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研究者と云ふ悠久の旅人たち

 滞在する宿を出ると、広い道に出た。


 建てては壊して、壊しては建ててを繰り返しているというこの街では、他のモノなども同様で、すぐに解体して次の作品の糧とする。やっぱり、変わった街だと思う。


 「まずはお主が今後長く使う場所に案内しようかの。」


 瑞稀は私をよく使う施設に連れて行ってくれるようである。


 「それってなんの施設ですか。」


 「平たくいえば図書館じゃ。図書館、というか、本がたくさんあり、多くの研究者が集う施設じゃな。お主の前世、地球でいう大学のような場所じゃ。ここだけは建て替える頻度が少し低い。まぁ、引っ越しが大変だから、というのが最も大きな理由じゃが。」


 なるほど。

 研究施設も兼ねた図書館のようなところ。


 「有識者もたくさんいるということですね。」


 「そうじゃ。」


 そこで、知識ある人たちから、たくさん教えてもらおう。

 政治も経済も、当然、数学もね。


 「ついたぞ。」


 しばらく歩くとその施設に着いた。


 六角形のような建物である。


 正六角形は戦略会議などで用いられるが、それは、中心からの距離と各辺の長さが等しいことが原因らしい。正三角形を6つ詰め込めば正六角形になるからね。


 そんな、どうでもいいことを考えながら、その施設を眺めた。


 高さはそれほどない。

 まぁ、人間に隠れて暮らしている以上、そんな目立つものは建てられないしね。


 うまく、自然と共存しているのが見て取れる。

 何故なら、至る所に緑があるからだ。


 うん、こういうのは好きかも。


 瑞稀に続いて建物内に入る。


 あ、土足でいいのかな。

 いいみたいだね。


 靴の裏の土や汚れを入り口で落とすみたい。


 魔道具か何かだと思うけど、すごくきれいになるね。


 なんか、違う時代にきたみたい。

 人間の文明とは比べちゃいけないな。


 環境に配慮していても、ここには魔力というエネルギーが存在するからして、意外と発展しているのがわかる。


 内装も好みにあってる。

 木目が見える感じと緑がちょうどいい。


 「とりあえずはこの施設をまとめている者に挨拶を…と思ったが、まずい。」


 何に対してその苦々しい表情をしているのかわからない。


 しかし、一瞬の後にわかった。


 目の前から白衣を着た集団が迫ってきているのだ。


 あれ?

 ドワーフだけじゃなくない?


 なんか、ボヤッとしているけれど、これは…サイズ的にドワーフじゃないような。


 考えているうちに囲まれてしまった。

 瑞稀が守ってくれてはいるが、囲まれてしまったことに変わりない。



 「えっと…み、ミズキさま?そちらが。あの、噂のセシルさんですか?」

 「ちっちゃい…かわいい。」

 「セシルと話すのは私が先だ。」

 「いいえ、あなたは分野からして関係ないでしょう。」

 「それはあんたも同じだろ?」

 「英語が得意じゃないって言ってたけど。」

 「さっき十分喋ってたよね?」

 「セシル、俺の研究を見てくれ。」

 「あぁ!!抜け駆けしないで。」


 聖徳太子じゃないんだ。

 そんな同時に話されても全く理解することが出来ない。


 ましてや、英語だ。

 聞き取れやしない。

 無理だ。


 なんとか、自分の名前を聞き取ることはできたくらい。


 早口だし、同時だし。

 難易度が高すぎると思うんだよね。


 「止まれ、研究者ども。」


 それを瑞稀が一喝。


 「セシルが聞き取れておらんし、困惑しておる。まあ、ちょうどいいから、自己紹介でもさせよう。セシル、自己紹介できるな?」


 あ、自己紹介ね。

 何をいえばいいんだか。


 「初めまして。私はセシルです。現在、5歳で、人間です。英語はうまく話せませんが、仲良く?していただけると嬉しいです。これから暫くここに滞在しますので、よろしくお願いします。」


 …これでよろしいでしょうか。

 恐る恐る、瑞稀の表情を伺う。


 「よし。聞いての通り、完全に英語が話せるわけじゃない。筆談でなら問題ないだろうが、あまり早口で捲し立てないように。基本的には我がついておるから、いざとなれば通訳もする。だから、困らせるなよ?」


 瑞稀の言葉の全てを理解できたわけじゃなかったが、終わった瞬間に雄叫び?が上がったので、なんか、盛り上がることでも言ったんだろう。


 「…見苦しい争いをするなら全員叩き出すが?」


 しかし、瑞稀の低い声で再び静けさが戻った。


 「はぁ。クジだ。これでいいじゃろう。」


 なにを言っているのかは残念ながらわからないが、呆れていることはわかる。

 瑞稀が懐?からたくさんの棒が入った箸立てみたいなのを取り出した。おそらくは、くじ引きだろう。箸じゃ意味がわからないからね。


 その予想を肯定するように、皆は一本ずつその棒を取っていった。


 その間にゆっくり見ていると、おそらくここにいるのはドワーフだけじゃないことがわかった。


 ドワーフの定義を知っているわけではないけれど、吸血鬼?ヴァンパイア?みたいなのとか、サエラさんに似ている、つまりはエルフのようなのもいた。

 それでも、ドワーフが最も多いんだろうけど。


 「<瑞稀、なんのための籤引き?完全には会話を聞き取れなかったんだけど。>」


 日本語でコソッと尋ねてみた。


 「<地球の記憶を持つお主に自分の研究について意見を聞きたいのじゃろう。研究者は周りが見えておらんから我が止めねばなだれ込んできたぞ。>」


 呆れているのは続行中らしい。


 「<…研究に意見なんて。無理ですよ。しがない高校生ですよ?専門知識など持ち合わせてはいない。人間の方と違ってこっちはかなり専門的だし。>」


 正直、意見する以前に理解できないと思うんだけど。


 「<気にすることはない。それくらい理解しておるじゃろう。育つ環境が異なれば視点も異なる。ちょっとした言葉が奴らの研究の良い刺激になるのじゃ。それで十分すぎるくらいじゃろうて。>」


 「<そんなもんですかぁ?>」


 そして、気づくと目の前に綺麗な列ができていた。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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