識レベルが明らかになったからだ。領民全員というのは確かめ難いが、少なくとも使用人は他の貴族すらも持ち得ない、"計算"という技術を身につけていたことが、一目瞭然だった。


 そして、これは非公式だが、曰く、

 「UNO、この遊びを知ることができただけで、伯爵家に突撃した価値は十分にあった。」

 「腹の探り合い、エマール家はあまり持ち得ない技術だと思ったが......これはそれを鍛えるに足るものだ。」

 「与えられたカードを如何に使うかというのは、頭を使わせられました。」

 「紙だけでこれだけ楽しめるとは、皆の娯楽になりそうだ。」

 と、何よりUNOを楽しんだようだ。


 伯爵不在の授業では、サイコロを使用した立方体の展開図や見取り図の話、読書感想文の書き方と説明文の読書感想文を書く話、お楽しみ授業ではパラパラアニメを紹介した。


 「今回紹介するのはパラパラアニメというもの。私が見本を作ってみたので、まずは見てみましょう。」

 セシルはボールが跳ねて街を旅する作品をつくって紹介した。

 「姉さん、絵が動いているよ!!どういうこと?」

 すかさず、ノエルが合いの手を入れる。

 「では、絵を1つずつ見てみましょう。」

 「これは?ちょっとずつ、違う絵が書いてあるね。」

 「そう、少しずつボールが動く絵を描いたんです。こんな感じで、ちょっとずつ違う絵を速く見る、つまりパラパラとすると、絵が動いて見えるんです。」

 「わぁ。面白い!僕も作れるの?」

 「えぇ、勿論。こんなふうに、ちょっとずつ違う絵を描いていきます。後ろの絵がちょっと透けるのでそれを目安にするとうまくいくと思います。」

 「そうか......絵をつなげると動くなんて思わなかった!」

 「そうね。最初は驚くでしょう。でも、これもまだまだ奥が深いんですよ?是非、楽しんでくださいね。」


 というように、絵が動くってところから驚きと興味を惹きつけ、また虜となるひとがいたりもして。ノートの端には落書きがあるのは当たり前になりつつあるのかもしれない。


<エマール伯爵領>

 苦難の末に領地に戻ることができた王都組。

 それによって、いつも通りの日常が戻ってくるかに思われた。

 多くの人に日常が戻ってきた。


 しかし、セシルは日常を壊されてしまった。


 「王家・2公爵家・辺境伯家からの要請なんだが、セシルの放送授業で領民の知識が向上しただろう?それについて追及されてな、報告書の提出を求められた。セシリア・フォン・エマールによる事業報告書の提出、これが要請だ。断ることは恐らく不可能だろう。」


 「嘘...でしょ...。ねぇ......嘘と言ってよ。」

 セシルは震えながら譫言のように呪詛を唱え続けた。


 「それで、だが、ノエルもいるな?その、アズナヴール公爵からセシルと公爵家の長男を婚約させないか、と。」

 「あ゛ぁ?」

 ノエルがセシルから見えないところで凄んだ。

 「ひっ!!だが、本人らの意向も大事ということで5月頃にうちの領地で顔合わせをすることになった。ノエルも同席してもらう。」

 どうだろう、と目を恐る恐るノエルに向けた。

 「はぁ。まぁ良いでしょう。僕も姉を結婚させたくないとかではありませんから。」

 「ふぅ...よかった。」

 「姉さんは......聞いていないみたいだね。でも、問題ないでしょう。」


 セシルは未だ思考が旅をしており、呪詛を唱え続けていた。

 「報告書?つまりはレポート?......今こんなにも忙しい時に?次の教科書の作成に時間を取られている時に?ただでさえ、テストの丸つけと分析に時間がかかっているのに。丸付けは兎も角、分析は私以外できないし......嘘...国は私を過労死させるつもりなの??」


