ドワーフの街 ~中編~
「<この宿の人に挨拶とかしなくていいの?瑞稀に連れられて勝手に窓から入っちゃったけど。>」
「<挨拶には我が行くから、お主はここでじっとしてろ。>」
瑞稀に日本語でそう言われたので、私はその通りにした。
部屋はとても綺麗で、既に私を受け入れる準備は整っているらしかった。
シンプルだけど、機能的?
組み替え次第で、たくさんのパターンがあるような可能性を感じる、組み立てでいうと、プレハブが近いんだろうか。
装飾よりも、見た目なんかよりも、使いやすいのが優先であるようだ。
これまで見てきて、ドワーフの街はかなり近代的、かつ、現代的であることがうかがえる。
一つ、電気を使うものが少なく、機械方面は近代的である。
二つ、建物は実用性を重視した、現代的なものが多い。
三つ、SDGsなどの意識は地球の現代(日本)よりも遥に高い。
一つ目については、三つ目が絡んでくるのだろう。
環境意識が高いからこそ、構想建築はないし、産業革命のようなものも起きてない。
二つ目については、単純に、庶民的な、人間の貴族のように豪華絢爛なデザインを重視しない人柄。
昔も、当時の最高の技術者が庶民の家を作ったら、似たような感じになるだろう。
三つ目は、既知の通り、前世持ちが頑張った結果。
ほんと、頭が上がらないよね。
これらのことから、ドワーフの街は社会的には日本現代より優れている可能性が高いが、環境配慮の観点を持っているが故、現代日本ほど技術が進んでいないと考えられる。
経済や政治関連にも学べるところがたくさんありそうだ。
「<戻ったぞ。セシル、その服装では目立つゆえ、これに着替えよ。サイズなら合っているはずだ。>」
部屋に戻ってきた瑞稀は私に服を差し出した。
黒いパーカーとジーンズ、他。
パーカーはオーバーサイズ。
ジーンズはスキニー。
私は渡されたものに着替えた。
そのときに渡された下着が快適すぎてニヤけた。
そして、一緒に渡されたのは体に密着するタイプの斜めがけバックと黒い帽子。
バックには私のメモ帳とペンを入れて、いざ、街へ繰り出す。
ちなみに、瑞稀も着替えを済ませていた。
瑞稀の服はヒラヒラしたものが多い。
黒いスカートパンツは一見袴にも見えるから、違和感はない。
シャツもカーディガンのように羽織っているものも黒だが、羽織っている奴には白で模様が入っていた。
左右非対称なデザインも凝っている証拠だと私は思う。
そして、私はスニーカー、瑞稀は黒いブーツを履いて、部屋を出た。
「いらっしゃいませ。そちらが、セシルさまですね。」
「あ、はい。はじめまして。セシルと申します。長期間お世話になります。」
廊下でこの宿?のスタッフと思しき人に出くわした。
スタッフさんは一緒にいる瑞稀の様子をみて、私がセシルだと思ったようである。
「ご丁寧にどうも。なにか不便なことや必要なものがありましたら、遠慮なくおっしゃってください。ここでは職人さんや研究者さんの滞在で発作的になにかが欲しくなることなど珍しくありませんから。」
私が遠慮するって分かっての気遣いか、と考えるとありがたく思う。
そして、職人や研究者は発作的に一体何を求めるというのか。
「ありがとうございます。そのときはお願いします。」
なんとか英語で会話しているけど、ちょくちょく聞き取れていない言葉があるな…。
「セシルさま、瑞稀さま、外にまだ人は集まっていませんが、皆、この機会を待ち望んでいました。ですので…」
「問題ない。我とて、話を聞いてすぐ会いに行ってしまったしの。ゆえに、それらを否定はせん。まあ、しばらくすれば収まるじゃろうて。セシルの寝食を尊重するくらいの常識はあるじゃろう?」
「それもそうですね。私とて、あえて嬉しくて舞い上がっているのです。各地ではセールも開催しているそうですよ。」
「はぁ。セシルを利用して経済が回る。今に始まったことではないし、面白いから我は好きじゃな。個人的には。」
…大変です。
半分も聞き取れていません。
これが本場の英語。
最初は私に話しかけていたから、ゆっくり気遣ってくれたけど、瑞稀に話すにはそれは必要ない。
よって、これがデフォルトの速度と考えられる。
「さて、セシル。外に出るぞ。今日は街を覚えよ。まあ、数週間後には無駄になるがな。」
瑞稀が話す速度をゆっくりに戻してくれて、ちゃんと聞き取れた。
が、どういうことだろうか。
意味がわかっても意味がわからない。
まどろっこしいな。
日本語訳できるが、理解できない。
脳が思考を拒絶している。
「無駄になるってどういうこと?」
瑞稀は私の問いに意味深な笑みを浮かべた。
「……どういうことだろう…な?」
私を揶揄うような、楽しむような、そんな雰囲気がある。
「まぁ、街を見ればわかる。」
瑞稀はそう言って、宿をでた。
「いってらっしゃいませ。」
宿のスタッフの人はそういうけど、気にしている間もない。
瑞稀はスタスタと先をゆく。
瑞稀と私の身長差は絶望的。
見上げている私は首が痛い。
つまり、何が言いたいかというと。
歩幅が違う。
瑞稀の歩く速度は私にしてみれば速すぎるのだ。
私は焦って駆け出した。
「待ってよ。」
いつもよりずっと、走りやすく動きやすい服であることは、すぐに理解できた。




