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そこは、魔境でした。

 こんにちは、セシルです。


 私はオークの集落を出立し、瑞稀、楓と共に吸血鬼の集落へ参りました。


♦︎♢♦︎


 吸血鬼の集落は霧に覆われている樹海にあります。


 この霧は特殊なもののようで、方向感覚を失ってしまう代物。レジストできる人でなければ入るべきではないらしい。


 ※レジスト=抵抗


 ちなみに、生来レジストを持ち合わせている吸血鬼と一緒ならば問題ない上、訓練を積めば、後天的にレジストに成功できる者もいるそうだ。


 今回はレジスト可能な瑞稀に加えて、先天的にレジスト可能な楓が共にいるため、私も安心できる。最も、手を繋ぐなど、物理的に繋がっていなければ、意味がないので、そこのところ注意が必要である。


 この樹海はコンパスも通じないらしく、方向感覚を失うのはあっという間らしい。


 地球の富士の樹海において、コンパスが使えないというのが都市伝説か否かは正直、私の知るところではないが、なんとなく、死を誘う雰囲気があるのは確かな気がした。


 針葉樹林で、木は尖っている印象がある。


 うん、外観から言えるのは、このようなところだろうか。


♦︎♢♦︎


 「ようこそ、我らが集落へ。」


 そこで受けたのは、思いもよらぬ歓待。


 共通語は英語だったのだろうか。

 おそらくは違うだろうに、英語で歓迎された。


 「共通語はフランス語と英語じゃよ。貴族的な文化が多いことは知っておるな?」


 「うん、注意してみなかったからスルーしてたけど、ドワーフの街に結構いたんだよね。」


 そうなのだ。

 ドワーフの街は多種族共生で、学問に興味をもつ人たちがどんどん集まってくるのだそう。

 見た目が人間に近いからか、種族における差別みたいなのがなかったからか、私は言われるまで気がつかなかった。

 ちなみに、彼らは当たり前のように英語を話すよ。


 「ここの奴らは当たり前のように英語とフランス語を話した上で、人間が使う共通語も話せる者が多い。4ヶ国語以上話せる者もざらじゃぞ?」


 私は瑞稀の説明にビビった。

 前世の経験ありにも関わらず、未だ英語は違和感ありありでなんとか話している状態な上、日本語と共通語は赤ちゃんパワーで覚えたようなものだから、正直、言語を習得することは困難なことであると身に染みているのだ。


 「…正直、萎えます。私って、ダメな子なんだなって。」


 「そんなことはありませんよ。我々とて、不得意なことはあります。得手不得手ですよ。」


 そう微笑んでいるのは入り口で歓待してくれた吸血鬼の女性がひとり。

 優しい言葉に微笑みたいところだが、露出が多すぎて、どこに目を向けていいのか分からない。


 赤いイブニングドレス、とっても綺麗だけど、胸の…その、谷間が…。

 別に、エロい目で見てるわけじゃないんですけど、その、だって、私その、異性愛者のつもりだし。(今後、新たな扉を開いちゃう可能性はある。未来は誰にも分からない。)


 「素敵なドレスですね…。」


 「うふふ、初心で可愛いのね。よかったら、ちょっと吸わせてくれない?」


 ゾワゾワッ

 ……?

 耳元で喋らないでください!!


 色気たっぷりってこういうことを言うんだな、と思いました。


 どこか冷静な自分が遠くから第三者のように観察していて、でも、自分は大慌てしている。

 そんな感覚って、経験ありますよね。


 「あの、この度は歓迎ありがとうございます。その、仕事に支障が出るので、吸血はやめていただけたらと。」


 「あら、そうなのねぇ。うふふ。また今度誘っちゃおうかしら?」


 その人は私の頬に口付けをしてから、離れてくれた。


 ちょっと距離感が掴みにくいな。

 文化の違いだな、と。


 ちなみに、彼女に案内されて進むと、彼女の露出はまだマシな方だと気づきました。


 ビキニとか水着みたいなのとかたくさんいるし、ほぼ裸、みたいな人もたくさんいる。

 一応、大事なところ?は隠してあるけれど、肉体美?みたいなのに拘っている人が多いのかもしれない。


 まぁ、外での厚着の反動というのが正確らしい。

 吸血鬼たちは、日光を浴びて消滅はしないものの、肌は弱いらしい。よって、樹海の外では肌を出さないような格好が強いられる。(首から上は出している人が多いけど、日傘は必須なのだと。)

 その反動で樹海では、衣服から解き放たれているのだそうだ。


 私の地球でのイメージだと、男性はなかなか布面積が大きい服が多かったと思う。けど、ここでは男女構わず、布面積が小さい。うん、どこを見ていいのかが分からない。顔以外を見れないね。


 ちなみに、ほぼ全員が永久脱毛みたいなことをしているらしい。

 肌の美しさが際立つからだそうだ。


 適当な雑談をしながら城らしき建物へ案内してくれる。

 見た目は the 魔王の城といったところか。


 ちなみに、通り過ぎる時に、ガン見はできなかったが、彫刻のような変わったポーズをとった人たちがたくさんいたのだが、理由を聞くことは叶わなかった。

 苦しそうなポーズなのに、あの停止は物凄いと思った。だるまさんが転んだは優勝だろう。


 「こちらが、王の間です。王がお待ちです。謁見の準備は整っておりますので、どうぞ。」


 豪勢な扉が自動で開いていく。

 このからくり仕掛けの犯人はドワーフに違いない。


 扉が開き、中に進むと、レッドカーペットが敷かれていて、両サイドには吸血鬼の人たちが、ポーズをとっている。


 それはスルーして、目の前を見ると、豪奢な壁のつくりに感動させられるところだが、玉座がない。


 謁見というのであれば、王がすでに座っているものと思っていたが…。まぁ、実際に謁見したことがないから分からないけど。ただ、椅子すらないのは不自然だと思う。いくら知識が漫画や創作物だったとしても、実際のものを参考にしているはずだ。