 報告書の提出・婚約という二つの案件がセシルに降り掛かってきた。

 最も、この騒ぎの根本的原因を作ったのは、セシルに違いないので自業自得だった。

 セシルは打ちひしがれ泣いていた。


 「なんで7なのよ!!大人しく10進数にしときなさいよ!!というか指も2本いらないから!!うわぁぁぁぁ!!」

 ついにセシルは壊れた。


 「うっ、うっ、もう、ダメだ。」

 「姉さん、大丈夫。教科書はできるだけ僕が請け負うようにするから。それに、テストの分析も僕ができることがあるでしょう?」

 ノエルはセシルの顔を覗き込んで、ゆっくり話した。

 「ノ、ノエル、うぅ、優しいねぇ。こんなダメなお姉ちゃんでごめんねぇ。」

 「姉さんはダメなんかじゃないよ!大丈夫、自信もって。僕の一番大事なたったひとりの姉さんなんだから。」

 「うぅぅ、ノエルぅ。優しい、天使だぁ。私の天使だぁ。」

 セシルはノエルを抱きしめて大泣きし始めた。

 「......この姉さんを支えて、大事にしてくれる人じゃないと。姉さんは何でもできるようで、実はかなり抜けてるから。絶対に弱みを見せないようにやっている姉さんは危ういんだから。」

 抱きしめられたノエルは決意を新たにして、今はセシルが泣き止むのをただ静かに待った。




 翌日のこと、セシルとノエルは報告書の作成と教科書の執筆、授業方針の策定、テスト結果の分析、その他教材の選定について役割分担をしていた。


 「昨日は急に泣き出してしまってごめんなさい。今後はないようにするから。」


 まず最初にセシルが謝罪した。


 「いや、姉さん。あの状態になるまで状況を改善できなかった僕のほうに非がある。姉さんの仕事量は半端じゃないから。それに、体も強くないし、大人のようにストレスに慣らされているわけでもない。何より、過度なストレスは誰にとっても毒だ。姉さんの仕事量を必ず減らしてあげられるという約束はできない。でも、限界に達したならば、昨日のように泣いて、一度リセットしてほしい。僕はそれを助ける。精神面でくらいなら助けになれるだろうか。」


 ノエルも苦虫を噛み締めたように言った。


 「いいえ。昨日はノエルが居てくれたからよかった。ありがとう。」


 「そう、だね。ごめんじゃなくて、ありがとうって言ってもらえると嬉しい。」


 互いに優しく微笑んだ。


 「いつまでも、しんみりとしてはいられない。ノエルにもたくさん頼っていく。」


 「うん、期待してて。」


 「算数の計算に関する教科書、一通り任せてみて良いかな。内容は、前も話したけど、繰り上がりや繰り下がりがある足し算引き算がメイン、数については大きい数に挑戦してみようか。あとは、掛け算、あなたが覚えたあれを分かりやすく掲載してもらって、あれを暗記してもらうって授業になると思うんだけど。」


 「そうだね。掛け算という概念を分かってもらえるように努力する。あれは暗記、そうだね、あの計算カードを試作しても良いかな?表に計算式、裏に答えが書いてあるやつ。あれでバラバラを覚えられるはず。」


 「そうだね。ありがとう、助かる。他にも教科書がたくさんあるけれど......それは一度置いておいて、ノエルにはテスト結果の分析をお願いしたいの。テスト問題もお願いしておいて苦しいのだけど。」


 「大丈夫。丸付けは屋敷の皆でやっているし、僕も一分野くらい一人で任されたいからね。でも、分析の仕方が分からないのだけど。」


 「それは、教える。私も分析とか言っていても、大したことはできないもの。覚えて欲しいのは平均の求め方とヒストグラム。難しいものじゃないよ。ヒストグラムについては他の人に手伝ってもらってもいい。平均は足し算と割り算ができれば問題ない。が...小数点をどうするか......。」


 「いや、大丈夫。僕はちゃんと覚えるから仕事を任せてほしい。」


 「分かった。まずはヒストグラムだけど、テストの点数や解くことができた問題の数を纏めているのだけど、それをいくつかのグループに分けて欲しいの。」


 「例えば、このテストの度数分布表、1点~7点だった人が17人いるよってことね。それをこんな風に一覧にする。」


 「その幅はいくつが妥当?」


 「それなんだけどね......この一列一列を階級というのだけどその幅がスタージェスの公式というやつで求められたはずなんだけど......階級の幅k=1+log2nって感じだったんだけど...logって何だったか...対数関数?かな2を何乗するとnになるか、だよなぁ?手で計算なんかできないし...うーん...?私はいつもだったら...7ずつでやってみるか、最大の値と最小の値を見て間を5~8つくらいに分けるかな。」


