表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/216

救世主はここにいた…!

突然ですが、今回の更新が本年最後となります!

後書きにもお知らせがあるので最後まで読んでいただけると幸いです。


今回の更新は1話ですが、文字数としては2話分くらいあると思います。

楽しんでいただけたら幸いです。


(普段、大体3000字くらい。短いときは1000字、長いときは5000字。)

 このスライド、まぁよくできている。

 予行練習なしなのに、どんどん話が進んでいく。


 恐らくだけど、前世を記憶している者の存在を講義するために全員が共有して使っている講義用スライドだと思う。

 わかりにくい専門用語を排除しつつ、それでも必要な言葉は使った説明。


 とはいえ、ディスプレイを使えるようになったのが最近だから、昔は紙芝居かなんかだったのを作り直したんだろうな。

 閲覧のみになっているのもまたウマイ。荒らしが出ることを防いでいる。


 スライドが終了して、私は彼らに尋ねた。


 「…私が言うのもおかしな話ですが、不思議に思いませんでしたか?生まれてすぐの子どもが文字を習得した上、授業なんてものを運営している事実。そして、計算という新しい概念をなにげなく解説する、そんなことが本当にあると、そう思いましたか?」


 エマールだから、と疑問に思うことなく、通り過ぎたことは、私にとって幸いだったけれど、本来であれば、褒められることではない。その時点で疑問に思って問い詰めていれば、有用な情報が得られたかもしれないのに…まぁ、得られないかもしれないのだが。


 「…ノエルやレオンさんという例外中の例外、…本物の天才がいるので異様さが薄れたかもしれませんが。」


 私の呟きに2人は反論するが…


 『姉さんはそう言いますが、僕は天才とかではありませんよ?』

 「私も、できることは少ないですし…。」


 ノエルとレオンさんはもっと自覚すべきだと思う。

 前世の記憶なしでそれはマジでおかしいって。


 「私はただ歳を喰っただけの凡夫。大人と考えれば、私の話し方も違和感ないでしょう、寧ろ、幼いくらい。知識があるのも、時間をかけて学んできたからに過ぎません。発見したわけでもなんでもない。」


 「つまり、人生1回分と少し生きているということか?」


 「人生1回分がいかほどのものか、分かりかねますけど。そうですね…前世の記憶は向こうの計算で17年…こちらに換算すると10進数で…17×2/3で34/3…11.…3333…小数第一位で四捨五入して11年かな。こちらの数字に換算すると…14(**)年ですね。」


 したがって、今世の年齢と合わせると…24(**)年ってことか。

 ちなみに、向こうの年齢に合わせるなら、17+7.5×1.5=17+0.01×25×(4×11+1)=17+11+0.25…まぁ、大体28年3ヶ月くらいか。ん、まだまだ若いな。


 私はニヤッとした。


 「というと…実際は何歳なのだろうか…?」


 第一王子がそう尋ねてきた。

 けどさ、それくらい今までの情報で計算できませんの?

 現在の算数の進度は細かく把握していないのだけど、掛け算もこなしていたということはできますよね?


 「ノエル…これ、私答えなくても良いですよね?」

 『うん、2期生もそれくらいはできるはず。』


 だそうですので、わざとその問いには答えないでおきまーす。


 現在、1期生は確か4年目くらい、2期生は…3年目くらいだったはず。

 授業が週1だから、前世の小学校の小3~4にはまだ届かないけど、足し算の筆算くらいは或いは。


 それに、さっきの計算もだけど、私は固有能力の計算機能を使わずに暗算で出しているのですよ?

