授業後半戦
放送が一時中断されて、休憩のひととき。
「お嬢さま、よかったですよ。私も面白かったですし、ペンの持ち方については旦那さまの持ち方の方が自分のよりも美しいと気づいたので直しましたし、ほら!」
エマがフォローしてくれた。
ここにいる使用人の皆さんや、お父さま、お母さまの感触は良さそうだった。
しかし、彼らの感触が良さそうだからこそ、テンポが早すぎたんじゃないかと思うんだよね。
ここにいる皆さんは、文字の読み書きは最低限できるのだから。
「セシル、私もよかったと思うわよ。最初から文字を一つずつ教えずに、名前を書くというところが特にね。一文字ずつ習ったら、自分がちゃんと使えるまでに時間がかかってしまうけれど、名前ならちゃんと使えるからね。洗礼式のあの紙にそんな価値を見出すとは思わなかったわ。」
「ありがとうございます。でも、洗礼式がまだの子はできないんですよね。それが残念です。」
「うん、それは仕方がないわね。今のところは改善案がないもの。またゆっくりと考えればいいわよ。」
「はい。」
「セシル、ノエルが入ってしまって予想外だったが、私個人としてはノエルがいる方が面白く、わかりやすいと思うのだが。どう思う?」
「私も、実は、ノエルに助けられてしまって。後半も居てもらおうかなと思っています。」
「お姉さま?」
ノエルは、自分のノートにたくさんのものを書いていた。
ノエルを参加させるのならば...
「ノエル、ノエルってこう書くのよ。練習して、表紙に書いてみたらどうかな?」
「ノ、エ、ル?」
ノエルはその言葉を反芻してから何度も書いて、やがて表紙にノエルと書いた。
この子、私の言っていること理解しているのかな??
凄くない?
大人びているにも程があるでしょう?
さて、後半戦だが、ちょっと話をしてから、算数の導入をする予定だ。
最初は、名前を書くことができたかって話と、オレンジ色の教科書、文字の書き方についてのちょっとした説明。
それが終わったら、算数の話をする。
まずは数字の書き方。
そして、足し算という概念を。
ちょっと駆け足だけれど、数字の書き方はまた次回一からやるつもりだし、足し算ももっとゆっくりやるつもりだから。
今日は、算数の雰囲気が伝わってくれればいい。
私は黒板に向かった。
私の身長が足りないので、台を使って書く。
前々から思っていたけれど、黒板に字を書くって難しい。
サイズ感が特に。
私はオレンジ色の教科書、文字の書き方をまとめた教科書のある1ページを黒板に拡大して書き写している。
きついなぁ。
書き終わったところで、あっという間に時間になってしまった。
腹を括ってGO!!
<オリエンテーション後半戦>
皆さんこんにちは。セシルです。
ノートに名前を書くことはできたでしょうか??
ちなみに、私の弟であるノエルにも試しに書かせてみました。
こんなかんじです。
いかがでしょう??
こうやって、書ける文字を増やして、使えるようになりましょう!!
さて、次回以降の文字の勉強ですが、次回が待ちきれないという方もいるでしょう。
そこで、オレンジ色の教科書の使い方をお教えしたいと思います!
見てください。
私がその教科書の1ページを書いたのですが、このように1文字が大きく載っています。
そのページは一番大きな文字を勉強するページということです。
そして、下には書き順、つまり、どこから書いたらいいのかなってのが書いてあります。
こんなふうに、まずはここ、次にこれ、って感じで前のに書いてなかった、付け足された線を書いていくと、文字が出来上がる仕組みです。
そして、文字を使った言葉が書いてあります。
絵が書いてあるので、それがどんな文字か分かると思います。
習っていない文字も是非一緒に書いて真似してみましょう。
これから一緒に文字を書けるようにしていきますが、残念ながら週に一度こうしてお話しするだけでは書けるようにはなりません。時間がある時でいいのでちょっとずつ、気になった文字を書いてみましょう。
全ては積み重ね、継続は力なりです。
こんな表が載っているページがあるのですが、ここに全ての文字がまとまっています。
これを全部書けるようになれば完璧ということです。
これを目標にしていきましょう。
さて、これで文字の話は終わりです。
こういった内容をやるのを国語と呼びますが、これからやるのは算数というものです。
この2つを毎週やっていくのですが、今日はそれぞれがどんな感じかなってのを知って欲しいなと思っているので、できなくても問題ありませんよ。
算数ってのは数字のお話です。
女神さまのお話でもよく出てくる数字ですが、皆さんの指には7本の指がありますが、それ以外にも数っていうのは身近に潜んでいるものです。
まずは数字を見てみましょう。
これらが、1・2・3・4・5・6・7ですね。
青い教科書の最初の方のページにも書いてあるのでそちらを見るとわかりやすいと思います。
数ってなんだろう??どうしてこんな数なんだろう?というふうに考えて算数の最初では数について知ろうと思います。
そのあとは、足し算というものをやります。
私の手元を見てください。
ここには4つのリンゴがあります。
お隣のノエルから2個リンゴをもらいました。
今、手元にリンゴは何個あるでしょう??
