そして、留学の終わり。
久々の投稿2/2です。
「本当に、1年間お世話になりました。これからも、色々とお願いしてしまうかもしれませんが、何卒、よろしくお願いします。」
セシルはその建物で頭を下げた。
エレベーターホールにセシルたちはいた。
留学に来るときはなにも持っていなかったセシルはキャリーバックを片手に、斜めがけのウェストポーチを身につけている。黒いパーカーにジーパンを着たセシルは一気に現代に戻ったかのように感じていたがそれも馴染んでいる。さらに白衣のようなコートを身につけているのは研究所にいた証だ。
少し伸びた髪の毛もカットしながら整えられ、眼鏡を身につけた。
背丈も伸びて大人びたセシルがそこにいた。
「キャリーバック大丈夫?向こうで持ち運べる?」
「大丈夫です。この1年でかなり鍛えられましたから。」
セシルはクスッと笑った。
身体的にも大きく成長したのだ。
「その程度のものも持てないようなら鍛え直しじゃよ、全く。」
並び立つ瑞稀は留学前と全く変わらず。
当然とも言えるが、それがセシルの成長を際立たせている。
「流石に鍛え直しはちょっと…。」
「そうじゃな。もっと上を目指さねば。」
その言葉にセシルは分かりやすくショックを受けた。
それを見た人たちが温かい笑いを生むからセシルもつられて笑ってしまった。
キャリーバックの中身は、これまで勉強してきたノートや本の類。
そして、キーボードなどの機材である。
取り付け方も習っているため、セシルが教会の洗礼受託場に設置することでチューニングが可能である。
さらに、自らが固有能力を得たときに使うためのキーボードも受け取ってある。
尚、それらの作成は過去の固有能力を掘り出したことにより可能となった。
「寂しくなるね…。」
「…固有能力受け取ったら距離を感じないくらいに連絡を密に取れますよ。」
セシルはその言葉に努めて明るく返答した。
離れがたいのは誰しも同じである。
誰にとっても一度構築した人間関係は尊いものなのだから。
「はぁ。しんみりするでないわ。全く。行くぞ。我はもう疲れた。」
感傷に浸らなかった瑞稀がセシルの首根っこ掴んで引っ張っていく。
「えぇと、みなさん。ありがとーございましたー!!」
手を振る姿を見ながらエレベーターのドアは閉まった。
[ドワーフの街での留学、終了。]
トロッコのような地下鉄のようなものに乗って暫くすれば、カイダタ牧場近くの職人のまちにたどり着く。
件の妖精の家らしきものに辿り着き、床下から侵入する。
「見た目は変わってないと思うんですが…これは建て替えてますね。」
「当たり前じゃろう。ドワーフだぞ?」
セシルはそれもそうかと納得して、妖精の家から外に出た。
週に一度、定期報告を入れていたが、途中から面倒になったセシルは妖精の家に手紙を置いてもらうようになったのだ。
さらに面倒になったセシルは手紙を書き溜めた部分と新たに付け加える部分に分けることによって、最悪、手紙を書かない週があっても大丈夫という状況にしてしまっていたのである。
定期報告の意味…。
それを問うてはいかん。
セシルは今も自然と英語で会話をしている。
これも留学を通じてセシルが身につけたものである。
妖精の家から出る。
まだ早朝。
朝焼けが美しく見える。
見送りをしてくれた研究員たちは早起きをしたわけでなく、単に寝ていないだけなのである。
セシルは軽く体を動かしながら魔法を使った。
瑞稀が何かに気づいて蛇に戻ってセシルの服に隠れてすぐ、見慣れた集団が近づいてきた。
♦︎♢♦︎
<注意>
ここから先は「」を異世界の共通語とし、「<>」を日本語、「()」を英語とします。
♦︎♢♦︎
「姉さん!」
「ノエル!!」
ぎゅっと互いを抱きしめて再会を喜ぶ。
まだ10年も生きていない彼らからするならば、たった1年間であっても、途轍もなく長く感じられたであろう。
「互いに無事で会えて嬉しいよ。」
「うん、ほんとうに。無事でいることは分かっていたけど、顔を合わせられないというのは、思った以上に負担らしい。」
うっすらと涙ぐんでいたが、表面張力でなんとか誤魔化した。
ノエルについてきたらしい、伯爵家に仕える者たちが、キョロキョロと周囲を見渡すが、そこらに人影はなく、すでに彼らは帰った後で、彼らの目的であろう、セシルが世話になった人物に会うことは叶わなかった。
もっとも、セシルとて、彼らとの接触を完全に絶ったわけではなく、定期的な連絡はこれまで以上に密接に行っていくことになる。
これにて、留学編完結。
次回は7月31日に投稿予定です。
集中して書いていた話が完結しましたので、こちらの連載に手をかけられるようになりました。
興味がありましたら、読んでいただけると嬉しいです。
現代の話ですが、異能力とかが存在する不思議な世界観になっている…はずです。
この話を含めて、幼児なのにめちゃくちゃ頭がいい、ってキャラが多いのは私の趣味なんだろうか…とふと最近思いました。
「全てはあの桜花のせい」
↑2022/07/21 本編完結・2022/08/01 蛇足含め完結