 繰り上がりのないあの計算くらいは頑張って欲しいものです。


 「…意訳しますと、ノエルとセシリアは今まで出した情報から計算すればすぐに答えが導き出せるのだから、その質問に答える必要はない、と申しております。」


 レオンさんが隅々まで説明して応じた。

 せっかく、みなまで言わなかったのに…。


 「計算だと…?式も何もないじゃないか。」


 第一王子はそう言うけど…


 「日常生活にあんな式が転がってるわけないじゃないですか。そんなの自分で式を立てるのです。問題じゃないと解けないのでは勉強している意味ないですし。」


 と、ガチで私は呆れた。

 文章題とか考える系の問題も入れていたはずだがな…。


 「セシル嬢はお前に、頭が硬いんだよクソ野郎と言っているぞ?」


 国王がそんなことをニヤニヤしながら言って、王子を煽っている。

 …別にそこまで言ってないんだけど。


 「愚息に構う必要はない、話を進めてくれ。」


 国王陛下…フレンドリーというか気安いというか、思ってたんと違うな…。

 私はその言葉に頷いて話を進める。たとえ、王子が嘘だろみたいな顔していても気にしない。


 「では進めます。極稀に、私のように前世の記憶をもつ者が生まれます。それに対して、有効性を見出していた者たちがいたのです。この前世の記憶を知識として技術に取り入れようとした者たちと私は接触を図りました。交渉材料は私の記憶、引き換えに私へも知識を与えて欲しいと。」


 「その者たちとは?」


 「…口頭で説明するのは難しいですね。どうしましょう。…端的にいうと、彼ら、人間ではないのです。」


 「…人間ではない?」


 まぁ、そんな表情になるのも無理はない。

 信じがたいだろうしな。

 でも、これで少なくとも彼らが亜人と別ルートで繋がってないということは確定した。もし、彼らが演技をしていなければ、の話だけど。


 「人間の文明に隠れてひっそり暮らしている種族でして、あぁ、意思の疎通は問題なくできますよ。我々と同じく、女神から固有能力を受け取っていますから、あの文字なら意思疎通が可能です。」


 「それは…洗礼式のとき突然君の近くに現れた白髪の…ミズキという女性かい?」


 アズナヴール公爵は私に尋ねた。

 うん、自然な推測だ。


 「…彼女は違いますよ。確かに人ではないけれど、別枠です。彼女は…私を監視する女神の直属の部下ってところでしょうから。寿命もなく、消滅したら自然発生する、特殊な生命…。とはいえ、瑞稀もまた、私が問題行動を起こさない限りは私の手伝いをしてくれるそうなので。今もいますよ?」


 私の袖の中から、瑞稀が出てきた。


 「ヘビ?」


 「本来はもっと大きいのですが…私に付いているときはこんな感じです。話を戻すと、私が交流をもっているのは、こういう特異な生命体というよりも、集落単位、種族単位ですので。瑞稀、どう説明したらいいかな?私は、ファンタジー的な小説で事前知識があったけど。」


 ドワーフとかエルフとか、種族名でなんとなく想像がついた。

 むしろ、想像に合致しすぎて怖いくらいだった。こちらから地球に転生した前世持ちがファンタジー小説のネタとなる神話か童話を書いたのか、こちらに生きてた前世持ちが近しい名称を当てはめたのか、どちらでも構わないのだけれど。


 「ROOMで暇そうな奴に繋いでみればよかろう?契約もあるのだから、滅多なことはできまい。」


 「わかった。今、時間ありそうな人に取り次いで…あぁ、えっと2人は除いて…そうだな、ドワーフ1人、オーク1人、吸血鬼は…やめておくかな?」


 吸血鬼はほぼ全員が重症患者だ……厨二病の重症患者だ。


 「あ…繋がった?」


 『Hello, how have you been?』

 「I've been great. Thank you for this meeting.」

 『What should I do?』

 「... I'm sorry but could you keep quiet during this meeting? I'll tell you the reason after it.」

