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CheckとActionそしてPlan

突然だが、"PDCAサイクル"という有名なものがある。


Plan : 計画

Do : 実行

Check : 評価

Action : 改善


 計画を立てて、その計画を実行し、評価して、改善点を考える。これがPDCAサイクルで、高校生の時に耳がタコになるまで聞かされたやつだ。


 一方で、"PDCAサイクル"に代わるものとして提唱されているのが、"OODA(ウーダ)ループ"だ。


Observe : 見る

Orient : 分かる

Decide : 決める

Act : 動く


 相手を観察し、そのデータを状況判断するための情報に変換、意思決定をして、実行する。それを何度も何度も繰り返す、それがOODAループだ。


 どちらが良いのかは一概には言えない。

 しかし、使う状況が違うのではないかと言われている。


 PDCAサイクルは中長期的な目標に対してより効果的で、OODAループはその時その時の現場の判断に有効ということらしい。OODAループは軍人が提唱したものだそうだから、現場での命のやり取り、緊迫した状況をベースにしているのだろう。

 

 さて、現在行っている識字率向上計画はどちらに当たるのかというと、PDCAサイクルではないかと考えている。その場その場というよりも、何回も計画を練り直して、最終的に完成に近づけていくものであると考えているからだ。


 では、初回授業が終わった今、私はPlanとDoをひとまず終えた。では次にCheckだ。

 私はまだ小さく、運動機能が充分でないので、視察はお父さまやお母さま、他の使用人の皆さんに行ってもらって、その結果から評価していく予定だ。

 そして、次回の授業の改善案を考えるActionを行う。

 この数日の間に、CheckとAction、そして次のPlanを終わらせる。

 これが、授業が安定するまで続くのだ。

 おちおち休めないな。


 「お嬢さま、いくつかの村からの感想が集まってきましたので、いいでしょうか?」


 セルジュに声をかけられた。

 ちなみに、それまではノエルと遊んでいたのだが。


 遊びというか、頭の体操だ。

 私が言った二つの数字を足す、これをリズム良くずっと続ける遊びだ。

 今は、繰り上がりがある計算をやっている。

 正直、私を除いたこの屋敷で一番計算ができるのはノエルだと思う。


 ノエルは私にくっついて離れないが、まぁ聞けないことはないか。


 「お願い、どうかなぁ。あんなガキに教えられるのは癪だみたいな感想あった?」


 やっぱり、貴族とはいえ、3歳の子供に教えられるってのはよくない印象があると思う。プライドっていうか何か、そういった感情が、頭で理解していても起こるものだと思う。いっそ誰かに代わりに教鞭を振るってもらったほうがよかったかな。


 「フォッフォッフォ。それはあり得ませんぞ。」


 「どうして?」


 「お嬢さまは、体と運動機能の成長がゆっくりなのでまだ視察に出ていませんが、旦那さまは、お嬢さまのような歳の頃から、畑に行っては魔法で畑を耕し、農作業をして、領民にアドバイスまでしていたのですよ。旦那さまは今のお嬢さまのように立て込んだ仕事はありませんでしたから、その間に魔法や興味を持った農業についてちょっとずつ知識を蓄えていて、旦那さまが小さな頃から、その助言が大きな収穫をもたらしていたのですよ。だから、年齢が低いからといってお嬢さまに対して何かを思う者はおりませんよ。」


 「そっか......」


 絶句した。

 お父さまも常人の域をとうに出ている子どもだったのか。3歳にして、本業の人にアドバイスをする貴族と、それに当たり前のように従う領民。それで本当に収穫量を増やしてしまうわけだから恐ろしい。

 だから私に対してそんな疑問は出ないと。

 きっとお父さまの前にも何人もいたな、と容易に想像ができてしまう。


 「はい。では申し上げますね。まずは、ラッセルボック、一番近い村ですね。その教会の司教より、放送の会場を教会にしてくれたことへの感謝と、おかげでついでの参拝者が増えたこと、次の日には絵本の読み聞かせに多くの人が訪れたことが伝えられました。絵本の読み聞かせに関する説明は難しかったようで、訪れる人たちは昨日言ってたアレってどういうことか、と言っていたそうですが、実際に読み聞かせを聞いて、面白い話だと感心してくれたそうです。その日の参拝者もいつもより多く、いい影響が出ていると喜んでいました。」


