留学へ ~後篇~
「グゥ…。ノエルがそう言うなら安全であることを疑うことはできないな。」
ぐうの音って本当にグゥって言うんだろうか。
それより、なぜ、姉である私の言葉よりも弟の言葉を信じるかなぁ。
なぜ、弟の言葉の方が信用度が高いかなぁ。
変にツッコむと都合がいいこの状況を利用できなくなってしまうから言わないけどさ。
不本意だよね。
「だが、これでは本当に止める理由がなくなってしまうではないか。」
お父さまはとりあえず反対したいのね。
「せっかく娘がウチに帰ってきたというのに、今度は1年だとぉ?認められるか?否、認められるわけがなかろう。」
あ、もう、どうでも良くなってきた。
「パトリス、あなた、寂しいからなんて理由で娘の自由を制限するつもり?聞いた話だと、あなたは今のセシルよりも早く家を飛び出して農家に入り浸っていたそうじゃない。」
マジか…。
前例があるじゃないか。
「いや、それは…。」
お父さまがタジタジだ。
「セシルと違って事前の通告もなかったと聞いているわよ?幸い、目が届くところだったから、お義母さまたちはこっそり見守っていたそうだけど。セシルに言えることなどないんじゃないかしら?」
うわ…。
引くわ。
ドン引きなんだけど。
これは、所謂、家出というものではないでしょうか。
カルチャーショック?というか、エマール伯爵家を舐めすぎていたようである。
ツッコミどころしかないが、私の留学は承認されたのである。
さて、私は現在馬車に揺られて、カイダタ牧場を目指しているところです。
そこから、職人のまちへ行ったところで解散し、妖精伝説のある家で待ち合わせ、そこからドワーフの街へ案内してくれる手筈になっています。
憂鬱な気持ちも当然あります。
何故なら、英語しかない環境へ行くのですから。
前世でも留学経験はないし、正直、不安でしかない。
この世界の言語は、赤ちゃんパワーというか、生まれたばかりから聞き流していると、なんか、話せるようになった、という、ネイティブみたいな習得方法だったから、未だ、第二言語、というか、母国語以外の勉強法がわからないままで。
馬車の中で文字を読むと酔ってしまうので、馬車の中は基本的に睡眠を取る場所にして、馬車から降りて休む際にはずっと英語で書かれた論文と睨めっこをする。
馬車の中で目が覚めたときは、瑞稀と英会話の練習かリスニングの練習。
事前準備として、英語に嫌というほどに慣らされた。
そして、あの建物にて再会を果たす。
「 It's been a while. I'm glad to see you again. (お久しぶりです。また会えて嬉しい。) 」
あのとき対応してくれたドワーフのドーリさん。
「 I can't believe it's been a year. (もう1年経ったとはな。) 」
建物も前回とは細部が異なっていて、日進月歩で技術が向上しているのが見て取れる。
「 I would like to thank you for having me in your town. ( 私を街に受け入れてくれてありがとうございます。 ) 」
「 No problem. We are looking forward to seeing you. (心配いらない。皆、あんたに会うのを楽しみにしてるからな。) 」
「 Hold on. (ちょっと待て。) 」
会話をしていたら瑞稀からストップが掛かった。
「 Anyway, let's move to the inn which we stay at. (まずは、滞在する宿に移動しよう。) 」
今、瑞稀は小さい白蛇になって私に巻きついているので、とても可愛らしい。
瑞稀の言い分も最もだったので、私たちは移動することにしたのだ。
そして、私は、ドワーフたちの技術に驚かされる事になる。