 『OK. Don't worry.』


 ドワーフの人は知り合いの研究員だったから、ちょっと挨拶をして、黙っててもらうようにお願いした。

 彼は人間の使う言葉を話せしまうから。

 オークの方は…どうだろう。

 話せなかったはずだけど、ブルナンどのの影響で話せるようになってたら困るな…。


 私は別回線のチャットで、ブルナンどのにこっそりお願いをした。


 もし、オークの代表者と繋がったら、この会議が終わるまで人間の使う言語を話さないで欲しいと依頼するようにと。

 すぐに了解と連絡がきてすぐに、オークの方と繋がった。私はジェスチャーで挨拶をして話を進める。


 「彼ら、見た目は人間に近しいですが、独自の言語体系を築いていて、それらを使えないと彼らと交流することすらままならない状況にあります。」


 一応、彼らの顔というか、姿を見せたら、ROOMから退出してもらう。


 「それをセシル嬢は使えるんだね?」


 「そうなります。私が初めて彼らと交流関係を築いたのは…アズナヴール公爵と領内視察をしたとき、ある集落で少し気になったことがありまして…。」


 「気になったこと?」


 「…周りの建物のレベルにそぐわない綺麗な建物があったのです。見た目は寄せていましたが、細かいところがきっちりしていて…それで妖精伝説なんてものも調べてから、私の知識の一部を取引材料として接触を図り、交流関係をもちました。そこからは色々と関係をもっていますし、1年間その街へ留学して勉強したりもしました。私も勉強に関する記憶があやふやなところや、勉強できなかった単元や魔法まで…」


 「…つまり、あのときから意図的に報告を避けていたことにならないかい?」


 「その通りです。異論はありません。」


 「申し開きはあるかい?」


 うーん…やっぱそうなるよねぇ。

 怒られるくらいなら甘んじて受けるけど…。


 一応、誠意を見せるために嘘はつかないでおこうと思って、本当の理由を話すことにした。

 元来、私は嘘をつくのに向いていない。


 「…私が人間全体を信用できなかったからです。人間というのは、歴史的に、異質なものを排除する傾向があります。肌の色が違う、髪や目の色が違うというだけで、差別や傷害、殺人…戦争を繰り返してきた。それは、私の前世の世界だけでなく、この世界でも同じです。人間の中での歴史は浅いけれど、ドワーフの街で確認したところ、似たような史実を発見しました。人間は異質なものを排除しがちであり、長命種でなく、数が多く、血にこだわる。別に悪いことではありませんが、それゆえに、数の少ない彼らを奴隷として使い潰す可能性が多分にあった。彼らが差別され、住む場所を追われる可能性もあった。彼らが人間から隠れて生活しているのがその証拠でもあります。私は…仮にそのような事態が起きたときに、その罪悪感に耐えられないと判断しました。」


 「陛下がそのようなことをする人間だと?」


 うーん…それは曲解だ。


 「そうは申しておりません。当時、陛下にお会いしたことがなかったので判断できなかったというのもありますが、今対面して、理不尽なことをするような方ではないことは分かります。けれど、それは陛下ひとりの話。陛下にその意思がなくても、周囲にそういう人間がいれば、陛下の意思とは違ったなにかが起きうると考えます。それに、陛下やその子を信じられても、孫まで信じることはできませんし。私は全員と会って、それらが善良であるか否かなどと判断できるほど偉くはないし、暇もありません。」


 「だとするなら、なぜ、今それを報告した?」


 パルテレミー公爵はそう問うが、アズナヴール公爵はなにかに思い当たっているらしい。

 レオンさんはとっくに気づいていそうだ。


 「"契約"は信用できますから。」 


 「なるほど…セシル嬢は先程、魔法も留学で学んだことのひとつとして挙げていた。つまり、なんらかの魔法によって、完全に口止めできると判断したと。」


 「御明察、恐れ入ります。」


 "契約は信用できる"という一言だけで全てを察した…ずっと前からわかっていたことだけど、アズナヴール公爵はレオンさんよりも頭がキレる…。

 理解が早い相手との会話は楽だけど、正直、困るんだよね…。


 「それでか…なるほど。この事実を知ってしまった人間はなんらかの方法で共犯者にする…。ブルナンもまた、なんらかのハプニングでこれを知ってしまったが、魔法に関する技術や情報を流すことを対価に口止めをしているわけだな?」


