セシルの洗礼式 3
10月11日は2話投稿です。
各話が短いので長さとしてはあまり変わりませんが、お楽しみください。
ついに王都へ向かう日が訪れた。
今回の荷物は多かった。
服に頓着しないとはいえ、4ヶ月も滞在するのだ。仕事をするために最低限必要な魔道具たちを掻き集めた。
それに、新品の自分専用キーボードとディスプレイを慎重にこれまた特注したケースに入れた。
洗礼式を受けたらすぐに使いたくなるに決まっているのだ。
王都へ向かっても、楓や佐助は行き来して連絡を橋渡ししてくれるから、それを通じてチャットのルームに入れてもらうんだ。これならば、他のやりとりも円滑になるだろう。
キーボードが流通してから1年だ。
もう、ほとんどの者がタイピングに慣れた。けど、まだ首位の座はキープしてるんだな。
理由は単純で、タイプライターがあったからキーの位置自体はみんな覚えていたんだけど、その癖が抜けなくて、ひとつを押してから次の間がどうしても長いのだ。
閑話休題。
予備のメガネもメガネクリーナーも持参。
本とノート、ペン。
王都に行っても、授業は休みにならないし、業務を止めるわけにもいかない。
当然だけど、今回の王都ゆきには瑞稀もついてきている。
こうしてみると、エマール伯爵家として王都に繰り出すのは初めてだ。
「私はいかなくてもいいのではないか?」
駄々をこねているいい歳した大人がいた。
年齢でどうこういうつもりはないが、もう潔く諦めたほうがいい。
「父上、往生際が悪いですよ。」
「しっ、失礼いたしましたっ!!」
最近思うんだが、父とノエルの力関係どうなってるんだろ。
「そろそろ出かけるわよ。」
母の声掛けに応じて、私たちは家族でひとつの馬車に乗った。
「考えてみれば初めてね、4人で同じ馬車に乗るのは。」
確かにそうだ。
この状況だと瑞稀を出して話ができないのがつまらないけど、家族団欒も悪くはないかもしれないな。
…両親とも、私の外部協力者の存在を察してはいるんだろう。
それでも黙っていてくれること、感謝してます。
………
沈黙が気まずい。
家族とはいえ、急に放置されて会話が起こるはずがなかった。
ガラスがないからただの穴だが、一応窓はある。
私は外の風を感じながら、遠くをみれば、不思議と気持ちは落ち着いてきた。
……
体が揺すられている…、ような気がする。
重い瞼を、誘惑に負けじともちあげると、ノエルが私を覗き込んでいた。
「姉さん、今日はもう宿で休むことになるから、一旦降りよう。」
ノエルの言葉に外をみれば、もう日没。
「…随分と寝てしまったよ。起こしてくれてありがとう、ノエル。」
こうして旅を続けること約1週間、王都に辿り着く。
セシルはその旅のほとんどを眠って過ごしたのだった。




