斯く斯く然然?
はぁ、はぁ、な、なんとか書き上がりました。
まさか、前日に急いで書くことになるとは……。
と、とにかく、書き上がってよかった。
「まあ、突然こんなこと言われても困ってるだろうし、とりあえずは座ってくださいな。」
そう言われてしまえば、座らざるをえなくなってしまい、王女殿下のお願いを詳しく聞いて協力しなきゃならなくなるとわかっていても、そうせざるを得ない。
にこやかに言われても、その笑顔に絆されそうになっても、そのお茶会が連想されてしまう以上、穏やかにいられない。
イザベル様が腰掛けた隣に促されて、王女殿下とは向かい合う。
正直、マナーは一通り嗜んではいるものの、普段は、研究者たちとの雑談ほか会議であるから、行儀が悪いので、少し緊張する。足を組んでしまいたくなるのを我慢して、姿勢を正した。
「改めて、私はエナム王国第一王女のエミリエンヌ・フォン・エナム、イザベルさんの義妹になる女よ。」
「……」
尊大な自己紹介に私は硬直した。
前半部はいい。
まあ、尊大なのも王女だし、偉いし。
ただ、後半部はどうなんだろう。
イザベル様の義妹になることにすごく力を入れているように感じた。
これはスルー案件だろうか。
間違いないな。
あれだ、
There's no question that ~.
ってやつだ。
そうか、こういうときに使えばいいのか。
そんな現実逃避をしている中、イザベル様が突っ込む気配をみせない。
これは、試されているのか?
私は非常に困惑していた。
これが公式の自己紹介でいいのか、と。
ふと周りを見ると、イザベル様がこちらを見ていた。
王女殿下も私を見ていた。
……そうか。
これは自己紹介を返さなければならないのか。
「はじめまして。セシリア・フォン・エマールと申します、……」
なにか、言わなければならないのか。
笑いをとりにいかねばならないのか。
これでいうと、『〇〇になる女です。』と言わなければならないような気がする……。
でも、何になるのかと言われると困る。
もう既に働いてしまっている以上、将来の夢というのも変だし、強いていうなら……。
「……け、研究者の育成を手掛けるようになる女、です? 」
熟考の末に、語呂の悪い答えをしてしまった。
〇〇に当てはまるのは体言にならなければならないのに……。
王女殿下とイザベル様は目を見開いていた。
あ、やっぱり、よくなかったですよね……。
「ふふっ、私はイザベル・フォン・アズナヴールです。そうね、王子妃になる女ですよ。」
イザベル様は朗らかに笑って、そうおっしゃった。
そうか、礼儀の本とかには書いてなかったけど、親しい間柄とか、身内なのか、それとも密室なのか、こういう自己紹介するのが暗黙の了解なんだな。
次回までに、語呂の良いものを考えておこう。
「さて、本題に入る前に、先日は固有能力に関する情報提供と、教会での作業、ご苦労様でした。」
そう、先日、エマール家に近しい家の貴族の人たちに固有能力のチューニング及びインストールを行なった。
流れ作業だった上、彼らもお忍びだったので、顔を合わせておらず、初対面にはなったが、衝立越しにはあっているんだよね。
本当に疲れたよ。
ご苦労様だよ私。
「いえ。」
「使い方はまだ慣れないけど、便利なものね。今のところは家族の間でだけ使っているわ。」
そうなのか。
まあ、家族間でチャットも便利だけど、本来の力を発揮するのは、遠くにいる相手とだから、まだ真価は見えていないのかもしれない。
とはいえ、前世でも、別の部屋にいる誰かを呼び寄せるのにとても役に立った。
……そのせいで、家族のチャット履歴が「ごはん」「ごはん」「ごそん」「ご」……となっているのはご愛嬌だ。
まあ、それを言っても良いのだけど、いつでも呼び寄せられるのは勘弁だから、ここでは黙っておくのが得策かな。
「せっかくだったら、私やセシルさんとチャットできるようにしませんか?」
そんなことを考えていたらイザベル様が笑顔でそんな提案をしてしまった。
チッ……。
「……血が繋がっていない者同士でも可能なのね! だったら、もちろん! というか、今、一瞬嫌そうな顔してたような……。」
「気のせいです。」
向かいに座っている王女殿下がそう尋ねそうになったのを食い気味に否定した。
「そう? 」
「気のせいです。」
何事もなかったかのように振る舞った……はずだ。
これは連絡可能時間帯を厳格に定めなければ、貴族からいつまでも離れられないぞ。
というか、なぜ血が繋がっているか否かの話になっているのだろうか。
「国王陛下に血の繋がっている家族のみでとお聞きになったのではないですか? 」
イザベル様がそう尋ねた。
「そう、そうなの。」
は?
……私、そんなこと一言も言ってないし、なにより、国王陛下とも連絡先交換したし。
「私も父に、アズナヴール公爵にはそう聞いたのだけれど、後で愚弟に聞いたら、別に誰とでも構わないと交換方法も同じだと教えてもらいました。愚弟は、セシリアさんとも、連絡とっているようでしたし、元魔術師団長のブルナン殿とも同様に連絡をとっていることが確認できました。」
ん?
……つまり、アズナヴール公爵と国王陛下が嘘吐いてると。
「は? どういうことよっ? 」
そう大きな声で言った王女殿下は、自らのこめかみに手を添えて、目を閉じて集中しているように見受けられた。
……チャットを送っているのだな。
私はもう慣れたものだが、初期は集中して使わないとチャットを送るのは難しい。特に、チャットというものに全く触れたことがないと、どういう感覚で使えば良いのか含めて難易度が高く、慣れるまではそうやって使っていた。尚、画面があればそこまで苦労する必要はない。
王女殿下はふっと目を開けた。
「とりあえず、苦情は父に送ったわ。……それで、イザベルさんのことだから、これで終わりじゃないと思うのだけど。」
相当ご立腹らしいが、咳払いして落ち着いてから、イザベル様に尋ねた。
「はい。母も同じような説明をされていたそうで、一緒に父を絞りました。こってりと……ね? 」
なんか、笑顔が怖い気がするのは気のせい……だと信じたいな。
「さすがっ!」
王女殿下もそれでいいんか。
……私の中での王女のイメージが崩れ去っていくような。
幻想を私が抱きすぎていたんだね。うん。悪いのはきっと私だ。
「……父親の嫉妬的なものが理由でした。どうやら、私が婚約者と頻繁に連絡をとるようになるのが寂しかったらしいです。」
ああ…………(察し)。
「後ほど私も絞ることにします。」
「ぜひそうなさってください。」
2人が笑顔で頷き合っている横で、虚空を眺めてしまったのは、致し方ないと思う。
なんか、娘妻のことになると急にIQ下がんのかな。
次回もちゃんと更新できるように頑張るっちゃ★
↑作者は半分頭がおかしくなりつつある。重症。
本日、13時から数時間おきに別作品を投稿します。
読んでくださると嬉しいです。