 レオンさんが冷や汗をかいている。


 「えぇ。この事実を知っているのは、ここにいる人間のみ。契約を交わした皆さんと、それ以外には…見張りくらいは付いていますよ?」


 まぁ、多分だけど。確証ないし、勘だし。


 「…つまり、ブルナンに乞えば、魔法の知識が手に入ると?」


 そうなるね…。


 「技術を流通させること自体は私も構わないと思っていますが、それについては…ブルナンどのが説明した方がいいでしょう。」


 ブルナンどのに押し付け……否、任せようとしたけれど、黙秘を貫いている模様。


 「ローム」


 瑞稀が圧をかけると、渋々と語り出した。

 相変わらずというか、瑞稀には弱いらしい。


 『チッ…。正直、俺が魔法を教えることは不可能だ、です。俺もまだ完全に使いこなしているわけじゃない。何より…全く別体系の言語を一から覚えなければならねぇ。詠唱がそっちの言語以外受け付けねぇからだ、です。俺は、その集落に半年以上居たから少しはわかるようになったが、そうでもしねぇと全く身に付かずに終わるだろう、です。』


 相変わらず、変な敬語だ。

 どちらにしても、彼が苦労して覚えたものだ。そう簡単に誰かが真似できるものではない。


 「ブルナンは…正直、失うのが惜しかったから、エリク、アズナヴール公爵に預けてよかったな。」


 国王はそう言って頷いた。

 確か、ブルナンどのは以前、国に仕えていたと聞く。手放すのが惜しい駒だったのだろう。


 「…そちら関連は、私の懸念点が多いことはお分かりいただけたと思います。ですから、もし、技術や尋ねたいことがあるならば、私を窓口としてください。彼らを表に出さず、私が窓口となる形ならば、私も構わないと思っています。」


 私がそう言うと、空気が緩んだように感じたのだが…


 「つまり…」


 アズナヴール公爵が1人そう言う。


 「報告を怠ったことでセシル嬢を罰すれば、彼らとの交流をもつ唯一の手段を手放すことになる上に、授業もままならないと。それに、報告を怠ったと表向き発表することすらできない。」


 独り言のように、淡々と、言ってから、こちらを向いて良い笑顔で言った。


 「誰が入れ知恵したんだろうね?」


 私はニコッと笑って誤魔化した。

 まぁ、瑞稀だけど。

 私が提案したのは、契約によって口止めをすることと、私が窓口になることだけ。


 「…あとは、洗礼式で起きたことの通りです。会話の一部が理解できなかったのは私の前世の言葉を使っただけで、まぁ、大筋には関わらないでしょう。」


 私がそう言って、話を締めくくろうとしたら、国王が異議アリッと止めた。


 「…洗礼式で起きたことの通りと言われても、俺たちはそこが聞きたくて集まったんだ。なにが起きたのかさっぱりだったからな。」


 へ?


 「会話…聞こえていたでしょう?特に前半部は普通にこちらの言語でしたし。」

 「一応、聞こえていましたよ。」

 『はい、ふわふわしていましたが、内容は全部聞き取れましたし。』


 「…なんとなく聞こえてはいたが、頭が回らず後から思い出すことしかできなかった。」


 「途切れ途切れで、ほとんど聞こえなかったが?」

 「あぁ、女神とか単語は聞こえたんだが。」

 「そうだな。」


 「光で真っ白になって…なにも覚えていなくて。」


 え…?

 全員感想が違いすぎるんだが?

12月24日以降、現在投稿中の作品のスピンオフを不定期で投稿します!

「泡沫2022師走短篇集」というタイトルで連載予定。

勿論、この作品のスピンオフもありますが、これを機に他の作品も読んでいただけると幸いです。

この作品の次回投稿日は日が空いて2023年1月11日となります。


本年はありがとうございました。

読者は勿論、ブックマークしてくれた方、評価ポイントつけてくれた方、いいねしてくれた方、とても励みになりました。

来年もよろしくお願いします。

泡沫

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