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日本食パラダイスほか

久方ぶりの更新です。

小噺のように細かい話の詰め合わせになりますが、今後の伏線?みたいなものになる予定です。

 実は、この度、出張することになりました。


 内容は、亜人集落の固有能力のチューニングです。


 始まりは、ディスプレイが誕生し、教会、というか洗礼受託場の機器の扱い方が判明したことだった。

 洗礼受託場に併設されている施設を利用することで、固有能力を自分のものにしたり、破棄したりすることができるのだった。それらは既知だったが、ディスプレイによって、固有能力はそれぞれの身体的特性に合わせてチューニングしなければスムーズに使うことができないと判明した。

 そして、そのチューニングを行ったのが私なのだ。


 私が行うことができるチューニングは最も簡易的なもので、データの半分も活かせていない。データを測る計測機器も簡易的なモノであるから、実際に活かせているデータなど微々たるモノだろう。


 それらを勉強する傍ら、簡易チューニングを請け負っている。


 それについて他の集落からも要請が来たというわけだ。


 ドワーフの街にある程度の施設ならば、亜人集落ならどこにでもあるそうで、ディスプレイさえ持っていけば、すぐに使えるそう。




 そして、現在に至る。


 「<いつもは食べられないですが、やっぱり最高ですね。本当、こういうことがしたかったんですよ。>」


 「<修行後とて飯を出さなぬわけじゃなかろう。我も鬼ではない。ただ、お主が食べられないだけだろうが。>」


 「<あんな運動の後じゃ、何も食べれませんて。食欲なんて沸きませんよ。>」


 日本食を食べながら感涙…もとい、愚痴を漏らしている。


 忍者の集落で修行こと運動をしているセシルだが、その後日本食(和食)を出されても、気分が悪くて食べることができないのだ。


 忍者の集落での修行は限界までセシルを追い詰めるもので、吐き気を催すのは当然のこと、失神させてもらうことはできず、目の前が揺らいでくるようなものだ。

 次の日以降の予定や、仕事には支障が出ないように調整しているのがまたイラっとすることでもある。なぜなら、体を壊さないように限界まで追い詰めることは完全にセシルを理解してコントロールしていることの表れであるから、セシルが嘔吐しながら修行するのも彼らの思惑だとわかるからだ。


 味噌汁を啜ると、体が内側からあったかくなる。


 「<例の書か。>」


 「<はい。これが、システムが理解できる言語に関する本です。>」


 私は食事の傍開いていた本を見せた。


 「<かなり多くの言語に対応しているみたいです。彼の知識には圧倒されます。>」


 「<知識には貪欲じゃな。さすがは研究者とウマが合う人物というわけか。>」


 現在修行を見てくれている師匠はそういう。


 「<ごちそうさまでした。そろそろ仕事の方に行きますね。>」


 私は手を合わせて挨拶をしてから、洗礼受託場に足を運んだ。



 私は忍者の集落に数日間滞在した後、たくさんの日本食土産をもって次の集落へ移動した。

 移動はまさかのランニングだ。


 瑞稀の背の上に乗ることでかなり楽をすることができるはずなのだが、運動量が足りないとマラソンをさせられることになったのだ。正直、辛い。



 次に向かったのはオークの集落だ。

 残念ながら言語がわからないため大変だろうが、まあ仕方がない。

 それよりも現実的な問題は、オークの集落が王都周辺に存在することだろう。

 馬車での移動で一週間はかからないとはいえ、かなりの距離だ。


 野宿をしながらの走って移動。

 正直、5(**)歳の体には堪える。地球でいうと、7.5(**)歳か?

 さらに、地面はコンクリでもアスファルトでもない。競技トラックならさらによいが、私が走っているのは山道。木の根っこが邪魔をし、平でない道。


 そんな中、瑞稀がこう言う。


 「<平らでない地面は走りにくかろう。木の上を伝うがよいじゃろう。>」


 いや、木の上を進むほうがよほど辛いですが。


 そんな言い訳をさせてもらえるはずもなく、私は木の枝を手足をフルに使って進んでいく。

 私は前世、まともに"うんてい"すらできなかった子ですよ?


