ドワーフの街 ~後編~
戦後、日本は更地となった。
だから、建築物も絶えなかった。
何もないところに一から全てを作り直す。
それは溢れるほどに仕事があるだろう。
しかし、どうだろう。
しばらく経ってみれば、建物なぞ建てられる場所がない。
できてしまえば、その建設ラッシュが終わってしまう。
これまで建設業で食べてきた人はどうしたらいいんだろうか。
一度、発展しきってしまうと、仕事がなくなって経済も停滞せざるを得ない。
それでは成長も何もないだろう。
これは問題だと私は考える。
しかし、ここ、ドワーフの街ではそんな心配はなかったらしい。
「<全ての土地に建物をつくってしまって土地がなくなったら、壊して立て直せば良い、というのがここの考え方でのう。困ったことに、すぐに壊しては建設し直す。故に、道を覚えてもしばらくしたら、それは役に立たなくなる、というわけじゃ。我も数年明けておったゆえ、面影なんぞかけらもないわ。>」
愚痴るように瑞稀が言った。
そう、もったいないとかそうではない。
建設が好きなのであり、その後は意外とどうでもいい。
よって、すぐに壊して、建て直すんだと。
まぁ、なんというか、すごいですよね。
職人さんって。
ブロックを壊して組み直すのと感覚が一緒なんだって。
うわぁお。
真似できない価値観。
なんという、職人。
「<街の半分は常に工事中と相なるわけじゃ。奴らも、作ったものに未練などないらしく、これ以上の傑作を作ってやると意気込んでおりまして。>」
つまり、自分の最高傑作なんてこんなもんじゃないと、次作ればもっといいものができると確信しているんだな。
「<住人は?住んでいる人とか、所有者は文句言わないの?>」
道路の拡張工事ひとつとっても、既得権益があるから、数十年単位で、立退とかにどれほど時間がかかるのか。
「<もともと半分くらいで生活なぞ十分ですから、そういうのはありませんな。所有もありませんし、基本的には賃貸のようなものです。住民からしても、いつまでも古い建物に住む必要がなく、飽きが来ないと意外と好評なのですぞ。引越しの早さはピカイチですな。>」
うん、私の想像を軽々と超えてくるね。
「<家賃が払えなくなったら?所有ができないとなると老後が心配だよね。>」
「<はぁ。よくぞその年齢で老後なぞと。お主は向こうでも17歳だったのじゃろ?…でも、それに関しては心配要らぬわ。そう考えた者が以前もいてな。永久住民権なるものを発明しおった。高額だがそれを買うことで一生住居が保証されるというものじゃ。建物には全てランクが決められておって、そのランクのレベルも変動するが、その権利ではランクごとに値段が決まっていて、住める建物のランクは決められておるのじゃ。>」
なるほど。
サブスク、とかじゃないけど、そのランクの家に住み続ける権利があるから、引越しの際にも、家賃も、料金が発生しないのか。
ランクの変動というのは技術の向上かな?
昔は高級だったものが今は何気ないものに変わってるなんて、あるもんね。
「<色々すごいですね。想像を絶する街だというのは理解できました。はい。もう、なんか、効率厨。>」
「<そうじゃな。だが、驚くのはこれからじゃぞ。>」
確かに、そうだろう。
私はただ、街を歩いているだけ。
まだ留学は始まったばかり。