 「分かった。なら最大値と最小値の差、というか範囲かな?を5~8つに分けてみるよ。」


 「ありがとう。ごめんね?ちゃんと覚えてなくて。」


 「大丈夫。気にしないで。」


 「次に平均。ついでだから、代表的な値3つやろうか。まずは平均。全部の値を足して、データの数で割る。つまり、全員同じ点数に均す感じ。」


 「ふむ。真ん中らへんの点数が分かるんだね。」


 「その通り。だけど、本当に真ん中かは微妙だから気をつけて。」


 「どういうこと?」


 「これからやる二つの値もそうだけど、はずれ値ってやつに引っ張られるから。例えば、そうだなぁ、7点が2人、6点が1人、点数を取れなかった人、つまり0点が1人いたとする。合計は?」


 「7(ナー)x2(ヌー)=17(イーショウナー)6(ルック)を加えて26(ヌーショウルック)だね。」


※7x2=14(10) 14+6=20(10) 20(10)=7x2+6=26(**)


 「むぅ、私より速くない?それをデータ数、つまり人数で分けると?」


 「4(シュー)x5(グー)=26(ヌーショウルック)だから5(グー)点か。確かに真ん中とは言い難いね。」


 「そうなの。なんかしっくりこないでしょう?だから平均が必ず真ん中あたりの成績を取った人の点数とは思わないこと。」


 「納得したよ。」


 「次に、最頻値。これはヒストグラムを見ると分かりやすいね。ヒストグラムというのはさっきの度数分布表をグラフにしたもの。こんなふうに数を図で表すんだ。メモリを見ると分かるでしょう?最頻値とは最も取った人が多い点数のこと。ヒストグラムでは最も人数が多い階級の階級値、つまりその端と端の真ん中の値をそう呼ぶ。」


 「1~7の階級なら4ということか。」


 「そういうこと。更に、三つ目の中央値とは、順位が一番真ん中の人の値だね。」


 「ひたすらにランク付するのか。」


 「そう。ヒストグラムでは中央値の値がある階級の階級値になるわね。」


 「これが、姉さんがやっている分析か......。」


 「初歩の初歩だけどね?」


 「分かった。僕が請け負う。」


 「ありがとう。そういえば、ノエル、あなたアナログ時計読めたわよね?」


 この世界の時計は必ずデジタル時計を指す。デジタル時計に付随してアナログ時計は存在するが、読める者は存在しないのである。なぜなら、時計職人は女神から固有能力として与えられた者のみだからだ。


 「うん、姉さんに教えてもらったからね。」


 「なら、算数の教科書の7の倍数というか段をやるときにやってみてほしい。他も一つずつ取り上げると思うけど、順番はバラバラで、ノエルが簡単だと思った順にね。」


 「分かった。ところで、このヒストグラムというやつだけれど、授業に使えないかな?メモリを読むとか、数も分かりやすいし、僕は好みだけど。」


 「そっか...度数分布はまだ難しいかもしれないけど、ただの棒グラフとかなら大丈夫そうよね。アンケートとかの結果をまとめるとかでならアリかも。こうやって、りんご、みかん、とかでグラフにしていくの。ヒストグラムだとそこら辺が難しいと思うから単発のやつで。もし扱うなら、他のグラフもやってみない?」


 「他の?興味ある。」


 「折れ線グラフというものがあるの。こんな風に点を繋いでいく。」


 「日々の変化がわかりやすそう。例えば、身長とか。」


 「さすが、グラフにはそれぞれ得意とするデータがある。それを間違えちゃいけない。折れ線グラフと棒グラフを重ねたグラフも存在するの。」


 「重ねた?」


 「雨温図と言ってね。降水量、雨の降った量と気温、温かさを数字にしたものを重ねるの。右側と左側でメモリを変えるのがポイント。」


 「降った量?どうやって測ったの?」


 「おそらくは器かなんかを置いて、高さを測ったはずだよ。」


 「成る程ね。気温は?」


 「固有能力者か誰かいないかなぁと思うんだけど。水が凍る点と沸騰する点をメモリで分けたものを用いたそうだよ。」


 「いくつで分けるか、ね。」


 「そう、それが分からない。貴方に私は余りが出ても割り算し続ける方法を教えなくちゃいけない。それを利用して、割合、1あたりの数も教えたい。けれど、どう数を扱ったら良いのか。」


