セシルの洗礼式 6
レオンさんが訪れて、そして、去ってから、私とノエルは部屋で待機していた。
洗礼式の準備は完全に整え、受け取っていた念願の自分専用のキーボードとディスプレイ、そしてもう一つの重要なアイテムもこれまた特注した鞄の中に入れて、着替えも済ませた。
若干フォーマルな風を装っているが、普段着の域は出ないだろう。パーカーを着ていないだけマシだと思う。正直、貴族達を呼び寄せるとレオンさんは言っていたけど、勝手に彼らが乗り込もうとしているのだから、なにを彼らに配慮する必要がある?まあ、この服たちなんて、ドワーフの街でもらってきたものだし、メガネもかけてるけど、完全に惚けるつもりだ。
「……瑞稀、言えないことがあるみたいだけど、それって洗礼式に関すること?」
気になって、尋ねた。
「…そう、じゃな。わしにも敗れない掟はある。」
「そっか…」
私は特になんとも思わないけど、ノエルは驚いているみたいだった。
別に、驚くことではない。
謎の契約関係がなければ、いや、あったとしても、瑞樹の方が圧倒的に格上。
契約のことは正直、完全に理解しているわけじゃないけど、裏切るというか、私に対して不利なことはしないと不思議と信じている。
「じゃが、洗礼式で自ずとわかる。心配せずとも良い。」
「別に心配も、疑念も、ないよ。瑞樹のことは信頼してる。何年かずっと、一緒にいて、なにも感じなかったわけじゃないよ。私は、信じて、信じちゃって、騙されるかもしれない。けど、それが私だと思う。仮に瑞稀に裏切られたとしても、それでいい。」
「お人好しじゃな。」
瑞稀は呆れるようにため息をついた。
♦︎♢♦︎
「…思ったより、早かったですね。」
入り口に馬車を停めて現れたレオンさんにそう言った。
「急ぎましたから。それに…間に合わなかった家は自業自得ということで。」
ボソッと言った言葉は、若干黒いしそれでいいのか?とも思ったけれど、私にとっては都合が良いので聞かなかったことにした。
♦︎♢♦︎
さて、王都に二つある教会の中でも、王宮に近い貴族たちが利用する豪勢なほうに連れて行かれた。ドナドナ〜
さて、ここにいるメンバーを確認しよう。
まずは私、セシリア・フォン・エマール。
弟のノエル・フォン・エマール。両親はついてきてない。
そして、密かに連れてきた、瑞樹。たぶんだけど、楓と佐助もどこかに潜んでる気がする。
そのほかの参加者は以下に記す。
<アズナヴール公爵家>※公爵夫人は欠席
公爵 エリク・フォン・アズナヴール
長女 イザベル・フォン・アズナヴール
長男 レオン・フォン・アズナヴール
<パルテレミー公爵家>※次期公爵は欠席
公爵 アンドレ・フォン・パルテレミー
公爵夫人 オフェリー・フォン・パルテレミー
次男(第一王子側近) マティアス・フォン・パルテレミー
<カステン辺境伯家>
辺境伯 ユーグ・フォン・カステン
長女 アン・フォン・カステン
次女 アナ・フォン・カステン
<シャノワーヌ子爵家>※子爵は欠席
夫人 ソフィ・フォン・シャノワーヌ
長女 ブランシュ・フォン・シャノワーヌ
次女 ジョアンナ・フォン・シャノワーヌ
<ダンデルヌ子爵家>
子爵 ゴドフロア・フォン・ダンデルヌ
<ラコルデール男爵家>
次期男爵(長男) アンセル・フォン・ラコルデール
夫人 スザンヌ・フォン・ラコルデール
<ローラン男爵家>
男爵 オーダ・フォン・ローラン
<エナム王家>※非公式かつお忍び
王 クリストフ・フォン・エナム
第一王子 フィリップ・フォン・エナム
初めて会った人ばかりだが、ここにいる面々の名前を一覧にしてくれたレオンさんのおかげで把握することができた。まあ覚えてないけど。
というか、そんな簡単に王宮から抜け出さないでくださいよ、国王陛下アンド第一王子殿下。
他の面々もさぁ、たかが私の洗礼式。数秒で終わるんだ。
私はその後も用事があるんだからさ、交流を求められても無理なんだよ。
「…どこの家も1人は間に合ったか。」
ため息まじりにレオンさんはそういった。不服なんだろうか、あなたが呼び寄せたのに。
「私は挨拶とか、そういうのしませんよ。」
予防線を一応、張っておく。意味がないかもしれないが。
「大丈夫。今日はただの見物だけだ。今日は、ね。」
この今日に念が押されている気がして、私はとても嫌だ。
けど、今日は引いてくれるみたいだから、それだけは逆に信じられそうだ。
「よろしくお願いします、司祭殿。」
私は気負わず、バックを全く気にかけず、そういった。
11月1日に「女神の査定」が更新予定。




