閑話: セシリア・フォン・エマールの処遇
怒涛の報告会と教会での固有能力追加を終えて、カステン辺境伯、アズナヴール公爵、パルテレミー公爵、そして、国王は執務室で密談をしていた。
「これをどう思う?」
「これとは、具体的に何をさしている?俺には思い当たることが多すぎるのだが。」
カステン辺境伯は困ったように言った。
あの会議の後、一行は教会に移動して、教会の奥で固有能力のセッティングをおこなった。
「…たしかに、新しい情報が多すぎる。」
「それにしても、この固有能力の使い勝手は良すぎる。…私としては、ここまでをこちらに報告しなかったレオンにも言いたいことはあったが、これについては知らなかったようだしな。」
アズナヴール公爵はそう言う。
「あぁ、うちの領地での異変をすぐにクリストフに伝えられるのは国防の面でも有利だろう。」
辺境伯は国防の観点から利点を話す。
教会で、セシルが複雑な機材を当たり前のように扱いながら、指を器用に使って、なんらかの調整を行ない、思っていたよりもずっと早く、固有能力を増やすことに成功した。
「『入れる能力が決まっていた上に、少なかったので、容量についてもそこまで考える必要がありませんでしたし、調整も実用範囲で問題なく使える程度で、荒削りなので。』と当たり前のように言っていたが…実際のところ、なにをしていたのだろうな。」
パルテレミー公爵は言った。
「アンドレが言うのは道理だ。だが、少なくとも、流れていく文字は私には読めなかった。技術の習得に時間がかかるのは確かだろう。」
アズナヴール公爵は横から画面を覗き込んでいたらしい。
「俺としては、エマール伯爵家が重要事項を報告しないというのは今に始まったことではないからいいんだが、エリク、お前の息子は?」
「…それについては私も気になっていたが、なんらかの手段で口止めされていたと考えるのが妥当だな。だが、今回報告を行った際の様子を見るに、下手にこちらに伝言するよりも、自分だけでも把握しておくことで、内側から報告させるように促すつもりだったようにも見えた。」
「俺もエリクに同意するよ。あの様子だと、固有能力の件は、自分が洗礼式終わるまでは黙っていてほしい、とでも言われたんじゃないか?」
「どういうことだ?なんでそんな意味不明な期間…」
「ユーグ、お前も聞いていただろう?セシル嬢が発見したことにするなら、固有能力の詳細を公表しても良いと。つまり、彼女にとって一番大事だったのは彼女と繋がりのある種族の秘匿。それさえ守れれば、別にどうなろうと関係ないのだ。けれど、自分が洗礼式で固有能力を得る前だと、なぜその発見ができたのか、第三者がいないと説明がつかない。だからこそ、そのタイミングを待ったんだろう。」
「…なるほどな。」
カステン辺境伯はパルテレミー公爵の説明に納得した。
「…まぁ、今回のことでなにか処遇を変更することはない。…エマールは国の頭脳だ。そもそも、アレは好きに暴れさせておくのがいいと、当に結論が出てる。今回に至っては、セシル嬢の背後の勢力が不明だ。おそらく、技術的にも武力的にも勝ち目はないんだろう。」
国王はそのことだけは明らかにした。
「…私も同じだ。本当の問題は、公表していいと言われた固有能力の方だろう。国からの公式発表にするのがベターだろうな。」
そうしてセシリア・フォン・エマールの処遇は確定した。




