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新しい固有能力?

 その日、街に激震が走った。


 「緊急情報です。本日、洗礼にて新しい固有能力が発現しました。これに関する会見は正午より大講堂にて行われます。席は抽選になる可能性がありますので、一時間前までには整理券の受け取りを終えてください。また、洗礼に関する専門家の皆さんは事前の会議が行われます。洗礼受託場にお集まりください。以上、ご静聴ありがとうございました。」


 洗礼で受託した固有能力に関する説明を簡単に聞いた次の日のことだった。


 「これって、ラジオみたいな放送だよね?」


 「お主らの言う"ラジオ"を我は知らないが、そういうことじゃろう。お主が授業を始めたあたりから検討を進めていたのじゃ。まぁ、実現してて当然だろうな。」


 私は、固有能力うんぬんよりも、街中に設置されたスピーカーと思しきものから放送が聞こえてきたことに気を取られた。


 「たとえ、実現していても世に普及させるのでは話が違うと思うんだけど。」


 「それは、この街の特性じゃろうて。」


 呆れたように私が言っても、当然とばかりの瑞稀には驚愕が通じないらしい。

 エマール領自体も技術の普及が早いと思うが、ここはそれ以上と思われる。


 普通、というか、地球(現代日本)の常識からして、新しい技術を入れるためには権利の問題を法的に片付けてから、公的に行う場合は予算案を議会に通して、その後担当省庁へ引き継がれ、入札ほか委託、そして工事をしますの申し入れをして…と手順がやばいのである。


 権利でごねたりする人もいないあたり、考え方が違うのだろうなと思う。


 そう、この街では工事するものがなくなったら、どこかを壊して立て直すという意味の分からない常識を持つのである。数ヶ月くらい見ていないだけで街の景観が変わってしまう。


 曰く、前回よりもいいものができる自信がある。

 曰く、新しいところに住みたくない?

 曰く、壊したものを使えば無駄な材料費もかからない。

 曰く、新技術試したいじゃん!


 私からしたら、意味わからないにも程がある。

 しかし、新しい知識や常識への抵抗感のなさはここの発展に大きく関わっているのだろう。


 …そして、すでに街中にスピーカーが設置され、この放送が流れたというわけだ。


 「このスピーカーが普及する前ってなにで代替してたの?もしくは、ないとか?」


 「これの前は魔法じゃな。これも魔法を使った道具じゃが、以前は拡声魔法を使っておったぞ。空気の振動を大きくするだけだが。」


 なるほど。

 でも、そしたらスピーカーいらなくない?


 「それは、新しもの好きということじゃろう、ここの連中は。」


 そっか…となんとなく納得してしまうのがなんか悔しい。


 「さて、では我らも向かうかな。」


 「どこに?」


 「決まっておるじゃろう。洗礼受託場じゃ。」



 なにをトチ狂ったんだ?


 「洗礼受託場では固有能力・洗礼に関する専門家による会議が行われているのでしょう?私たちが行っては邪魔でしょう。それに、そこになるべく人を寄せ付けない為にわざわざ放送で流したのでしょう?なら、それはよくないのでは?」


 瑞稀はなにを考えているのか疑問に疑問を重ねつつ、尋ねた。


 「我らは洗礼の専門家チームに外部で呼ばれる有識者、という立場じゃ。こういう場合は出席する権利と義務を有しておる。お主、気づいておらなんだ?」


 は?

 なにそれ、初耳なんですけど。


 「はぁ。ここへ来るときに説明したじゃろうに。お主は第一及び第二研究所の非常勤統括アドバイザーに就任しておる。留学期間中は週休3日のフレックス勤務、それ以外は時給換算または対価報酬制で賃金が支払われておる。口座は市民証作成時に開設し、現在はそちらへ振り込みがされておる。現金として引き出すことも可能じゃが、基本的にはキャッシュレスゆえ、そのまま使っておる。留学期間の滞在費もそこから出費しておるが、研究所からの家賃補助制度を利用しているからかなり安上がりなはずじゃ。そのほか、衣類や生活必需品もそこから支払われておる。なんなら、人を雇うことも可能なくらいに稼いでおるぞ?その割には質素な生活をしておるからな。」


 「チョットナニイッテルカワカラナイカナ。」


 かなりゆっくり話してくれたとはいえ、分からない単語が多すぎた。最も、日本語で説明されても理解などできないだろうが。


 瑞稀は全く理解できていない(二重の意味で)を察したのか、日本語で説明してくれた。

 本当に、日本語が喋れる瑞稀は貴重だよぉ。

 瑞稀って結局のところ何ヶ国語話せるんだろうな。


 呆然としながら、追い討ちをかけるように待遇や口座、街での決済方法を右から左へと聞き流しているうちにたどり着いた。



 ー洗礼受託場ー


 「皆さんご存知だと思いますが、こちらがセシルどのです。」


 「ドウゾヨロシクオネガイシマス。」


 「こやつが働かなかったら我が叩いてでも戻すから気にするでない。」


 形式的に会議に参加しているメンバーを確認する際に、瑞稀が不穏なことを言っていたが気のせいに違いない。


 「こちらが今回新しい固有能力を得たイーヴァルディどのです。彼は工房で下積みをしながらギルドで個別に細工依頼を請け負っています。彼の実績をまとめました。興味がある方はこちらの紙に記載されていますので確認してください。」


 "実績"というのは"大会で1位になりました"とか、"世界最強"とかではなく、単純にどんな仕事をして、それがどのような評価をなされたのかということである。


 「では、新しい固有能力名ですが、"ディスプレイ"というそうです。」


 "ディスプレイ"…まんま画面じゃありませんか。

 待てよ、捻りがなさすぎる。

 ディスプレイ→ディス・プレイ→ディスるプレイ→悪口大会?

