結局のところ…
「問題なさそうだったぜ。」
「ありがとう、それはよかった。」
佐助が天井から現れてそう言うと、セシルは安堵の溜息をついて、肩の力を抜いた。それを見て、瑞稀は呆れたようにセシルを見た。
「別に不安になることじゃなかろうて。大丈夫だと言っておったろうに。」
「そうは言うけどさ、いくらなんでも国王陛下に対する態度じゃないよ、あれは。報告を敢えてせずに、無理に魔法契約を結ばせ、あまつさえ、別勢力と手を組んでますなんて。国家反逆罪かなんかで収監されてもおかしくない。勿論、脱獄するけど。」
顰めっ面で瑞稀に文句を言った。
この日セシルは固有能力に関する秘密やセシルの特殊な事情、亜人たちとの交流などを国王や公爵など国の要人たちに打ち明けた。
「いくら、私が罰せられたりしないようにと瑞稀が考えてくれた策を使ったところで、問答無用で捕まえることは不可能じゃないし、あくまで私と仲良くしてる方が利益があるでしょと暗に提案しただけ。それも、相手がその利益に気づいてくれなきゃおしまいだし。」
セシルはここぞと不満と不安を爆発させると、瑞稀が笑い出した。
「そりゃそうじゃろうて。だが、エマール伯爵家が生きている時点でこの展開は予想通りじゃろう。」
エマール伯爵家は研究者気質の変わり者が99.9%を占める貴族としては異質な家である。
エマール伯爵家は他の家に比べて多くの税を国に納めることで、社交免除(年始の夜会を除く)を国王直々に許されている、功績だけならばとうに公爵になっていてもおかしくない家柄であり、そして彼らはそれを自覚していない。
セシルは国王への対応を失礼なことをしたと自覚しているが、彼女の父であるパトリスは説明の必要があるにも関わらず、王城に伺うこともせず、仕方なく国王陛下及び公爵たちが伯爵家に伺うという異常事態を起こしていた上に、国王に対して敬語を使う気もなかったところ、自ら報告に向かうことなど全く考えていなかったところから考えると、セシルの方がずっとマトモであり、セシルが処分(処罰)されるならば、とうに父親が処分されているはずなのである。
瑞稀はそれをわかっていた。
いくら、隠し事が大きくとも、エマール伯爵家ならば報告を怠っていて当たり前、国王などどうでもいいと思っている、そんなことが周知されている状況では、そもそも対策しなくても、セシルが処分される道理はないのである。
「お主が特殊だどうだという前に、結局のところ…『エマールだからな』という一言で終了じゃろうて。」
瑞稀の言葉が最も核心をついているといえるだろう。
そう、結局のところ…
『エマールだから』
それに尽きるのだ。
前世の記憶を持っているなど、そのおまけにすぎない。
「なんか、うっすらと馬鹿にされてる気配を感じるのは気のせいかな?」
瑞稀を見てセシルはそう首を傾げた。
(うっすらどころじゃねーだろ!!)
皮肉でもなくそう疑問に思っている様子のセシルに佐助は心の中でめちゃくちゃ突っ込んだ。
「まぁ、ともあれ。洗礼式の騒動も一件落着かな。明日には他の家の人たちに固有能力を入れなきゃだけど、それは心を無にしてやればいいんだし。私も無事固有能力ゲットできたってことで!!」
セシルは両手を上げて背中からベットに倒れた。
「めでたし、めでたし。」
セシルは満面の笑みで笑ったのだった。
♦︎♢♦︎蛇足♦︎♢♦︎
セシルは次の日、エマール家と懇意にしている家の人たちに固有能力を順番に調整して入れていった。
教会で順番待ちしてもらうのもアレなので、セシルが終わったあたりで、公爵たちに呼び出しの連絡を入れることで待ち時間を減らした。
ちなみに、この内容については既に通達がされており、教会で発狂するものはいなかったが、実際にはそれぞれの家で阿鼻叫喚の騒ぎだったらしい。起動方法などの説明はブルナンと先に固有能力を得ていた公爵たちが行った。
ちなみに、セシルの父と母や主要な使用たちにも固有能力を入れた。
教会でその場で説明すると、皆は驚いていたが、エマール家流石の順応性で受け入れた。そんなこともあるよね。
全ての作業が終了した頃には1日が終わりかけていて。
そんな頃にセシルのチャットに1件通知が来ていた。
『テストで本当に"テストメール"って打ってくる人ってなかなかいないわよ?洗礼の時も思ったけど、面白いのね。楽しみが増えたわ。』
女神からの返信である。
これを受けてセシルは、
「別に普通でしょ」
と発言していたとか。
セシルは今日の出来事をとりとめもなく書き留めて、なんとなく女神のチャットに送った。
返事が返ってくるのはいつだろうか。
全ては女神様の気まぐれ次第。
洗礼受託編完結!!
物足りないと思った方もいるかもしれませんが要点は書いたのでここらへんにしようと思います。
次の投稿からは〇〇○編です。




