UNOの衝撃
パトリス一行が扉の中に入ると、結果発表が行われていた。
入ったときはクラリスに睨まれたものの、後ろで黙って立っているならよし、と入室許可が出たのだった。
「パトリス、この数ってどれくらいすごいの?」
クリストフがこっそりとパトリスに聞いた。
「これは、私の最高記録くらいですが、領内でやると上位7位以内に入るのは難しいでしょう。ここでの1位ならば、領内上位7位に入れるかもしれませんが、毎度変動しますから。」
「へぇ。さっき、計算は数えるのを数えないでやってると言っていたけど、それは数えても答えは出るということだよね?数えていたら、どのくらいの順位だと思う?」
基準がわからないクリストフは試しに聞いてみた。
「数えても答えは出ます。しかし、考えるまでもなく最下位でしょう。数えてやるよりも速いというのが利点ですから。」
「!??つまりは、領民全員数えるよりも速く計算するということか?」
驚いたアンドレが確認をした。
「そういうことです。」
唖然とするとはこのことだ。
まさか、それを1年もかけずに行うとは。
文字すらも扱えなかった平民が?
信じ難いことである。
しかし、実際は1年以上かかっている。クラリスが領内にカードゲームを広めた時から、無意識のうちにありえない数の反復を重ねていた。努力と感じていなくても、反復回数、それだけなのだ。
「さて、上位陣にはUNOを贈呈。それ以外はこっちのカードで17(**)をつくる練習をしていなさい。これの回数が来年の計算に繋がると私は睨んでいるわ。まぁ、問題集を解きたい人はそうすることを許可するし、年賀状コンテストやそのほかのことも構わないわ。では次回まで、解散!!」
クラリスの言葉で自由に動き出した、というのはいつものこと。
今回は見たことがない人、明らかに貴族、そして推測するに国王と超高位貴族。
先日、呪いの言葉を繰り返した相手、国王だ。
戸惑うなという方が無理な話だ。
「やあ、俺はクリストフ、隣が、アンドレ、エリク、ユーグだ。今日はいないものとしてもらって構わない。俺は伯爵と夫人以外には話しかけないから。本当は聞きたいことはいっぱいあるが、皆がやることに興味がある。それを妨げては私の目的が叶わないのでな。」
いくらそんなことを言っても、動けるはずがない。
それが建前で、裏があったらどうする?と考えるはずだ。
しかし、ここは普通ではない。
その言葉で一斉に動き出した。全員が彼らを無視している。
「よし、ここでUNOやるからな。」
「私たちはここで。」
「次のために17(**)やる奴いねぇ?」
「俺やるわ。」
声が飛び交い、それぞれが丸くなって座っている。
他にも自由にしている人たちが多い。
クラリスがパトリスに近づいてきた。
「パトリス、この状況どうしたらいいのかしら?というか、彼らはどうしたいのかしら?」
パトリスは重大なことを思い出して震えた。
「そうだ、クラリス、セシルに婚約の誘いがあるのだが...」
「なんですって?どこの家から?」
他の貴族王族をまる無視して会話を続ける。
「アズナヴール公爵のところの長男だそうだ。結婚後の研究の自由やその他は些細な問題だと思うんだ。」
「えぇ。公爵のところのお子さんならいい相手なのでしょうけど、ノエルの判断基準はわからないからなんとも......」
「あぁ、最も怖いのはノエルだと思う。」
「この手紙、セシルが受け取って返してくれると思ったのだけど。」
「へぇ?この手紙を書いたのが例の息子さんですか。」
気付かぬうちに、エリク、アズナヴール公爵が後ろから手紙を覗き込んでいた。
「これがまだ2歳に満たない子ども?ふふっ恐ろしいものだ。エマールにしては珍しく貴族社会に適応しそうな子ではないか。まぁ、私の息子である以上、そのノエル君?に認められるレベルでないとね?」
笑顔で公爵は手紙をよんでいた。
「では、うん。そうしよう。私と息子でこの社交シーズンが終わったらエマールの屋敷を訪ねます。その時、顔合わせをして、良さそうなら婚約ということで。よろしく。」
公爵は笑顔で立ち去っていった。
「決定事項か?」
「決定事項のようね。でも、ノエル同席が認められたならひとまず、問題ないのではないかしら?」
「そうだね。」
エリクはUNOをやっている集団を見に行き、クリストフは交換日記を楽しそうに読んでいる。ユーグは年賀状のデザインを研究しているのが気になって観察していた。
「パトリス、あの4人で集まっているのはなんだ?先程UNOと言っていたようだが。」
アンドレが尋ねた。
「えぇ、ゲーム、遊びの一つです。ああいう、小さな紙で遊ぶ遊びをカードゲームと呼んでいますが、今日の今日まで秘匿されていた私には残念ながらルールがわからないので、クラリスに聞いてください。」
恨みがましく、自分だけ知らなかったことを強調した。
「はぁ。えぇ。UNOというのは初めに7枚ずつ配られたカードがなくなった人が勝ちというゲームです。手に持っているカードを手札、裏返して重ねられているカードを山札と呼びます。順番に山札の隣にカードを出していくのですが、前に出されたカードと同じ色か同じ数字または記号を出すというルールがあります。もし、手札にカードがなければ、山札の上から1枚カードを引き、そのカードが出せる状況なら出す、出せなければ手札に加えるのです。つまり、なければ手札が増え、勝利が遠のくということですね。他にもルールは色々あって、例えば、手札が1枚になる時に"UNO"と宣言しないとルール違反でカードを2枚山札から引かなければなりません。記号にはそれぞれ効果があって、次の人をとばす、つまり次の人は出すことも引くこともできないというスキップというカードや、順番は丸を描くようになっているのですが、その方向が逆になる、リバースなどがあります。ドロ2というカードが出ると次の人は無用でカードを2枚引かねばならず、黒に4色あるカードはいつでも出せる上、次の人が出す色を指定できます。最強はドロ4というカードで色が選べる上、次の人に4枚カードを引かせる、凶悪なものです。」
「なるほど。その、記号って奴がたくさんあった方が強いのだな。」
「いいえ。最後の1枚は記号ではいけないというルールがあります。」
「つまり、記号だけでは勝てないと。」
「はい。」
「運が大事なのか?」
「いいえ。確かに運も大事でしょう。しかし、これは策謀なのです。例えば、"UNO"を宣言した人がこれまで、何色が出た時に山札からカードを引いたのかを覚えていて、自分の手札の中に色を指定できるものがあれば、上がらせないことができます。」
「そうか。相手の手札を予測する、と。面白いじゃないか。となると、相手の顔色、何を出した時に、山札を引いたのか、逆に手札にあっても出さないって手もあるな。後で、試してみたいのだが。」
「えぇ。1ゲーム終わったら私に返される予定です。その後でしたら、そちらの皆様で遊んでは?」
「お言葉に甘えさせてもらおう。」
アンドレは楽しみに待っていた。