 突如、ドラムロールがなり、演奏が始まる。


 瑞稀が私の腕からするりと出てきて、人の形をとった。

 楓も静かに立っている。


 そして、なんと、玉座の周りから煙が噴射され、地面から椅子がせりあがってくる。


 大袈裟すぎる仕掛けだ。


 まじで、演出凝りすぎだと思う。


 玉座に座っている男は、腕に包帯を巻き、眼帯をつけ、ゴテゴテの服をきている。


 突如立ち上がり、ターンを決め、バッサーと蝙蝠のような羽を広げた。


 「我が名は、破滅(ロードオブ)の王(カタストロフィ) ジェネティーヌ・ド・シラネーゼ。吸血鬼の王たる男だ。我が名をよく覚えておくことだ。此度はご苦労であった。丁重にもてなすゆえ、よしなに頼む。」


 なんか、とても痛々しい人だな。


 「えぇと…セシルです。丁寧に対応していただき?、ありがとうございます。コミュニケーションも今のところ?問題なさそうですし、仕事も捗りそうです。」


 無難に挨拶してみた。

 コミュニケーションに関していうのであれば、彼が出てきてから心配でしかないのだけれど。


 「姫君よ、我に血を恵んではくれぬか。我などあなたの魅力に惹かれる虫に過ぎぬ。美しい花よ、我に血を…」


 この人(名前長過ぎて覚えられてない)が何かを言い始めた途端に楓は動き出し、言葉を遮るようにして、気絶させた。


 「全く、さっさと代表のものを出さぬか。」


 呆れたように瑞稀がいう。


 この人、王ではなかったか?


 私のその疑問を察したように瑞稀がいった。


 「そもそも、集落ゆえ国ではないし、長もいない。代表はこの集落にある学校を卒業した面々から当番制で選ばれる。王制ではないのじゃ。」


 は…?

 じゃ、この人なんなの?


 「其奴は、あの奇特な選手権の優勝者じゃろう。我には理解できぬが、名乗りや会話での美しさや美を求めとるそうじゃ。それの優勝者が謁見をするのが恒例行事なのじゃ。」


 まじでなんですか、それは。


 「ある種、病的なそれは蔓延しておるのぅ。誰もがノートを隠しておるものじゃ。」


 それはどこの文化ですか。


 「まぁ、それは良いとして、お主が考えておるようなことも相談できるかもしれんぞ。」


 それは…、隠し事はできないということですか。


 私は困ったように笑った。


 構想段階のそれは、いつか実現できることを祈っている。

 さて、何年後かな。



♦︎♢♦︎


 「これはこれは、茶番に付き合っていただき、ありがとうございました。」


 「全く、毎度のこととはいえ、よくもまあ。」


 今度こそ代表と思われる人と対面した。

 瑞稀はその人に対しても適当な態度を取っている。


 「誰しもが通る道です。黒歴史のひとつやふたつ、えぇ。」


 それは黒歴史に触れるのはNGと暗にいっているのだろうか。

 彼の笑顔のプレッシャーが怖い。


 正式な場では露出は控えめのようだ。

 うん、ありがたい。


 「ゆっくりしていってください。できる限り最大限のおもてなしをさせていただきます。」


 たとえ彼が、オッドアイで、意味もなく腕に包帯が巻かれていようとも。


 彼はいい人なんだろう。



 私は、今後の構想も含めて、相談をした。


 有意義な時間だったと思う。



♦︎♢♦︎



 しかし、疲労は溜まる一方である。


 食事はとてもおいしかったし、ベットもふかふかだし、素晴らしいおもてなしである。


 スタッフさんが毎度のように血を求めて来なければ…

 そう、意味もないポーズとターンを毎度見せつけられなければ…


 所々に置かれているダンベルや、筋トレ器具の数々。


 衝動的に芸術作品を作れるように、一定間隔をおいて、キャンバスと画材、そのほかが置かれている。


 モニュメントは触れると動くとか、隠し扉のギミックとか、無駄なからくりがたくさん搭載されている。

 勿論、罠もたくさんあった。



 精神的に、何かがゴリゴリと削り取られていくのを感じた。



♦︎♢♦︎


 結果からいうのであれば、今回の出張は大成功だろう。


 仕事も滞ることなくこなすことができたし、利益もたくさんでた。

 加えて、各種族とも関係を築くことができた上、その他の構想なんかもしっかりと練った。


 うん、よかったよ。


 ただ、1人で行くのは無謀の極みだと私は思った。


 精神がもたない…、色んな意味で。

なんかちょっと、思ってたのと違う。


吸血鬼たちの樹海は遊び心の塊です。

ロマンこそ正義。


唆ることなら意味がなくとも全力でやる。

これが、吸血鬼クオリティ。


厨二病的な人たちや、ボディビルダーみたいな肉体美を求める人たち、芸術は爆発波の人たち、など。

浪漫を求めし者たちが集う場所。


※移住は歓迎。すぐに染め上げられる。血を吸われる。


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4/1 更新予定


「魔女の弟子と劣等学級- I 組生徒の過ごし方 -」

https://ncode.syosetu.com/n6678hl/


世間知らずの歴戦の女の子が学園に通って初めて人と交流する話です。

各話のタイトルが英語になっていますが、全て日本語で書かれてますのでご安心ください。


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次で留学を終わらせる予定です。

時間軸が飛びますが、必要なことは全て書いた、はず。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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