 やはり、あの説明は速かった上に、伝わらなかったみたいだ。

 しかし、教会でやっているということだけはしっかりと伝わったようだったのがよかった。

 説明は反省だが、教会でってところが伝わったのはよかったよ。実際に経験すれば分かってもらえたみたいだし。


 「ちなみに、その司教によると、彼の教会では『林檎太郎』と『シンデレラ』を読み聞かせたそうですが、『林檎太郎』は多くの人にウケたようですが、『シンデレラ』は女性に多くウケたそうです。『シンデレラ』は男性のファンが少ないが、好きな女性は熱狂的で何度も読み聞かせを強請られ、次回も『シンデレラ』を読むと約束させられたそうです。」


 あぁ、確かに。

 シンデレラは女性向きだよな。一般的に、だけど。

 絵師さんが気合いを入れて王子を描いたから、めっちゃイケメンだし。


 林檎太郎は桃太郎をこの領地でよく取れる林檎に変更したお話。

 犬猿雉の代わりに、ここら辺で見ることができる動物を使おうと思ったのだが、ここら辺で見るのは、犬、猫、鹿、猪、雀など、犬以外あまりそれらしい生き物はいなかった。なので、家の図書室にあった、図鑑の中から、獰猛なカッコいい生き物を探し、ライオン、ゴリラ、ワニ、ハゲワシを追加した。知らないカッコイイ動物に興味を持ってもらい、最終的に図鑑に誘おうという計画だ。興味を持った男子たちよ、図鑑はいいぞ。


 因みに、図鑑を見て知ったのだが、辺境伯領は隣国だけでなく、山と隣接していて、そこには魔物がたくさんいるらしいのだ。隣国との関係は良好だが、辺境伯領が強い自領軍を持っているのは魔物の脅威から民を、国を守るためなんだと。魔物も興味深かったが、仲間になるにはちょっとアレなので、却下した。鬼の代わりに採用するかも迷ったのだが、それもファンタジー要素が消えるからと却下した。


 「次に、村長から、説明の一部が分からなかったが、自分たちのことを思っての放送だということは皆が理解していると。文字が読めると、楽しいことがあるらしいということも伝わって、士気は高いそうです。特に、最初に自分の名前が書けるようになったのがよかったそうで、まさか、その日に自分の名前が書けるようになるとは、と喜んでいたそうで、互いに自分の名前を自慢し合っているという、よく分からない波の中にいるそうです。最初、教会の読み聞かせを聞きに行った人間からその評判が伝わって、村長自身も聞きに行き、林檎から人が出てくる摩訶不思議な話で、出てきた人が悪い鬼を倒したのがかっこよく、林檎に誇りを持つことができた、他の話も聞きたい、と良い反応でした。」


 林檎太郎から林檎の誇りってのはよく分からないけど、読み聞かせに関するいい話が聞けてよかった。

 村長さんの話を聞くと、やっぱり名前を書いて、使えるってのがかなり効いてるね。

 文字に対するハードルが下がってくれてればいいんだけど。

 あと、やっぱり言葉選びとか説明はダメだったみたい。反省。


 「他には、洗礼式を受けていない子供に名前を教えたそうですが、嬉しそうに何度も書いて、親に自慢しに行ったそうです。やっぱり、放送の時は、できなくて不満だったようで。次回、それを使うと伝えると、練習すると言っている子が多かったそうです。あとは、林檎を渡して"仲間になれ"と言うこと、靴を片方脱いで逃げること、が流行っているそうです。」


 あぁ、林檎太郎とシンデレラの悪い影響?が...

