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セシルの洗礼式 4

本日2話目の投稿です。

前話「セシルの洗礼式3」を読んでいない方は注意してください。


 エマール伯爵家一行が王都にある彼らの邸宅に到着して最初に行うことは掃除である。


 一般的に貴族は1年の半分を領地で半分を王都で過ごす。

 そのために、領地にも王都にも使用人が何人か常駐していて、貴族たちがいない間も美しく邸宅を保つのである。


 しかし、エマール伯爵家の面々が通常王都に滞在するのは1年に1週間もない。移動する時間を含めて2週間くらいと見積もるから、滞在期間は実質2日くらいだろう。


 そんな滞在期間ならば邸宅は不要だ、否、むしろ王都に滞在する必要はないと王家に直談判したものの、伯爵家という貴族の家にも関わらず、王都に邸宅をもたないのは流石に体面が悪いとのことで仕方なく所有しているのだ。


 そんな家に使用人を置きっぱなしになんてできない、という伯爵家当主によって、彼らの家はその2日を除いて人がいない。当然だが、手入れもされない。実は、彼らに近しい家の者がたまに整備をしていたりするが、堂々とできない以上見た目は雑草まみれでひどいままだ。


 そんな邸宅は幽霊物件として貴族の間で忌み嫌われ、エマール伯爵家の評判は失墜どころかモグラのように地にもぐた。


 そんなわけで、2日間くらい過ごせるように簡単に総出で掃除をするのだ。

 そう、全員で。


 「みなさーん。今年も恒例の大掃除が面倒なことに早くやってきてしまいました。間が短い分、いつもよりはマシですが、4ヶ月滞在するというクオリティを考えると、いつもより大変かもしれません。ですがっ! 今回は我らがセシルちゃんとノエルくんがついています! 怖いものなしです! サクッときれいにしましょう! 最も頑張った人、つまりMVPにはいつも通り商品!」


 セシルの母、伯爵夫人であるクラリスがそう宣言すると、一気に士気が上がった。


 セシルもそれには気圧されて唖然としていた。



 セシルはMVPの商品になど興味はなかった、というか商品を用意したのはセシルとノエルだったので、MVPの商品を得るつもりもなかった。

 とはいうものの、セシルもノエルも仕事をサボるつもりは毛頭なく、2人で外の雑草除去を請け負った。


 「除草剤…ないわけじゃないけど、それで本当に雑草一本なくなっても困るよな…。やっぱり、根は残したまま見た目を整えるのがいいのかな…。」


 セシルは方法を思案した。


 除草剤には今後生えるのを予防するものと今ある雑草を枯れさせるものがある。

 そもそも、除草剤には雑草と他の植物とを識別する機能はないし、即効性もない。


 「これは、長い草を短くしてから、根も含めて取り除くのが正解な気がする…。ここって魔法使っても大丈夫かな?」


 「大丈夫だと思うけど、人が出てきたら危ないよ。」


 ノエルは魔法に関して天才的である。

 生まれてそう時間が経たないうちから無意識的に浮遊魔法を使いこなしていた。

 今だって、特に意味なく浮かんでいる。


 「そうだね。ちょっと外に出るの禁止にしてもらおう。私も魔法の練習したいし。」

 

 「じゃあ僕は皆に言ってくるから。」


 「頼みます。」


 セシルは準備運動のつもりで、魔力を集めたり発散させたりする。

 人に迷惑がかからないようにしゃがんで、目の前の草を魔法で切ってみる。


 「風…否、水? 火事の危険性から火は論外。この手の使い方はあまり得意じゃないのだが。」

 

 さまざまな形態の魔法が存在する。


 旧人間文明のプログラミング的魔法

 オーク集落のうたうような自然科学的魔法

 吸血鬼の詠唱や魔法陣を必要とする精神的魔法

 ドワーフたちの建築などの工芸に優れた肉体的魔法


 楓や佐助たちが使う魔法はまた別であり、エルフが使う魔法もまた違う。


 セシルが使おうとしているのは、そのどれにも当てはまらない。

 強いていうなら、オークたちのものに近いが、旧人間文明のものともいえる。


 つまりは合わせ技である。

 オークの魔法に近いものを、魔力ゴリ押しで再現、それをマクロとして記録した上でひとつの魔法(関数)として定義し、

以降の詠唱および発動を短縮するのだ。


def = define 定義する


 「姉さん、大丈夫。伝えてきた。」


 「なら、試そうかな。」


 魔法を定義して、行使する。

 

 集中して、範囲指定のち、刈り取る。


 ザッと音がして、ファサッと草が一定の高さで刈り取られ、地面に落ちた。


 「…ノエル、頼みます。」


 「うん。」


 ノエルはいつもの重力操作ではなく、練習していた風魔法で、刈り取られた葉を操って隅にまとめる。


 …ノエルにもともと魔法の才があったのは理解しているが、この魔法操作能力は才能だけじゃない。間違いなく、努力の成果だ。私もノエルがいつ練習していたのかは知らない。自分で練習していたのか、それとも誰かに師事を…?


 正直、私は驚いている。



 こうして、私たちは短時間にして、最大の効率で仕事を終えたのだった。

 なお、MVPには主催者側であったため選ばれなかった。


 MVPの商品はボードゲームである。

 人生を体感できるであろう双六的なものをプレゼントした。

 

そろそろ本当に洗礼式が始まるはずです。

次回「セシルの洗礼式5」は10月21日投稿予定。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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