 「姉さんの思う通りでいいと思うけれど。」


 「そう、そうね。それが、どんな矛盾をあとで引き起こすのか分からないのだけれど。とりあえずは見切り発車ね。ふぅ。」


 「平均だけど、少数第二位まで求めて貰うわ。いつものあまりから、更に割る。1の位の後に印として点を置く。そして、そのあと二桁の商が出るまで計算してほしいの。手本ができない私に言われても困ると思うけど。」


 「いいえ、大丈夫。そこまでのヒントがあるなら僕でもできる。僕が考え方を確立させる。それが僕の仕事だ。」


 「ありがとう、じゃぁ足りない。まずは、そこまでを頼む。それがうまくできたら次の段階に移る。」


 「姉さんの方は?報告書は大丈夫なの?」


 「えぇ。これくらいは何とかしなければね。これまでやってきたことの記録と計画、そしてテストの結果分析を用いるつもり。この計画の最終目標はそれぞれが研究できること。そこには報告書や論文も含まれる。私ができなくてどうするの?て本になるくらいでないと、そうだ!何とか書き上げて、次の国語の教科書に掲載しよう。」


 「それはいいね。仕事が一つ浮く。何なら、今回の父上のアレも掲載しようか。まだ、見ていないから出来も分からないけれど、どちらにしても参考の一つにはなるでしょう。」


 「賛成。お父さまの丸付けはお願いするわ。あとは、そうね。教科書なんて全然できてないものね。うーん......。次から始まる教科については難しいからねぇ。」


 「はあぁぁぁぁ。国語Ⅱ、算数Ⅱ、研究基礎Ⅰ、文法Ⅰ、地理Ⅰの教科書、図形Ⅰ、加えて算数、国語、文法、図形の問題集、お楽しみ講座Ⅱ、現在教えている科目の教師用教科書、問題集の解答一覧、テスト作成、テスト丸付け、テスト結果の分析、次回授業計画作成、導入用のゲーム作り、挙げ句の果てに報告書?どう考えても過労に決まってる。休んでたらいいときも、勝手に仕事を増やして......。僕が請け負うのは算数Ⅱに算数Ⅱの問題集、教師用の教科書、問題集の解答一覧の作成と、テストの丸付けの指揮にテスト結果の分析、テストの作成。あとは、できる範囲で僕が授業計画を策定する。なんなら授業は僕がやってもいい。姉さんにしかできない仕事は沢山ある。だからこそできることは任せてほしい。確かに、未熟で任せられないかもしれないけど、良い加減、人を頼ることを覚えてよ、姉さん。」


 「頼ってるよ?だから、丸投げなんてしているんでしょう。」


 「それを、頼るって......、仕事を振り分けることとは違うでしょうに。」

 (その程度を、頼るだなんて。本当は倒れてもおかしくないのに。なんで独りで背負うのをやめてくれないんだ。それで独りで背負っていないつもりなのか。教える側にまわれないのは分かっている。精神的にくらい頼ってほしい。少なくとも、頼らせてあげられるような余裕のある人でないと、姉さんは壊れてしまう。)


 「そうだろうか?でもね、過労には入らないと思うよ。夜はゆっくり眠っているのだから。」


 「はぁ、それは休んだうちに入らないよ。無理になったら言ってね?いや、無理矢理にでも休ませるから、その時はいうことを聞いてもらうよ。いいね?」


 「それは時と場合によるかなぁ。」


 「姉さん!!」


 「わ、分かったよ。大袈裟だなぁ。」


 「はぁ。約束だから。」

 (早急に、講師を育成しよう。良い加減、次に向けて動いてもらわないと。)

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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