領地
"領地"、いや、前世で学ぶ"地理"の意義とはなんだろうか。
グローバルな視点で多角的に、うんたらかんたら。
正直、ピンとこない。
資料を理解し、多角的な視点から考察をする。
確かに、重要なことであるが、なぜ地理である必要がある?
なぜ、地名を覚えねばならない?
受験真っ只中である高校2年生、それも理系の私は、地理なんて共通テストのための勉強でしかなかった。
暗記が大嫌いな私の天敵とも言える科目だが、点数を取らねば足切りされてしまう。
受験生として勉強をしている以上、そのような認識でしかなかった。
だが、私が講師側に立ち、教科書やカリキュラムを策定するとなると話は全く異なってくる。
社会系科目の必要性ついて、今再び考えることとなったのだ。
一つに、地理とは統計である。
統計をいかに読み解き、理解し、考察するか。
これは如何なる研究や日常生活にも結びつくことであり、容易に想像することができた。
数学的知識が足りないが、グラフや資料の読み取りを取り入れることは不可能じゃない。
二つに、発信技術である。
プレゼンテーション、資料のまとめ、どのようにしたら人の興味関心を惹きつけることができるのか。
どのようにしたら、わかりやすい検証となるのか。
根拠としてそれは足りるのか。
上の二つは私の中ですぐに思いついたことである。
領地の学習をする上で軸とすれば良いと思う。
それらの技術を身につけられるように考えて授業をすればいい。
しかし、それは地理を利用しただけで、実際に、地理である必要はない。
調べ学習も、統計的な観測も、地理である必要はないのだ。
では、なぜ、地理を学ぶ?
なぜ、住む土地をしらねばなるまい?
愛国心?
現代日本で生きる中で、少なくとも私はあまり感じなかった。
それを知って何になるだろうか。
いや、自分が習っていなかったならば、どんな人間になっただろうか。
私は教える側に立つために考えを巡らせた。
結果、政治・経済を学ぶための基礎であると結論づけた。
政治や統治を学ぶべきは、この世界では貴族であるが、貴族が統治するからといって、それについて知識を持たなくていいわけではない。民衆が政治を知れば、仕方ないと思える部分も、納得できる部分も出てくるだろうし、より、民に近い政治を行うことが可能となるだろう。
政治を学ぶにあたって、どこの土地で、どのような産業が発展しているかは避けられないことである。
税制にも関わるし、必要な支援に関する考え方も変わってくるだろう。
一方で、政治に関心を持つことが難しいことが指摘される。
何故ならば、この世界では政治とは、統治とは貴族が行うものであるからだ。
よって、まずは、身の回りに関心をもち、興味関心の幅を少しずつ広げていく必要がある。
興味関心の幅を広げる一環として、まずは自分の住む地域を、自分の領地を、そして、他の領地を知らねばならない。
思考力を知識とともに育成するのは容易なことじゃない。
でも、理想を持たねば何にもならない。
目的に沿うように、今回は授業会場ごとに地域の調査を行ってもらったのだが。
所謂、模造紙のような紙にまとめてもらい、壁新聞のような形で掲示することを前提に作ってもらった。
…見事に定期の広報誌と同じ見た目になった。
まぁ、仕方ないよね。
オリジナリティとか、目が肥えなければ何にもならないよね。
文字の量が多い上に、サイズも小さい。
絵が少ない。
文字のデザインは凝ってるけど、色数が無駄に多い。
フォントに統一性がない。
とにかく、独創性が皆無な上にとても見にくかった。
でも、中身には特色が現れていた。
指摘するのはまずはそこからである。
「各、授業会場ごとに地域についてまとめてもらいました。ご協力ありがとうございました。そうですね。改善点がとても多い。内容もいくらでもよくできるし、見た目はもっと工夫する必要がある…。まぁ、でも。これを元に第二弾、もう一度まとめをしてもらうので、今回はこれに対する改善点を大量にメモでもしてくださいな。まずは見た目から。」
「例として広報誌を挙げた私が悪いといえばそうなんですけれども。ん…。なんと説明しましょう。広報誌の目的はご存知ですかね。というか、お気づきでしょうか。」
今回はノエルのサポートなしで一人で進めていく。
ノエルは説明に必要な道具のサポートをしてくれている。
「私が広報誌を作成している目的は、皆さんに文字を読む機会を作ること、です。本となると、手を出すことにハードルを感じる人もいるだろうと思って、日常に限りなく近づけた内容で、わかりやすい文章で、なるべくたくさんの文字を読んで欲しいから、文字数も多めにしています。よって、このようなレイアウト、組み立てになっているのです。しかし、今回の目的は違います。自分が住んでいる地域を知ってもらうことです。読みたい、と思ってもらえるようなデザイン、そして、内容を忘れられないような、インパクト、衝撃が必要。なら、文字をたくさん書くよりも、もっといい方法が存在すると思います。」
ノエルがそっと渡してくれたものを広げる。
「エマールの屋敷で授業を受けている方はエマールの屋敷について纏めていましたので、私は現在滞在している王都について纏めてみました。こちらをご覧ください。特徴は地図、というか、上からみた光景を絵にして大きく描いたところです。絵の色は薄めにして、文字が目立つように注意しました。その代わりに、文字の色は基本的に黒、強調したい部分にはアンダーライン、下に線を引きました。吹き出しによって、どこについて説明しているのかが一目瞭然、そして、興味を引くような言葉を大きく書き、タイトルとする。内容は、王都に来たら行くべき場所の一点に絞ることで、統一性を持たせました。たくさんのことを伝えようとすると、印象が薄まってしまいますからね。」
「作成方法で特筆すべきことですが、吹き出しは別の紙に書いて貼り付ける、ということをしました。間違えた時に、その吹き出しだけ作り直せばいいから、簡単ですね。他にも、別の紙を使うと、こんな風にして、問題の答えを隠すことができます。まぁ、近づかないと捲れない上、仕上がりを綺麗にするのが難しいという点でデメリットも多いのですが。」
「今回の課題では、たくさんの情報よりも、厳選された少数の情報の方が適切だったと私は考えています。レポートや論文の際は、大量の情報が必要ですが、これを読むのは通りかかった人、まず読んでもらうこと、に注意してください。また、論文やレポートでも、情報には統一性と目的が必要です。根本的に何を伝えたいのか。そこが足りなかったと個人的に思います。私のまとめも最上ではありません。いいところも、悪いところも存在します。ですから、悪いところは反面教師として利用してください。」
「それと…私が思うに、今回の伝えたいことが定かでなかったのは、他の土地を知らないから。皆さんの落ち度、というよりは、こちらの情報提供が不足していたように思います。ですから、今回、こちらに提出してもらった課題をローテーション、つまり、回してそれぞれの授業会場に掲示します。自分が住んでいない土地のことについて知って、自分の土地との違いを理解し、その上で、自分の地域の魅力に気づいて欲しいな、と思います。数ヶ月後にはまた、別の企画も考えているところですので、それもお楽しみに。」
「では、技術的な側面についてお話ししていきますね。」
私は、統計的な側面から、調査に関する誤りを一つずつ指摘していった。




