答え合わせ
「こちらです。」
恭しく案内してくれた司祭に感謝を述べると、ここは私と瑞樹と…
「楓に佐助。」
「よう、偉いもんに巻き込まれちまった。」
佐助の言に楓も頷く。
「その様子だと、教会内にいて、あの洗礼式見てたんだね。」
「あぁ、テメェ、よくアレと会話できたな…オレァ頭がぼーっとして仕方なかったぜ。」
佐助は意識を保ち、私たちの会話を聞いているのがやっとだったと、そう述べた。
「瑞樹…先に言っておくけど、私は瑞樹が裏切ったとか、そういうことは全く感じていない。だから、なにがあってもあなたを信用することを前提として聞いて。まずひとつ、瑞樹はあの人と主従関係にある?」
「…主従とは少し違うが、直の上司はあの人じゃな。」
なるほど。
あの人は私へは丁寧語を使っていたけど、瑞樹にはラフというか王から臣下へみたいな口調だったから気になってたんだ。
「なら、私のことはどの時点で知っていたの?瑞樹とおそらくそれと同じ立場にいるものは、稀に現れる前世の記憶をもつものへの監視任務のようなものを課されていて、私の元に来たのはその一環と推測できるのだけど。」
「それも正解じゃ。お主を監視しておった。お主と居るのが楽しかったのも事実。けど、きっかけは監視じゃな。」
「…私の査定終了時に瑞樹に一時的に与えられたのは、固有能力にアクセスする権利?」
「ふふふっ、正解じゃ。なかなかじゃな。我らは、基本的に固有能力をもたない、と以前少しいっただけじゃが、そうじゃ。前世の記憶は関係ないが、他の者と契約を結び、その者が固有能力をもつことで、我らもそれらに関与できるようになる。じゃが、その者が死んだと同時にそれは無効化される。」
「私と契約を結ぶのはそのメリットもあったんだね…。腑に落ちたよ。瑞樹はいくつもの言語を操れるし、知識も豊富なのに洗礼に関する知識は他とあまり変わらなかった。触れられる期間が圧倒的に少なかったからなのね。」
「ほかに気になっておることは?」
「そうだね…。あの状態で私が普通の精神状態で女神と話せたのは前世の記憶もちだから?」
「それも一つの理由じゃが、それだけではない。女神側がお主と話したかったからというのもじゃが、自分の軸が定まっておるほどアレには惑わされん。その証拠じゃないが、思考できていたのはおそらく、佐助、楓、ノエル…あとは、レオンくらいじゃないか?」
女神が指摘していた数名は彼らだったのね。
「心の中と生活とで女神に頼っていればいるほど、あの状態で動けなくなる。」
「…なるほど。じゃあ、私が仮に女神さまのお眼鏡にかなわなかったら、どうなるところだったの?」
私の中では、あれは口頭試験かなにか。
正解がなにかはわからないが、そうでなかったらなんらかのペナルティが課されるか、与える固有能力が変化した可能性がある。
「…そうじゃな、我がいる時点でその可能性はほぼゼロだったが、我との契約の強制解除、前世及び今世の記憶の消去くらいならあったかもしれんな。」
ゾッとした。
「…人格のリセット。」
「そうじゃ。我らのような者が契約している状態では記憶の消去はできない。だから契約を解除させた上で記憶を消す可能性がある。だが、それは最終手段、よほどのことがないかぎり実行されない。軽い措置ならば、洗脳みたいなアレかの。」
「…バグというものが取り憑いた人間は前世の記憶もち?」
これまでの問答からいくつかの推測が成り立つ。
まず、女神といえどもルールが存在し、好き勝手にこの世界を変えられるわけじゃない。
次に、前世の記憶をもつものはマークされており、世界に対する何かを避けるために瑞樹のような女神の部下がメリットのために契約することで監視を行い(監視の報酬が固有能力の使用権限かもしれない)、洗礼式時点で女神が直々に危険度を判定する。
最後に、洗礼式時点で重大な危険性が判明した場合はなんらかの処置が行われるが、洗礼式以外では手を出せない可能性が高い。
洗礼式は女神がこちらとの接点をもてる特殊な機会なのかもしれない。
「おそらくそうじゃ。我も全てを知っている訳ではなくてな。」
「…推測するに、バグというのは瑞樹たちとはまた違うもので、それの影響かわからないけど、洗礼式で手を出せなかった、とか?」
「概ねその通りじゃ。バグというのは象のような虫のようなモノでな、アレは、善悪も自我もほとんどない。あるのは見たことない知識への好奇心だけ。世界の異常、世界の不具合じゃ。」
「以前関わった記憶もちが言っていた、まるで獏のようだと。」
バクとは、人の夢を食べて生きる幻獣。詳しい伝承は知らない。
「バグは憑いた人間すらも忘れた記憶を吸い出して、具現化して思い出させることができる。そして、それを糧に生きる。新しい記憶への好奇心しかないからな、前世の記憶もちにつきやすく、つかれたものは前世の記憶をさらに有効活用することができる。ただ立ち読みした、ただ見かけた、そんな興味もないことの記憶すらも綺麗に見れるからな。」
「善悪なんて移ろうものだけど、正直、変な思想を持った人がそいつを引き連れていたら…。」
「そうじゃな。女神の言いたいのはそれじゃろう。女神が記憶を消しても、傍にバグがいれば、それを阻止されるか、もし記憶を消しても、女神があそこでできる程度の記憶の消去ではバグがすぐに具現化して意味なく終わる。」
つまり、そのバグと一緒にいる人と接する可能性が私にあり、女神が手を出せないからこそ、私に対処を求めた。ついでに、私が直接話に行けば、バグが代わりに私に憑くかもしれないと。
概要は掴めたが私にできることはそうないな。
今は頭の片隅に置いておくだけにしよう。
「ありがとう、瑞樹。おかげで色々助かった。これからもよろしく。」
「我こそ、よろしく頼む。」
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