 "うんてい"=雲梯。校庭に置かれている遊具の一種。


 木の上を進む、むしろ、木を登れるようになっただけ褒めて欲しいね。

 めちゃくちゃ怖いし、腕痛いんだから。


 とはいえ、自己強化魔法くらいは使っているのでまだマシですが。

 そのうちきっと、魔法禁止令が出されるんだ…。



 そうしてたどり着いたオークの集落。

 途中で野宿をしたとはいえ、疲れが取れるはずもなく、もうすぐにでもぶっ倒れそう。いや、ぶっ倒れてました、既に。


 「<セシル、遅かった。もうだめ?>」


 目を開けると、楓が覗き込んでいた。


 「<そこらへんにしておくのじゃ。一応、完走させたのでな。>」


 珍しく瑞稀が庇ってくれた。

 否、厳しい修行のあとは、いつも優しかった。

 これぞ究極のアメとムチ。


 「<完走、セシルにしては頑張った。えらい。>」


 よしよしと頭を撫でてくれる楓に優しい気持ちになる自分と、私じゃなかったら頑張った範疇に入らないのかとちょっとショックを受けた自分がいた。


♦︎♢♦︎


 「[ようこそ来てくださいました。私が長をしておるネブラと申します。]」


 集落の言葉、ラテン語で瑞稀に声を掛けるのがオークのネブラ。


 「[久しいな。知っておるじゃろうが、我は瑞稀。そっちのがセシルじゃ。少々キツい修行の直後でのぅ、休ませてもらえんか。]」


 当然のようにラテン語を話すのは瑞稀だ。


 「[勿論です。瑞稀さまの紹介で滞在している男も同じ場所に滞在していますので、少しでもくつろいでいただけたらと思います。]」


 「[心遣い感謝する。確かに奴もここに滞在しておったな。]」


 瑞稀は思い出したようにそう言う。

 奴、とはローム、ブルナン・ジェロームのことである。

 レオンの魔法の師匠にして、短期間だがセシルとノエルも魔法の指導を受けている。


 「[彼、ロームの魔法への興味好奇心は素晴らしいものです。言語も徐々に習得してきており、基礎の基礎ですが魔法も扱い始めています。彼の事情で数ヶ月後には一度、離れなければならないそうですが、次の滞在のときまでに大きな成長を期待できそうです。]」


