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市民証とギルド

 市民証の作成のためには専用の用紙に必要事項を記入する必要があるらしい。

 用紙は2種類存在し、洗礼を済ませている人向けと、まだ済ませていない子供向けだ。


 子供向けには記入欄が多い。

 今日の日付に名前、そのほかにアンケートがあり、最後に洗礼を受けた後の再手続きに同意する。


 曰く、洗礼をするときに根幹となるシステムに名前や固有能力などの記録がされるため、そちらに引き継がなければならないらしい。子供用のはあくまで玩具のようなもので、実際のシステムとは異なるそうだ。


 「はい、この機械のこの部分に魔力を流し込んでください。そして、この紙をこちらへ。」


 職員の人の指示に従って機械を操作すると、しばらくしてカードが発行された。


 「こちらがあなたの市民証になります。紛失した場合には別の窓口で手続きすることになりますので、新たに市民証を発行することのないようにお願いします。また、市民証の使用方法ですが、各施設での使用のほか、こちらでも情報確認と更新を行うことができます。未洗礼用は機能が限定的になっていますが、ご了承ください。その他の利用方法についてはリーフレットを発行しています。貸し出しは不可能ですが、各図書館やこの施設で読むことができますのでぜひご利用ください。洗礼後の更新については重ねてお願いしております。よろしくお願いいたします。」


 一通り、注意事項などを聴き終えると、カードを受け取ってその受付を辞した。


 「これが、これから行く場所に関連するのですね。」


 スズリさんにそう尋ねる。


 「えぇ。この仕組みはコンペにおける事務手続きを簡素化するものなのです。コンペでは、依頼者、コンペの参加者が存在し、それらの間でのお金の動きがあります。依頼者から組織へ、組織からコンペの優秀者へ、といった感じですね。それが意外と面倒なのですよ。依頼料、手数料、材料費ほか、各組織への手続き。単体でならどうとでもなりましょうが、これが毎日のように山のように入ってくるのです。手が回らなくなり、手数料が高騰すれば、当然ながら利用も減りましょう。また、私たちのように1日で、という超スピード依頼も多く存在します。これをまわすには、やはりシステムが必要になるのです。」


 なるほど、仕事自体は問題がないが、システムがなければ、ビジネスモデルとして成立しないくらいに激務。


 「このカード…日本のマイナンバーじゃないですけど、各個人を番号で管理しようというのですね。」


 私の手元にあるカードには番号と名前、魔力保存?みたいな欄がある。


 「まぁ、その通りですね。私のを見てくださいな。」


 見せてもらったスズリさんのカードを見て驚愕した。


 「…私のよりも番号の桁数がはるかに多い…。大丈夫?」


 カメラによる読み込みや、そのほか、認証機能があれば問題ないが、こんな長いうざったいコードを入力するのも記入するのも遠慮したいものだ。いくらタイピングやそのほか技能があっても見知らぬ数列を打ち込むのは嫌だろうし、この分量じゃ暗記もしたくない。


 「んー、何が大丈夫なのかわからないけど、まぁ、利用において問題はありませんわ。洗礼を受けるかどうかによってこのカードが変わるのですが、なぜだかわかりますか?」


 スズリさんの問いに頭を悩ませる。

 洗礼を受ける前後での違いは固有能力の有無であろう。

 洗礼では魔力を読み取って名前と固有能力名、個人番号を浮かび上がらせる…ってこれは。


 「もしかして、女神さまが洗礼で集めている情報を利用しているカードなのではないでしょうか。洗礼で与えられる番号とそのカードの番号が一致するのでは?」


 「その通りです。洗礼のときに受け取る番号とこの番号は一致します。従って、登録している人のみの番号でなく、意思のある生物全てに割り振られる番号なのです。当然、桁数も多くなりましょう。ミスが起きないように、洗礼を済ませている者にはこのようなQRコードという地球でも有名なコードが使われているのですよ。」


 スズリさんはカードの裏面を指差して見せた。

 確かにQRコードである。


 地球でQRコードを開発したのは日本人らしい。

 回転させても必ず向きがわかるようにと四隅のうち三つには印があって、それによって向きを間違えることがないと。しかしながら、私も仕組みはいまいち理解できていないため、転生者ってすごいな。って思った。うろ覚えであろう記憶すら引っ張り出しているようで、まるで、生きているうちの見たもの聞いたものは全て記憶しているようだ。うん、同じ人間として怖いよ、そう思ってしまう私って普通だよね?


 「なんじゃ、そろそろ着いてしまうぞ?まだ話終わっておらなんだ。」


 瑞稀が会話に会話に割って入って来た。

 瑞稀はさっきから景色というか、建物たちに注目していたようで、会話は無視していたのだ。


 「そうでした、会話が色々な方向にとんでしまって。えっと、概要をサラッと、そう、サラッとなの。」


 念じるようにスズリさんは自分に暗示をかけていた。

 話がいろんな方向にとんでしまうのも、気になったら深掘りしてしまうのも研究者の性だろう。


 「コンペの目的は、いいものを欲しい人、依頼者と、単発の仕事(金)が欲しい人、または、新しい職業に挑戦したい人、挑戦者を結びつけることなのです。コンペでの成績はカードの見えない部分に記録されるそうで、然るべき読み取り機を用いることで、その成績を確認することができるのです。そして、それを使って就職をするということですね。実績を積まなければ就職というのは難しいです。従って、最初の学生時代に決めた職業から大きくずらすことは無謀とは言いませんが、難しいでしょう。しかしながら、このコンペで実力を積み重ね、受注できるようになれば、実力ありとみなされ、就職が可能となるのです。依頼料は普通に専門家に頼むよりは安くなっていますから、大きな組織に頼むほどでなければ、こちらを利用するのがいいでしょう。プロでも、デザイナーのような個人事業主が多い職ではここで稼ぐのが主となりますがね。」


 「つまり、コンペの成果は記録され、それの信用度は高い、ということですね。」


 「そうなりますね。」


 スズリさんはワクワクといった風に同意した。


 「ギルドに着いたぞ。目的のアレはできてるじゃろうて。」

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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