 きび団子って言っても分からないから、とりあえず、林檎で仲間にしたんだよね。

 流行ってるってことは聞きに行った人が多く、興味を持ったと言うことだから、良いと言うことで。


 「女性の集団にも話を聞いたそうで、旦那さまは女性たちに観賞用、高嶺の花として人気だということとを前提にお聞きください。パトリス式が紹介されて、パトリス様と同じ持ち方がしたいという女性が多かったこと、パトリス式ならば女性にモテるのではないかと思った男性が多かったことで、ペンを持つということがとても流行っているそうで、最近は素敵な名前が書ける人はモテるのではないかという憶測が飛び交っており、字を書くことはモテるために必要なこととなりそうです。また、奥さまのペン持ち方や、旦那さまと奥さまの食器の持ち方に関心が集まっているようで、知ってたら教えて欲しいとせがまれたそうです。」


 なるほど。

 字が書けるとモテる、これはいい傾向だな。

 そうなると、結構本気で文字を勉強する人が増えるんじゃないか??

 なんだかんだで、モテるという言葉に弱い人は多いからね。

 こういうことに関心が集まるなら、広報誌を書くときの特集の候補として残しておこう。

 奥さまのペンの持ち方は屋敷の人間にサクラで手紙を書いてもらって、説明じゃ分かってもらえなかった質問コーナーについて理解してもらう足掛かりにする。そうだな、投稿者はエマがいいな。


 「ラッセルボックからの報告は以上です。続いて、ゾバール通り近くの集落について。教会の司祭は先の村同様、感謝の意を示していました。参拝者の数が増加したそうです。放送後に、教会の放送をしていた講堂で勉強をする人が何人かいるそうで、その中にはオレンジ色の教科書で文字を練習している者もいたそうです。」


 自主的に予習??

 すごく良い効果ではありませんか!!

 これは大成功と言ってもいい。


 「読み聞かせについては、『浦島太郎』と『見た目は子供頭脳は大人』を使用したそうですが、浦島太郎はそこまで面白さが伝わらなかったようです。特に、最後のオチの部分ですが、箱を開けたら歳をとったというのが難しいようです。因みにもう一つの方は他の話も読みたいという感想が出る人気で、決め台詞を言う子どもが続出しているそうです。」


 あー、時間の流れが違うとか、想像しにくかったかー。

 失敗失敗。

 そして、某名探偵漫画の設定を頂いて、身近にありそうな事件を解決する絵本は人気か。そうだよなぁ。真似するよなぁそりゃ。


 「名前の書き方を教わった子供は皆喜んでいて、大人の中にも、子供が生まれたばかりで、子供の名前の書き方を教えて欲しいという人がいたそうですよ。」


 いい感じだな。

 説明が難しかったところはちょっとずつ埋めていこう。


 「後半の数の話は難しかったという人が何人かいた反面、カードゲームは楽しくやっているから、似たようなものなら楽しみだと言っている人がいました。話が分からないと言っていた人も、ゲームなら知ってるという人は多かったそうですよ。」


 そうか、急いで説明しちゃったからな。

 もう一度最初から説明するつもりだったとはいえ、もっとゆっくりやろう。

 ってあれ??

 なんで、ゲームを知っているんだ?


 「セルジュ、なんでゲームを知っているの?アレって屋敷で流行らせたけど、外にはまだ流行らせていなかったよね?」


 確認を込めて、セルジュに質問をしてみた。


 「いいえ、お嬢さま。アレは領内で絶大な人気を誇っておりますよ。奥さまが増産して以来、奥さま自ら全ての集落、村々に広めてしまいました。面白いゲームだと、多くの人が行っております。知らないのは、そうですね、ウチの旦那さまくらいでしょうか。」


 「聞いていないんだけど。」


 「おや、そうでしたか。」


 セルジュは笑っているけど、彼は確信犯なんじゃないかなと思っている。

 というか、それだけ知られているのに何故お父さまが知らないのか。


 「だって聞かれていませんから。」


 私の心の問いを読んだように、セルジュは飄々として言っていた。

 あぁ、屋敷の皆が恐ろしいよ。


 その後も、たくさんの報告を受けた。

 説明は理解できなかった部分はあるが、取り組みとしては興味を持ってもらえた模様。

 文字を扱うことについてはかなり好意的だ。

 すぐに使える、勉強したことを使える機会を作る、これを大事にしながら、もっと丁寧に説明をして、ゆっくりとした進度を考えてみよう。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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