本領発揮
「固有能力名はエクセルです。」
私の呟きを聞いて我に返ったらしい司祭がそう言ったら、他の者たちも我に返り、拍手を始めた。
正直、ドッと疲れた、精神的に…。
けど、体力的には全く問題がない、あの人が言うとおり時が止まり教会が特異空間にでもなっていたのだろう。
「…司祭どの、ありがとうございました。」
私が礼をすると、司祭が怯えたような顔をした。
その目は私に対する嫌悪というより畏怖と敬意が見えた、気がした。
女神が言ったのは、司祭はこのことを他人に話すことができないということ、つまりは記憶には残るわけだ。
…変な誤解をされているようで、居た堪れない。
「…申し訳ありませんが、約束していたとおり、教会の奥に用があるのですが。」
「いえ、とんでもございません、ご案内いたします。」
快く案内してくれることになったが、これは当初の懸念と別の意味で面倒だ。
ただ、今回に限って都合がいいし、下手に誤解をとこうと何かを言ったときに別の人に聞かれている可能性もある。さらに、なんとなくだが、話をまともに聞いてくれなさそうだ。
「瑞樹、あなたも来るでしょう?」
私は、人の姿をしている瑞樹に対して周囲を気にせずそう言った。
「ああ。今回のことは…」
「それは後で、向こうで確認しよう。私の推測を聞いてあってるかを教えてほしい。」
そう言うと、頷いてついてきてくれることになった。
瑞樹は私があらかじめ持ってきていた鞄をもってくれ、ありがとうといったらそっぽ向いて返事をした。
「セシリア!!」
声がして振り向くと、レオンさんが私を呼んでいて、国王陛下の近くにいた。
察するに、国王陛下が呼び止めたかったが、面識がないのでレオンさんに頼んだというところだろう。
「レオンさん。…今日のことはお騒がせしました。けど、私も把握しきれないことが多いのです。ついては、別途報告いたしますので、本日はお引き取り願えますか。私は当初から予定していた用事を済ませなければなりません。」
丁寧な口調でそう申し上げた。
レオンさんにというよりも、陛下と公爵以下貴族の方々に対して。
レオンさんは私のところに歩いてきて、耳元で他に聞こえぬように私に尋ねた。
「全員が困惑している、どうすればいい?」
「私も分かりません。けど、数日中には整理できるはずです。」
「そうじゃなくて、俺はどうすればいい?リアは俺がどう動いたら楽だ?」
レオンさんが尋ねていたのは私の希望、この感じだとそのとおり動いてくれるとでも?
「…ここにいる司祭以外の方々に一時的な口止めと全員を何事もなかったかのように帰していただければ…。」
「わかった。終わったら、ノエルと共にリアのところへ行く。」
詳しいことを聞くこともなく、了承してくださった。
私がレオンさんを引き留めてありがとうと小さな声でいうことしかできなかった。
レオンさんには感謝している、と同時に、少し私を信じすぎていて心配になる。
都合がいいけど、それではレオンさんが心配だ。私が悪女だったらどうするのか。
このままでは思考が明後日の方向に向くから、司祭に連れられて瑞樹と教会の奥へ向かった。
色々あったけど、やっと私の本領発揮、お楽しみの時間が来たんだから。




