セシルの洗礼式 1
※注意※
英文が書かれていますが、英語で会話しているよ〜っていう雰囲気を出すために入れているだけなので、BGMみたいな感じで流し読みしてください。
Cecil, I've finished this task.
Thank you. I'll check it.
I wonder if it is OK.
Uh... I think it's wonderful. How about Mizuki?
英語が飛び交っているが、ここは亜人たちの集落ではない。
7歳になったセシルは、エマール伯爵家本邸から徒歩数分の場所に授業を行うための施設を建設した。建設の許可こそ両親にとったものの、それ以外は独断と偏見により、ドワーフたちの技術でもって、見た目はそうでもないが、数多技術が詰まったとんでもない代物と化した。
そこへは秘密裏にドワーフの街から交通網が巡らされ、距離があるから毎日行き来はできぬものの、人間の目から隠れて行き来することに比べれば、格段に容易く時間も短縮された。
幾人かの亜人の研究者たちは、ここに交代で住んで、セシルの仕事を少し手伝いながら、研究を進めている。その建物は授業を配信する場所にして、研究所の出先機関でもあったのだ。
彼らと仕事をする上で、当然のように英語が使われ、飛び交うことになったのだ。
Cecil, you're going to the capital, aren't you?
Yeah... I don't want to leave here. lol
ノエルはまだ英語が堪能ではないが、辞書を片手にある程度は話せているというから驚きだ。
ちなみにこの出先機関、エマール領のものたちが入れる区画と亜人たちが入れる区画が分けられていて、亜人たちの区画には当然のことだが、宿泊施設も完備。基本的にノエルとセシルはこちら側で仕事をしている。
By the way, when do you receive baptism?
Uh... I think it's two months later.
こちら側の区画では、彼らが独自の研究をしている隣で、セシルとノエルが新しい教材の制作に励んでいる。
独自に勝手に教科書をつくるのも限界に達していた彼らは、多くの研究者に助言を受けながら、教育方針について頭を悩ませている。
仕事中にカタカタと叩くのは、タイプライターではなくて擬似キーボード。
情報を表示するのは紙ではなくてディスプレイ。
扉ひとつ隔てて時代は隔絶していた。
たった1年…ディスプレイの出現から1年も経たないうちに、ほとんどの業務がペーパレスになった。
この速度こそ、恐ろしいとセシルは思う。
ただし、セシルとノエルは洗礼式を経ていない関係もあってそれらのスペースにアクセスできず、仕方なくタイプライターを使用していた。
ジリリリリッ
ベルが鳴ると、ノエルがすぐに扉へ向かった。
これはエマール領側の人からの呼び出し音である。
勝手に入る必要がないようにとの配慮だ。
セシルは充実した毎日を送っていた。
最近、セシルが憂いているのは王都行だ。
年末年始には年初めの夜会という王家主催の夜会があり、それは洗礼式を受けた貴族全員が参加しなければならない年に1度の集いである。
例外的に、当主交代を終えて隠居している貴族は参加を免除され、辺境などを守っている防衛のために必要な貴族たちは代表者のみの参加で許されているが、エマール領はこれに該当しない。
エマール伯爵家は年初めの夜会を除く全ての社交を免除されているが、これだけは避けられない鬼門であった。
年末年始前には洗礼式を受けるセシルはこれに参加せざるを得ない。
それに…時期的に彼女の洗礼式はおそらく王都で受けることになっているのも彼女の頭を大きく悩ませる。
普段、エマール伯爵家は滞在を最小限にするために、行って帰るだけたった1週間もないような旅路だが、親しい貴族の家からのセシルへの面会希望者が続出、特に婚約者である公爵子息レオンからの要請により、滞在期間を延ばさざるを得なかった。
終了後はすぐに帰っていいということで、夜会の4ヶ月前に王都入りして、そこで洗礼式を受けることになってしまった。
「いくら面会があるからって4ヶ月は長いわ。」
彼女は激昂した。
けれど、今年だけでいいということで甘んじて受け入れたのである。
ちなみにノエルは付き添いでついていくそうだ。
「…ノエルがついてきてくれるのも、瑞稀がいるのもいいけど。他の人たちと全然会えないじゃない。洗礼受けたらすぐに能力検証を進めるつもりだったのに。」
とはいうものの、亜人の存在を秘匿している以上、仕事を理由に挙げても笑顔で却下されてしまう。
最終的に王都4ヶ月滞在が決定したのだった。
「姉さん、母上が呼んでる。」
ベルの音で扉の向こうへ出ていたノエルが、セシルに向かって叫んだ。
「OK, I... じゃなくて、わかった、行くよ。」