ノエル : 6個!!
そうですね、数えてみるとこのように、6個あります。
これを、足し算で表すと、
4+2=6
となるのです。
=は同じってこと、
+は合わせることを意味します。
4このリンゴと2このリンゴを合わせるよって意味で、合わせたら6個だよと書いてあるのです。
数えればいいのに、なんでこんなことをするのか、それは、その方が早いからです。
これができるようになると、数えられないほど大きな数でも同じことができるようになるのですよ。
ノエル : 本当に?
えぇ。
たとえば、そうですね。
洗礼式を受けていない子供が11(**)人と洗礼を受けた人が16(**)人いたら、全員で何人か、とあったとしたら、私は数えることなく、27(**)人とわかります。
ノエル : じゃぁ、子供が32人、大人が44人だったら?
そうですねぇ、32(**)と44(**)ですから、76(**)人ですね。
ノエル : それ、本当にあってるの?
気になる方は、是非数えてみてください。
多分、合ってると思いますよ?
こんな風に、数えなくても、数えるより早く数が分かるようになる、それが目標です。
皆がそれを楽しく身につけられるように、こんなカードを使ったゲームを作りました。
まだ先のことですが、是非、楽しんで欲しいと思っています。
少し、短いですが、本日の放送はこれで終わりになります。
これからやることがどんなことなのか、なんとなく分かってくれたら幸いです。
名前の書き方がわかった皆さんは、次回までに、自分の名前を書けるように練習をしてみてください。
次回はちょっと面白いことを考えています。
その時、自分の名前がスムーズに書けたほうが面白いと思うので。
では皆さん、次の休息日に。
ごきげんよう。
<オリエンテーション後半戦・終>
「お疲れさまでした、お嬢さま。」
「ありがとう。」
労ってくれた皆に、感謝をした。
「ご苦労だった、セシル。最後の数字の話は私も知らないことが多くて面白かったぞ。」
「そう思ってもらえると嬉しいですが...。なにぶん、メインターゲットの方々の反応が分からなくて、今回のをどう思っていたのかが、一番知りたいです。」
目の前で聞いていた人たちは文字が既に扱える人たちだ。
本来のターゲットは、文字が書けない人たちだから、参考にはならないのだ。
「あぁ、問題ない。次の休息日までで、我々が全員がかりで全ての村々に視察に行くことになっている。詳しく、今回の評判を聞くためにもな。」
「それはありがたいです。もし、余裕があればでいいのですが、この放送に参加している、まだ洗礼式を受けていない子達に名前の書き方を教えてあげられませんか。次回の企画で置いてけぼりになってしまうのはちょっと辛いと思うので。」
「あぁ、うちに勤めている者たちは皆、字が扱えるからな。ところで、次回の企画とはなんだ??気になるのだが。」
「それは秘密です。」
マジで、これは言ってしまったら楽しさ半減な感じのやつだ。
気にいる人がどのくらい居るかは分からないが、女の子とかは好きな気がしている。
名前だけ書ければできて、名前を何回も書く機会があって、名前が書けることを人に自慢できる。
前世では思い出要素が強かったり、それぞれ自分の名前をどう書くかまで含まれていたけれど。
「はっはっは。それは残念だ。次の休息日を待つとしよう。」
「大丈夫よ、セシル。ここに居る皆には大好評だったのだから。文字がまだ扱えない子達にとってどうだったかは知る必要があるし、問題があるなら改善しなければならないけれど、面白いってことは確かだから。それに、ノエルも大活躍だったわね。いつも、セシルと一緒にいるだけあって、リンゴの数を出すのが速かったわ。それに、みんなが聞きたいことを聞いてくれるんだもの。この掛け合いがいいわよねぇ。」
確かに、今回、ノエルの存在は大きかった。
漫才でいう、ボケとツッコミか。
問題集でも、分からない人に先生的なキャラが説明していくって構図はあったからね。
今度はもっとしっかり取り入れてみよう。
うーん...まだまだだけど、カメラの前で物怖じしなかった点だけは及第点だな。




