閑話: 能力試験
お久しぶりです
思ったより長くなってしまったかも。
「つまり、専門家チームを組めと、そうおっしゃるので?」
ノエルが尋ねると、アズナヴール公爵は頷いた。
「ノエル、任せても大丈夫?」
セシルの言葉にも、「任せて」とそう言ってから、アズナヴール公爵に向けて言った。
「長期間、領地を離れて、指導を行う、ということで間違いありませんか?」
「その通りだ。」
その言葉に、ノエルはすぐに名前を羅列していく。
「でしたら、まずは父と、母はこちらに残しておくとして、力担当にイーヴを。そして、エマをつけます。セルジュはこちらでエマール領のために働いてもらうとして、あと、10人ほどはつけましょう。」
「素早いな。さすがだ。」
感心したようにため息を漏らして、アズナヴール公爵はいった。
「これくらい、当然です。」
「ふむ。やはり、有能だ。伯爵とは別の方向に。」
「父のようにはいきません。領地運営も、父と母が中心として、運営をちゃんと回しているのは、私ではないので。」
セシルは、そんなノエルをぼーっと眺めた。
(……ノエルは人を使うのが上手い。本当、色々と任せすぎているからかな……嬉しいような、申し訳ないような。)
「社交シーズンが終わったら、すぐに行ってもらうことになるから、通達と色々と頼む。」
「承知しました。」
ノエルは静かに頭を下げた。
「では、今日はこれで。また近いうちに会いましょう。」
さっくり、言って、去っていく。
♦️♢♦︎
「いいの?エマもイーヴも重要な人材でしょう?」
セシルが問いかけると、間をおかずにノエルが答える。
「重要な人材だからこそだよ。いい機会だから、彼らに頼りきりの人たちに気合を入れてもらう。」
「なるほどね。もう、私よりずっとノエルの方が理解してるね。」
「なんか、ダメね。ダメな姉って感じ」、セシルがぼやく。
「それこそ、姉さんだけに頼ってられないからね。1人がいなくなって回らなくなる組織というのは健全じゃない。そういう意味では、うちのシステムはすごく綱渡りだ。人材も他所から連れてきてるし、持続可能ではない。」
「どこでそんな言葉覚えてきたの?」
「だからこそ、僕たちは人材の教育に力を入れている。きっと、彼女のもその一環じゃないかな?」
「無視した? というか、このサロメさん?は最終的には王女殿下の側で働くそうだよ? うちで教育したって方向性、違いすぎない?」
「そうでもないと思うよ?」
ノエルは、サロメを掴んで、セシルと一緒に浮かばせた。
Pは放置だ。
「うちでやることは基本的な事務作業。向こうでの仕事はよく知らないけど、ここで十分働けるのなら、事務処理能力では全く問題ないよ。それに、固有能力についてもうちでは研究が進んでる。その扱いについても教育は付随するだろうから、向こうとしては願ったり叶ったりじゃないかな? 自分たちも把握していない固有能力の使い方をマスターしてる部下、貴重だよ。」
「そういう視点があったのか。まあ、別にいいけど。使えるものは皆使う。あなたに一任していい?」
「勿論、彼女に僕みたいなガキに従うつもりがあるなら、だけど。」
「そこら辺は、大丈夫だと信じたいな。きっと。」
セシルは困ったように笑った。
「それに、姉さんもわかってたでしょ? 彼女を預けられた理由。 …僕を試すためにわざと惚けなくたってさ。」
「ありゃ。試してたのバレちゃった? けどね、ノエルは私を買い被りすぎだよ。私はノエルやレオンさんとは違う。ただの凡人だから。」
口癖のように凡人と言っているのに文句を言おうとして、口をつぐんだ。
「さて、そろそろ、サロメさん、起きるかな?」
♢♦︎♢
私はすごく困惑しています。
例えば、招待されたお茶会に出て、見知らぬ小さな子に連れられて、強制的に運ばれた先で第一王女殿下が優雅に見下ろしてる。そんな状況、あり得ないでしょうっ!?もう、恐ろしい、尊敬、厳か、恐ろしいっ!
そして、気づいたら恐ろしい速度で話が進み、困窮している我が領地を助けてくれるらしいことが決まり、その代わりとして、私に王女殿下に仕えるようにということらしい。
正直、こんな幸運ずくめで、殺されないか心配でなりませんっ!
王宮なんて、死がどこに潜むかわからない怖いとこ。そんな怖いとこに連れてかれるのは、正直いやだけど、家族と領のみんなのためなら、苦じゃない。なにより、普通に、これは、出世です。嫉妬で殺されないか、心配……。
やっぱり怖いのは何より死ッ!
震えていると、どうやら、私を運んだ子どもの元でなにか、勉強?するようにって王女殿下に命じられた。この子?全く顔も知らない子だったけど、どうやら、伯爵家のご令嬢らしい。ひぃぃぃ!高位の方じゃないっ!