 ネブラはロームについてかなり評価しているようだった。


 「[魔法に対する態度は真剣そのものじゃからな。期待できそうでなによりじゃ。]」


 瑞稀も想定通りかそう答えた。


 「[では、ご案内します。こちらへ。]」


 ネブラはセシルを抱えた瑞稀と隣からセシルの頬を突っつく楓を滞在する場所へ案内した。



 「[師匠…?]」


 「[客人だ。世話を見てくれ。]」


 ネブラを見たブルナンが訝しむと後ろから見覚えのある人影が見えた。


 「*セシルに瑞稀?あと楓?*」


 あまりに驚き人間の世界での共通語で叫んだ。


 「*セシルは休んでおるのじゃ、静かにせい。*」


 呆れたように瑞稀は言うが、セシルがぐったりしているのは瑞稀のせいである。


 「*どうしてこんなところに…?*」


 「*仕事じゃよ、此奴のな。時間があればお前のも見てくれるやもしれんぞ?*」


 瑞稀は意味ありげにうっそりと笑った。



 セシルが目覚めたのは暫くしてからだった。


 「<ここは?>」


 「<オークの集落じゃ。分かっていると思うが、共通語はラテン語じゃ。日本語は通じんぞ。>」


 「*…分かってます。ってブルナンどの?*」


 「*よぉ。この言葉も久しぶりだな。*」


 ブルナン・ジェロームは地べたに座ってニヤッと笑った。


 忍者の里に引き続き、オークの集落も机と椅子ではなく、床に座る文化なのだ。


 「*お久しぶりです。お元気そうでなによりです。*」


 「*そっちこそ。俺だけあったなんて知れたらレオンもノエルも怒り狂うだろうぜ。*」


 「*そうですか?そんな過激なことにはなりませんよ。私と会わずとも、充実した生活を送っているでしょうから。*」


 冷や汗をかくブルナンに首を傾げるセシル。


 「*…仕事、瑞稀、仕事は大丈夫なの?*」


 「*問題ない。明日からじゃ。*」


 「*ふぅ。なら、いいかな。*」


 仕事を気にする必要がないと知ってセシルはリラックスした。


 「*その仕事ってのはなんだ?*」


 「*ちょっと最近始めたことなんですけど…、各種族における固有能力の調整です。*」


 「*は?*」


 ブルナンはわけが分からないという表情をしている。


 「*説明するのも難しいので、大人しく明日を待ってください。*」


 そう言ってセシルは話を切り上げて持ってきた本を読み始めた。


 その日は夕食を食べてから気絶するように眠りにつき、次の日に備えたのだった。


♦︎♢♦︎

 翌朝


 「*で、何をするんだ?*」


 「*…そもそもの前提を理解しておられないようなので、どうしたものかと考えています。正直、説明なんて瑞稀にバトンタッチしたいです。*」


 洗礼受託場にて仕事の準備をしながらロームの問いにセシルは答えた。


 「*そうじゃのぅ。我が説明してやろうかの。オークの使う言葉で…*」


 セシルの腕の中からゆっくりとでてきた瑞稀は舌なめずりしながらそう言った。ロームは若干青ざめていた。



 セシルは機材をセットして、さらにオークの集落の洗礼受託場にある固有能力にアクセスして内容を確認する。本を片手に、内容を理解しながらの作業だ。



 「*はぁぁぁ? 固有能力が2つ以上?ふざけてんのか?マジかよ、だったら今までなんだったんだよ。*」


 「[言葉が戻っておるぞ。それはただの前提じゃ。本題はそこではない。セシルに任せるのはその先なのじゃ。]」


 ロームは叫んだ。

 人間たちの間での常識がひっくりかえされたのだから仕方がないことだろうが、瑞稀は溜息をついて呆れたように言ってから、先の説明へすすむ。



 しばらくして、オークの集落の長であるネブラが洗礼受託場を訪れた。


 「[ネブラよ、こやつに説明しておらなんだ。]」


 瑞稀が問ふ。


 「[それはすみません。あまりに常識だったもので見落としておりました。我々の落ち度です。]」


 ネブラは頭を下げて謝罪する。


 「[咎めはせん。気にするでない。我とて忘れていたくらいだしのぅ。]」


 瑞稀はそう言ってその場を収めた。

 瑞稀は事実を確認したかっただけで、咎めるつもりはなかったのだから。



 「[ところで、その、もう準備は終わったのでしょうか。]」


 ネブラの問いに瑞稀はセシルを振り返り、目線を合わせてから答えた。


 「[問題ない。お主からで良いか?]」


 「[はっ!ありがたき幸せ。]」


 口調がどこぞの軍隊のようだが、セシルには理解できなかったのが不幸中の幸いか。


 セシルの作業は淡々としていた。

 慣れていた、というのもあるだろう。


 「<首尾はどうじゃ?>」


 「<上々。見たことない固有能力があって面白いね。ほら、魔法系統の能力が多いのもここの特色でしょう?>」


 休憩時間に談笑する2人。

 日本語で話しているから、傍に待機しているロームには意味が分からない。



 「<魔力を色として知覚する、なんて、ファンタジーがすぎるよ。>」


 「<お主はそういうが、こちらでは魔法はファンタジーではなく確立された技術なんじゃよ?>」


 「<分かってる。こっちで生きると決めたけど、向こうの感覚は抜けないな。私は私なんだろう。>」


 セシルは困ったような表情でそう答える。



 その日のうちに作業は終了した。


 そして、ふと思い立ったようにセシルは言った。


 「<ブルナンどのの分はやらなくていいの?>」


 「<…ロームか。必要かのぅ。>」


 なお、日本語だったので本人には全く理解できていないが。


 その後、瑞稀がその旨をブルナンにラテン語で伝え、協議の結果、ロームにもメンテナンスをすることが決定した。



 どんな固有能力を選び、どんな出来になったのかは、またいつか機会があるときにでも…。



♦︎♢♦︎



 その後、セシルが向かったのは、吸血鬼が暮らす地域だ。国、と言ってもいいかもしれない。


 セシルが初めて足を踏み入れた吸血鬼の暮らす地域は魔境だった。そう、魔境なのである。

「自己研鑽編」かなり長くなってしまったので、そろそろ収めようと思うのですが、もう少しお付き合いください。

これが終わったら、また少し時間軸を進めて、7歳になったセシルが年始めの夜会に出席するところを書きたいと思います。その後も色々構想はあるのですが、なかなか具体的にするのに戸惑っているところです…。


以下はお知らせです。


*******************


日付の一の位に"1"がつく日(1日, 11日, 21日, 31日) にはなにかしらの更新をする予定です。


最近は別作品も書いてます。


「魔女の弟子と劣等学級- I 組生徒の過ごし方 -」

https://ncode.syosetu.com/n6678hl/

世間知らずの歴戦の女の子が学園に通って初めて人と交流する話です。

各話のタイトルが英語になっていますが、全て日本語で書かれてますのでご安心ください。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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