表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/216

新人教育

遅くなりましたっ!

よろしくお願いします。

 あの後、正式な指示書を受け取り、男爵令嬢と一緒に伯爵家に送り届けられた。


 『……最初からそのつもりで私を連れていたんだったら、もっと適当に相手の判断すりゃよかった。』


 念話で私は瑞稀に愚痴っていた。


 『嵌められたな。お主はそういったところはまだまだ疎い。』


 『瑞稀、気づいていたなら言ってよ。』


 『別に完全に理解していたわけではない。お主に言っていた依頼は本当の依頼ではないと察していただけだ。』


 一緒だろう、と思ったが、それはそっと胸の中にしまった。


 隣を見ると、震えている男爵令嬢-サロメといったか-がいる。


 王女殿下は「教育は任せます。年初めの夜会までは伯爵家に滞在すると通達を行いますから、それまでに教育して使えるようにしてください。方針もお任せします。そちらでの事務作業や会話ができるようなら十分に戦力になりますので。」とか言っていた。さらに、「それをお任せする代わりに、年初めの夜会以外の社交の一切を免除します。」と付け加えた。


 でもさ、エマール伯爵家は最初から年初めの夜会以外出る必要ないんだからさ、詐欺にあったようなものだよね?


 ほんと、タチ悪い。


 かといって、国から出ていくのはそれはそれで面倒。

 独立するのは色々と都合が悪い。


 そう考えると、やらざるを得ない。


 「サロメさん、とお呼びしていいですね。」


 「は、はい。」


 内気なのか、人見知りなのか、警戒心丸出しだし、なんかキラキラした目を向けてくるし、耐えられない。

 はっきりしないやつは面倒なんだ。


 「固有能力は?」


 「え、えっと……『チシツチョーサ』です。」


 チシツチョーサ?

 私が記憶していないものか。


 「どういう能力ですか?」


 「ええ、っと、種をどこに植えたらいいのかわかる?もので、珍しいものじゃなくて、いや、貴族だと珍しいんですけど。」


 「農業系、そして、種を植える場所、土……つまりは『地質調査』か。」


 父が喜びそうな力だな、と一人考えながら、作業場へ誘導する。


 「ああ、あの、使用人の方は……」


 (伯爵家なのに使用人さんが1人も迎えに出てこない? それって、やっぱり、ここも厳しいのかな……。なのにうちに支援なんてしていて大丈夫なのでしょうか…。でででも、王女殿下は…信じられるお方ですし……。とはいえ、エマール伯爵家、社交界ではいい噂の聞かない家、そこと王家が懇意にしているとは……。)


 「今頃は、休憩中ですね。この時間は手が空きますし、皆がまとまって休み取れるのはこの時間くらいでしょうし、それならば、勉強中ですかね…」


 「おおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」


 唐突に、太い声が伯爵邸を震わせた。


セシル: 何が起きたの?

楓: セシルの父が発狂した。

佐助: Pをハブってテストをしていたのを発見したらしい。


Pとはパトリス=フォン=エマール、父のことである。

Chatでは省略されがちになる。


 「姉さん!」


 「ノエル、どうしたの?こんなところで。」


 目の前に現れた弟に驚いて尋ねた。


 「姉さんが帰ってきたって聞いたから、来たんだけど。今の奇声なに?」


 「父が発狂した。理由は、察しの通り。」


 「そっか。というか、なんで見つけちゃったんだろ。」


 察しの通り、という説明で通ってしまう。


 「……余程のことがなければ見つからないはずなんだけどな。」


 ふと隣を見ると、サロメさんが固まってる。


 何か固まることありましたか?


 「とりあえずは、そちら向かおうか。ノエル、お願い。」


 「わかった」


 ノエルは頷いて、私を浮遊させた。


 「そっちは?」


 サロメさんを見て尋ねた。

 きっと、佐助か楓あたりが情報共有したんだろう。


 「連れていく。」


 ノエルが生まれてすぐから無意識に使用していた魔法は、正確には重力操作の派生であったことが判明している。

 使用方法などは特殊すぎて研究中で体系化できておらず、同じことをできる人はいない。

 だが、魔法の訓練などを経たノエルは、自分と触れたものだけでなく、ある一定範囲内の無生物ならば触れずとも浮遊させることができるようになり、抵抗しなければ、生物もまた浮遊させることができるのである。


 閑話休題。

  

 「……ちょっと、抵抗が強い。」


 サロメさんを浮遊させようとしたノエルがそう呟いた。


 『ふむ、魔法抵抗が強いのだろうな。』


 瑞稀がそう念話で伝えてきた。


 『どうすればいい?』


 『気絶させれば問題なかろう?』


 気絶させれば、基本的に抵抗は不可能になるらしい。


 そう聞いた私は、彼女に回り込んで気絶させた。


 「ごめんね〜」


 サロメさんが倒れる前にノエルが浮遊させ、床に激突は免れた。

 そうでなくとも、支えたが。


 さて、行こうか。



 そして、向かった先にいたのは、アズナヴール公爵とPこと父だった。


 「おお、セシル嬢にノエルくん。今日はレオンは社交に出ているよ。」


 聞いてもないのにレオンさんの予定を話さなくてもいいんですよ、公爵。


 「……あぁぁ。」


 ノエルがため息をついた。


 「最初からノエルくんにお願いした方がよかったかな?」


 アズナヴール公爵は笑顔で言っていた。

 対照的に、漫画のテンプレのように四つん這いになって落ち込んでいる。


 「で、隣にいるのが、例の子かな? ……気絶してるみたいだけど。ならば、セシル嬢、もうわかっているね? 陛下にも直接確認したようだし。」


 うわ……情報早い。

 まあ、Chatがあるから当然だけど。


 「新人教育の件についてはセシル嬢に一任ということだが、それ以外、主に、専門家の招聘については彼に頼まなくてはいけなくてね……1人では嫌だと駄々を捏ねて、夫人を頼ろうとした結果……」


 見てしまったわけだ。

 1人ハブられてる場面を。


 「ノエルくん、ここで最も農業に詳しいのは誰だい?」


 「……なるほど、不作の地に連れて行って、農業指導に当たらせるつもりですか。……農業については、この領地で一番詳しいのは……父です。」


 「ほう? これは手っ取り早い。」


 わざとらしい。


 「知っていたでしょう?」


 ノエルもそう思ったらしく尋ねると、


 「確かに知っていたさ、彼の研究対象は農業だと。しかし、領地で最も優れているかどうか、ということまでは知らない。」


 白々しくそういった。


 「まあ、1人では心許ないから、チームを編成してもらうことになるな。」


 公爵はニヤッと笑って、こちらを見た。


 「さて、ノエルくん。伯爵が使い物にならないようだからね、君に頼むよ。」

哀れ、伯爵。

ドンマイ、けど、学習した方がいいぞ、伯爵。

きっと、次も、ハブられてる、伯爵。



5月21日は「魔女の弟子と劣等学級」更新予定。

ちゃんと予約してます。興味あったらこちらも読んでみてください。

「ラッキー7」の更新は未定。


(記: 5月30日21:15)

「ラッキー7」は6月1日に更新予定です。

5月31日は「魔女の弟子と劣等学級」の更新となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