閑話 : クラリス主催・計算コンテスト
エマール伯爵邸で行われているコンテストの話。
主要人物はセシルとノエルの母である伯爵夫人クラリス・フォン・エマールです。
エマール伯爵家およびその使用人たちにとって、王都行きというのは年に1度の行事かつ、全員で悲しむときだ。
王都の邸宅には大した道具がなく、実験もあまりできない。
今回でこそ、セシルの授業を週に1度受けることができるが、そうでない普段は暇で仕方ないのだ。
そんな彼らを慮ってか、そうでないのか、セシルは授業を欠席する彼らに問題を大量に持たせてくれた。今回も、時間があるだろうからと用意していたのだ。
「みなさん、集まりましたね。」
王都のエマール伯爵家邸宅、その日の仕事を終えた全員が集まっていた。
否、当主パトリスとセシル、ノエルを除く全員が集まっていた。
セシルとノエルは瑞樹、楓、佐助、レオン、ブルナンとリモート会議中である。
洗礼式でのことについて対処を話し合っているのだ。
そんなこともつゆ知らず、当主パトリスは自主勉強と研究資料の整理に努めていた。
「さて、今回も定期的にコンテストを開催します!!」
クラリスがその部屋に通る声でそう言うと、その部屋に集まっていた一同は他の部屋に響かない程度に歓声を上げた。
「今回の王都でのコンテストの商品ですが…セシルにも相談したのだけど、毎回なにか新しいボードゲームとなると尽きてしまうそうなの。ですから、セシルの提案から、王都にいる間有効な1回デザート+1券を授与します。」
セシルの提案は簡単なものだった。
なにか得するものを券として授与するということ。
セシルが提案したのはいくつかあった。
・おかず+1品券
・おかわり券
・仕事1回休める券
・1日客室で過ごせる券
…など
その中のおかず+1を応用したのが今回のデザート券。
セシルのアドバイスから有効期限をちゃんとつけたものになっている。
無期限だと勿体無くて使わなかったり、この屋敷のメンツだとなさそうだが、飢饉のときに使われたりする可能性があるからだ。もちろん、飢饉のときにそれを出されたとて、無理だと突っぱねればいいのだが、それはセシル的にはよろしくないらしい。
「本日は計算です。昨今、難易度が跳ね上がっておりますが、なんとかここまで脱落者を出さずにまいりました。これからも、脱落者を出さぬためには、ここで地固めが必要とのこと!なんとしてでも、楽々解けるようになりましょう!」
クラリスの言葉の通り、未だ脱落者は出ていない。
領地にもまだ、余裕はありそうだ。
しかし、セシルが言うにはこれから脱落者がではじめるらしい。
特典を得られる人が固定されてくると、やる気を失うものも出ざるを得ない。
だからこそ、セシルも注意しながら工夫して授業しているわけだが…。
(まだ、順位は上位から下位まで変動している。ならば、まだやっていけるかも。)
ちなみに、固定され始めた場合は、クラス分けを行いそこからそれぞれ特典を得られるものを出す予定で、次回からはその試行が行われる。
「用紙を配布します。絶対に中身は見ないように。」
無言で紙が配布される。
「準備はできましたね。それでは、解答を始めてください。」
それと同時に全員が紙を捲る音が響き、クラリスは砂時計を逆さにした。
そのとき不意に気配がして、クラリスはその部屋の外へでる。
「こんな時間にどうしたのですか。」
近づいてくる人影にクラリスは声をかけた。
「いや、人が全くいなくて困っていてな。替えのインクが見つからず…」
その人影の正体はクラリスの夫、伯爵であるパトリスだ。
「そうでしたか。もう、使用人の皆さんの就業時間は終了しております。彼らに迷惑をかけるのも問題でしょう。インクでしたら、私が場所を存じております。こちらです。」
クラリスはパトリスをあの一室に近づけることなく、インクを探すために、パトリスを連れて、荷物が置いてある部屋へ向かった。
しばらくして、クラリスはパトリスを部屋へ送り届けるのを確認してから、試験が行われている部屋に戻ると、ノエルが代わりに試験監督をしていた。
(…??)
ノエルはクラリスが戻るのを確認すると、静かに部屋を出ていった。
「ちょっと時間ができてね。…母上は父を遠ざける細工をしていたから代わりに。」
クラリスの耳元で誰にも聞こえぬようにノエルはそう囁いた。
ノエルはそのまま自室へ戻っていった。
それからしばらくして終了したその計算コンテスト、その存在を知らないのは伯爵邸ではパトリスただ1人だ。
本日は別作品「魔女の弟子と劣等学級」も更新しています!
学園ものっぽく他校との交流試合(交流戦)がスタートしました。けど、学園ものって言いつつも…他の作品の学園ものの行事とはちょっと趣が違うかもしれません。




