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生存報告

 「おぉ〜。視界がクリアだ。」


 眼鏡を初めてつけた時は感動ものだ。


 涙を流してもよかったかもしれない。

 いや、流石に涙腺は緩まなかったが。


 「暫くは慣れずに頭痛を起こしたりするかもしれませんが、暫くしたら慣れますから。もし、それでもダメならもう一度相談してください。」


 スズリさんには感謝しかない。

 これで勉強も捗るというものだ。


 「ありがとうございます、スズリさん。」


 「いえいえ!こちらこそ、眼鏡人口の増加にご協力いただき、ありがとうございました!!」



♦︎♢♦︎


 ということがあってね、眼鏡をつけることになりました。


 眼鏡とは、視力(目でものを見る力)を補助する道具です。


 とても快適な世界ですよ、世界はこれほど美しかったのか!ってね。大袈裟だけど。


 自分がこれほどまでに視力が悪かったことに衝撃を受けました。


 視力とはなかなか改善などされませんから、気をつけてください。


 近くだけじゃなくて、たまには遠くを見てください。


 ボヤボヤしてきたら、それはもはや視力が悪いです。


 特に、エマールの特性上、どうしても目を酷使しますから気をつけて。


 最後に、とても快適に過ごしています。


 心配いりません。


 仕事預けちゃったノエルのためにも、たくさんの知識を吸収してきます。


 最も、まずは言語理解からですけど。


 では、次の報告までさようなら。


 セシル



♦︎♢♦︎



 「報告用の手紙は飛ばしたのじゃな。」


 「うん、これで大丈夫だと思う。」


 ノエルに生存報告を送る。


 これは留学を認めてもらうための条件なのだから、サボるわけにはいかない。


 

♦︎♢♦︎



side ノエル


※以下の会話は全て人間の言葉(セシルらが生きる異世界における)で話されています。英語ではありません。



 僕が留学に旅立った姉さんから受け取っている課題がいくつかある。


 学習面での研鑽も大事だが、授業に対する問題点の解決もそれに含まれる。


 姉さん曰く、マイノリティーへの配慮が足りていないのだそうだ。


 マイノリティーとは少数派のことを指す言葉らしく、人数が少ないからといって異質として切り捨てるべきではない、多様性があるからこそ発展するという考えに基づき、彼らへの対応を考えて欲しいとのことだ。


 「最初の立ち上げ時は、そういうこと(マイノリティー)を考えている余裕がなかったの。実際、最初は普遍を広げる方が簡単だし、チマチマやってもそれは意味のないことだったから。でも、今は違う。軌道に乗ってきて、余裕も出てきてる。なら、彼らを放っておくのは間違っている。」


 姉さんはそう言っていた。


 しかし、その少数派というのがピンときていなかった僕に姉さんが見せてくれた資料があった。


 発達障害と姉さんは言っていた。

 先天的に何らかの障害によってほかの人と同じように学習ができない人のことをいうそうだ。


 資料の中にはずっと文字の練習をしても書けない人、計算がままならない人、などがあげられていた。


 彼らは努力をしていないわけではなかった。

 文字が書けないものに記号で答えるテストをしたら、とても良い得点をとった。読めないわけではないのだ。


 つまり、特定のことが不得手であると。


 そもそも、皆が同じように学習できる方が馬鹿げている。

 姉さん、僕、レオンさん、ブルナンどの。

 4人で勉強してもその差は大きかった。


 姉さんを例外としても、それぞれ得意分野は違った。


 「ただの特徴なの。そういう人たちは総じて別の能力が優れていることが多いし。それが埋まっちゃうのはもったいなくない?」


 そう笑った。


 「でも、どうするの?それをできるようにするのは不可能なんでしょ?」


 その問いに対して、姉さんは答えた。


 「できないなら、別のもので補えばいい。例えば、私が使っているタイプライター。読めるのなら、これを使えば書けるでしょう?計算に関しては、ノエルが熱心に考えているアレが使えると思う。」


 「算盤…?」


 「そう。これに関してはうまくいくか分からないけど、別の方法を提示して、そちらがしっくりくる人もいると思うんだあ。」


 姉さんは笑顔で、目が見えない人も、耳が聞こえない人も、同じように生きれたらいいと言った。


 素敵な世界だと思う。


 「みんな、きっと何かしらの才能を持ってると思うんだ。英語でね、"gift"って才能って意味なんだよ。」


 「僕は"贈り物"だと聞いたけど?」


 「ノエルは正しいよ。そう、才能は"神様からの贈り物"なんだ。素敵でしょ?努力を才能で片付けられるのは癪だけど、持って生まれたものを生かすのはいいことだと思うんだ。」




 楽しそうに話す姉さんを脳裏に思い浮かべながら、僕は姉さんの手紙に返信を返す。


 その、マイノリティーのためのタイプライターがもういくつか必要だと。

 正直、王宮から催促がすごいんだけど…マイノリティーとか関係なく欲しがってるよ…。


 困っちゃうな、と思いながらも、最初からそれは想定の内。


 姉さんはこっそり使おうと思ったのかもしれないけど、流石にこれは隠しきれないよ。



♦︎♢♦︎


 ニヤケが止まらないノエルが返した手紙にセシルが昏倒するのはその数日後のことだった。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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