 流石にそれはないか。

 でも、ディスプレイ→this play / this pray はあり得る。


 固有能力名はこちらの世界の文字(人間が使っている文字)によって書かれるため正確な意味が読み取りにくい。さらに、英語やその他の言語で能力名をつけたりするので、カタカナで読み方を振りましたみたいな違和感がすごい。


 「固有能力は本人の特性を表すというのは既に明らかになっている事実です。故に、工房で実績を積み上げている彼の持つ能力ならば、モノを作るための道具や知識という可能性が高いでしょう。」


 なるほど。


 「では、イーヴァルディどの、能力について説明していただけますか。」


 「はい。あるもの、おそらくは"ディスプレイ"を作るための知識が与えられています。それは、板のようなもので、絵がどんどん変わっていく、みたいな不思議なものだと思います。俺の主観ですが、思っていることを映し出すようなそんなモノだと思います。」


 ディスプレイ(画面)だな。

 最も、ディスプレイとはコンピュータの出力器のことを言うのであって、自らの脳内を映し出すような性能は備わっていないはずだ。


 「絵が変わる?」

 「絡繰には詳しくはないが、後ろに別の絵を仕込んでいるのではないか?」

 「そもそも、作り方という知識を得てそれを安易に作っていいモノなのだろうか?」

 「作らなくては分からないだろう。」

 「しかし、工房の親父さん方は悔しがるんじゃないか。」

 「矜持の話をしているのではない。そもそも、そんなくだらないプライドにしがみついているような奴はここじゃ堕ちていくだけなんだ。」

 「そうだ、なんならあとで解剖でもして作れるようになればいい。」

 「その通りだ。まずは見なきゃ分からないだろう。一つ作ってみてそれからだ。」


 反応はさまざま。


 「粛に。イーヴァルディどのもセシルどのも困惑しているではないか。瑞稀どの…は無関心か…。」


 まじで、瑞稀なにをしているの?


 「では、セシルどのに聞きたい。この能力についてどう思う?知っていることはあるか?」


 急に振らないでよ。


 「質問に答える前に、一つ。なぜ私に聞くのですか?」


 時間稼ぎです、すみません。


 「それは簡単です。転生者が現れると新しい固有能力が次々と誕生するのですから。」


 は?

 別に答え期待してなかったんだけど。

 というか、時間稼ぎで聞いただけだったんだけど?


 「女神さまは転生者にかなり強い関心を寄せています。気に入られると、新しい固有能力のフィーバーが訪れます。今回がその第一弾だとするのであれば、転生者であるセシルどのの目指す何かの助けになるものである可能性が高いです。」


 えぇ…。

 女神さまに目付けられているの?

 ヤダァ、なんでよ。


 「故に、是非意見を伺いたいのです。」


 キラキラとした目で見つめられても…。


 しかし、思い当たるところがないわけじゃない。

 先日、思ったんだよ。


 (ディスプレイがあったらなぁ〜。)


 そう、洗礼について聞いて、クラウドとかの話した後。

 心の中でボヤいてしまったのです。


 あれが?

 女神さま、行動早すぎやしません?

 というか、見張られてたの?


 「確かに、その能力に心当たりがあります。ちょっと、女神さまへの不審(ストーカー疑惑)がありますけど、正直ありがたいです。結論から言うと、環境保全に問題がないかぎり、積極的に作って利用すべきであると考えます。これは常識をひっくり返すような革命のその一端です。洗礼で得る固有能力に頼らず、自らで知識を蓄積していく皆さんを、私は尊敬してます。ですが、これに関しては、作るということよりも利用することにリソースを割くべきと考えるからです。ディスプレイの製造方法や具体的な仕組みを暴くのと並行して、どのように使うべきか、使いこなせるのか、それを考えることに多くを費やさなければならないでしょう。私は、この固有能力の発現を嬉しく思います。」


 的確に答えようとしたけど、現物なしで説明するのは無理だと思う。


 「すみません、現物がないと説明が難しくて。その…皆さんが不思議に思っている市民証とかのシステムをちゃんと使えると思いますよ?」

 

 私のその一言に驚愕を覚えたのか皆が絶句した。


 「私が考えているのと同じものだとするのであれば、えっと、イヴァ…彼の思ったことを映し出すというのは恐らく間違っています。ですが、概ねあっていると思います。この世界におけるデジタル化については仕組みが根本から異なっていますし、まずは作ってみるべきでは?と私は思いますね。」

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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