出立
長い、王都滞在も終わる。
ここでは濃密な時を過ごした。
授業だけじゃない。
社交界にもでて、経験を積んだ。
何より、私はここで生きる覚悟を決めて、前に進むと誓った。
これからの生き方は変わるだろう。
その一歩が留学だ。
ドワーフの街で一から勉強し直す。
そして、この世界で何ができるのか、どんな人間になるのかを決めるんだ。
「またね、セシル。また、会えない日々が続くのかと思うと寂しいけど、それまでにセシルが驚くほどに成長してみせるよ。セシルだってそうだろう?」
「はい、当然です。って、え?」
急にハグをされた。
年齢の差が顕著に出る頃なので、スッポリと覆われてしまった。
「セシリア、君に頼ってもらえるような男に俺はなるから。待っててね。」
…?
「…それは子どもの台詞じゃないですよ。それに、これ以上研鑽して何になるつもりですか?」
ただでさえ、異常な事務処理の速度をもち、頭が回る、私なんかよりコミュ力は高い。知識は積み重ねるもの。これ以上、なにがしたいのか私には理解できない。
こちらの7(**)歳が地球の10.5歳に相当するとはいえ、子どもだ。
仕事ができて、建設的な会話をしている方がおかしい。
これはノエルにも言えることだけれど。
「……俺はセシリアの夫になるんだから。」
「いや、論理的に破綻してません?」
「してないね。」
急にIQが下落したんだろうか。
いや、IQ ってそういうのを示すような数値ではなかったような。
…どうでもいいけど。
「…理解してないなら今はいいや。いずれ、理解してもらうから」
…説明をするつもりはあるのね。
今じゃないのが疑問だけど。
そして、やっと私を離してくれた。
目的が分からない。
「"りゅうがく"だっけ?気をつけてね。」
「はい。ありがとうございます。気をつけます。」
レオンさんに一礼をした。
「ノエルも、気をつけて。セシルを頼む、といっても、"りゅうがく"にはついて行けないのだろうから、心配なのは同じか。」
「えぇ。姉さんが心配で。でも、僕も心配かけないように、授業をしっかりやってみせますよ。」
なんか、この王都滞在で一番大人びたような気がするノエル。
何があったのだろうか。
ブルナンどのは既にここにはいない。
楓が魔法が発展している亜人の集落へ案内しているそうだ。
言語の壁は分厚いだろうが、頑張って欲しい。
「名残惜しいが、そろそろ時間だろう。」
「はい。公爵さま方にも挨拶しましたし、このくらいにして。本当にお世話になりました。」
「こちらこそ、とても楽しかった。」
「そう言っていただけると社交辞令でも嬉しいです。」
御者さんに挨拶をして、荷物を積んだら、馬車で領地へ帰る。
その間、瑞稀による英語の特訓で悲鳴を上げたのは言うまでもない。




