洗礼式が終わるまでは
後書きにお知らせがあります
洗礼式で得る固有能力に頼り切って社会を回している人間社会を私は理解しているつもりだ。
だから、こんな発見があれば世間が大変なことになることも承知の上、これに関して領内だけで秘匿ならまだしも、特定の領だけこの情報を利用するなんて、許されない。
「洗礼式がおわるまでというのはどういう意図なのか、想像はつくが一応きいておく。」
レオンさんがそう尋ねた。
「ご想像の通りだとおもいますが、言語化しておきますね。簡単な話です。私が発見したことにするんですよ。亜人の集落からの入れ知恵ではなく、ね。」
「姉さんが固有能力をひとつとして得ていないのにその発見をするのは不自然だからってことだね。」
ノエルの的確な言葉に同意してうなずいた。
「理由はわかった。けど、なんでセシリアはそこまで亜人の集落が露呈することを恐れるんだ。」
「嫌われたくないんですよ、彼らに。」
彼らがなぜ人から隠れているのか。
彼らは人と生存圏を分けているだけでなく、明らかに見つからないように工作をしていた。
結界なんてそのひとつにすぎない。
「彼らもおそらく意識的に避けていたので、昔に人間となにがあったのかは学問として学んだだけで詳しい話は聞いていません。」
学問は事実を事実として学ぶだけで感情の入る余地はなくて。
「本当のところ、彼らが人間という種族に対してどんな感情を抱いているかは未知数。それに、差別の恐ろしさも、人間の欲深さも愚かさも、決して否定できないものとしてそこにある。21世紀の現代社会ですら、その思想は根強く残っていた。人間とはそういう種族なんだよ。数がとてつもなく多くて、同じでないものを嫌う。群れという意識が強いのだろうね。まぁ、わかんないけど。」
どうせ、人間に人間を分類することなんてできないし。
「私は卑怯で卑屈で…臆病だから。あまりに責任が重すぎて背負えないや。」
笑顔でそう言えただろうか。
口元が引き攣っても口角を上げろ、眉間に皺を寄せるな。
私は何度か夢をみたんだ。
自分だけが担ぎ上げられるのが怖くて、彼らの実績を奪ったようにみえるのが怖くて、彼らを皆に見せる夢を。
欲望の塊のような人間が彼らの集落を襲って奴隷にする夢を。
…彼らの方が技術力もあるし、それ故に強い。だけど…。
何度も脳裏をよぎって、怖いんだ。
卑怯者と言われようとも、私は彼らを表に出すつもりはない。
臆病者で結構。
世を渡っていくには、あまりに重すぎる。
転生して、誰も知らないところから始まって、大事なものがあまりに増えてしまった。
ひとつとして、失いたくない。
「…この大発見がたった数年遅れたとしても、大したことはないでしょう。そもそも、調整ができなければ、大して使い物になりませんし、それができるのは人間の中では私だけ。教育するにも時間がかかります。この系統の教育もカリキュラムに入れる予定ではありますが、何年かかるか、想像もつきません。」
「実用に値するまではまだ時間がかかると?」
レオンさんの問いかけに私は首肯した。
そもそも、私が使っている入力言語は英語をベースとしたもの。
おそらくコンパイラかなんかを使ってそれをマシン語のような言語にしていると思われるが、それに関しては私に教えることができない。
つまり、英語をある程度覚えなければならないということである。
「…わかった。それまでは秘匿しよう。けど、それ以降は…」
「わかっています。」
国のために力を使うのはやぶさかではない。
それが貴族の義務だ。
「…話はまとまったかのぅ。」
瑞稀がそういった。
彼女もまた、政治経済に関する知識を有している。
さすがは長生きしているだけあるということか。
「セシル…長生きしているからといって年老いているわけではないからのぅ?」
「承知してます。」
あれ?
主従関係、逆じゃなかったか?
「それならばなによりじゃ。」
その後、数日滞在してレオンさんは帰って行った。
【お知らせ】
この小説の更新をしばらくお休みします。
・散らかった小説たちの整理をするため(書き直しも含めて)
・今回でセシル6歳編が一応終了して次回の構想を練り直しているため
・別作品を書くため
この小説の次の更新日は10/1にする予定です。
期間が空いてしまいますが、今後も読んでいただけると嬉しいです。
他の作品の予定は以下の通りです。
こちらもよろしければ読んでいただけると幸いです。
【他作品】
「魔女の弟子と劣等学級 - I 組生徒の過ごし方 -」
◎8/31更新予定
→魔女の弟子として幼少から山奥で育てられた世間知らずのジゼルが学校に通う話。
★サブタイトルは英語の名言を引用しています
★魔法のシステムを含めてこの話とは全く違う世界観です
「すべてはあの桜花のせい」
◎完結済
→4歳の少年、悠の巣立ちの物語。
★現代推理ファンタジーを書いたつもりです
★昼夜混濁シリーズのひとつ