エマール伯爵家……社交界ではいい噂は聞かないけれど、どうやら領地を救ってくれるのは直接的にはこの家の方らしいし、王女殿下が懇意にしているなら、噂のような家柄ではない、と信じたいっ!というか、うちに擦り寄っても何も出ないから、あんまり意味ないし。
そうこうしているうちに、馬車に乗せられて、エマール伯爵家の邸宅に連れて行かれた。
邸宅について、使用人の方が誰ひとりとして迎えに出てこないことを不思議に思って、変な声が聞こえたり、なんか浮いている男の子がいたりと、意味不明な状況に耐えられなくなったのか……
気づいたときにはベッドに寝かされていた。
「!?」
どういうことっ!?
「サロメさん。気が付きましたか?」
たたたたた……えぇぇと、確か、セシル様?
「はい。」
つまり、勝手に人の邸宅で意識を失った挙句、伯爵令嬢のベッドで寝こけてた??
「大ッ変!!申し訳、ございませんでしたぁぁぁぁ! このご無礼、この、私の粗末な命で寛大な御心で許してください。……そそその、家族と、領のみんなの命だけはぁ、その、」
即座に土下座で謝罪した。
これは命を差し出さねばならない案件では?
「!?落ち着いてください、ええと、その、なんか、すみません。落ちついて、頭あげて。」
「いえ、その、そんな権利はこの私にはッ」
そう言うと、セシル様は大きくため息をついた。
もう、家族の命、消えた?
「面倒だから頭あげてって言ってんの。………えーーージャナイト、家族ノ命ガアブナイヨ?」
家族の命ッ!!
仕方なく頭を上げると、目を大きく逸らしたセシル様がいた。
「ええと、まず、命は取りません。そんなことしたら、私が王女殿下に殺されます。というか、人手不足の最中、貴重な働き手です。死体は仕事できないので。そんな無駄なことはしません。」
なんか怖いことを言ってますが、とにかく私を殺すつもりはないらしい。
「というか、あなたの家族も領民も、探し出して殺すほど暇じゃありません。面倒です。」
家族も領民も無事らしい。
けど、大事にされたわけでもないらしい。
「そして、……大変申し上げづらいのですが、あなたが先ほどまで意識を失っていたのは、私のせいです。ですから、特に罪悪感を覚える必要はありません。むしろ、すみませんでした。」
え?
気絶、させられてたの?
命の危機は去ったはずなのに、なにか、とても怖い。
「さて、王女殿下からの指示通り、あなたに教育を施す……言い方に違和感あるけど、とにかく、まずはウチで働けるようになってもらいます。」
「あ、はい。」
「私は紹介があった通り、セシルと言います。好きに呼んでください。そして、こっちが弟のノエル。基本的にサロメさんは、ノエルについてもらうことになります。」
「ノエルです。よろしく。」
「ノ、ノエル様?」
意識を失う前は彼、浮いてたような……いや、気のせいだろうな。今は椅子に座ってるし。
「ノノエルではなく、ノエルです。これでも、相当仕事できますので、頼りにしてます。実質、色々やってるのは彼ですから、多分、私よりできる。天才。ほんと、すごいから。かっこいいし、仕事できるし。」
「姉さんは僕を何だと思ってるの?」
「天使」
よくわからない会話が目の前で交わされているけれど、とにかく、ノエル様につくことになるそうです。
「さて、起きてすぐ申し訳ないけど、現状把握がしたいから、テストしてもらおうか。」
「テスト?」
「そうそ。紙に問題書いてあるから、読んで、答えて。机と筆記用具、問題はそっちにあるから。あとはノエルに聞いて。じゃ、頑張ってね。」
セシル様はそう言って、別の机に向き直って、作業を始めてしまいました。
「じゃあ、サロメさん、始めようか。」
「はい。」
机に座ると、紙が渡された。
そして、目の前によくわからないガラス製品が置かれた
「時間制限は……この入れ物に砂入ってるのわかる?」
「はい。」
「これを逆さにすると、砂が落ちるでしょ? その砂が落ち切ったら終了。そうでなくとも、もし、全部終わってしまったら言って。そしたら、その時点で終了とします。」
よくわからないけれど、砂が全て落ちたら終わりらしい。
「問題内容は、実力がわからないので、適当に見繕いました。文章問題中心です。質問があれば聞いて下さい。」
「はい。」
「準備はいいですか?」
私が頷いたのを確認してから、ノエル様は始めますと静かに言った。
よかったー
ちゃんと間に合いましたぁ。
新キャラ: サロメ
ちゃんと馴染んでくれると嬉しいなぁ。
ノエルに対する試験とサロメに対する試験についてのお話でした。




