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"短所を長所に"

 「さて、続いてですが。」


<アイディア>

自分は指揮をする立場にあるのだが、命令が食い違ったり、間違った指示が伝わっていること、古い指示がそのままになっていることが多い。それをなんとかすることができれば、自分も部下も負担が減るはずである。方法は一つだけ思い当たることがある。授業に合わせて広報誌が定期的に読めるようになったように、皆に知らせることを決まった場所に掲示することにした。毎朝更新し、全員に毎朝見るように言い聞かせた。すると、以前よりはへったが、朝以降に決まったことは浸透しなかった。いい考えがあったら教えて欲しい。また、部下をやる気にさせる方法も考えなければならない。自分は部下の悪い点を指摘するのだが、雰囲気が双方悪くなってしまう。影で彼らを苦しませているかもしれない。しかし、指摘しなければ互いのためにならない。自分は以前、年上の人から注意されたり叱咤されたことがあるが、あれは辛かった。自分が全て否定されているような気になった。自分は全てにおいてその人に劣っていたから仕方ないかもしれないが、それと同じことを自分はしたくはない。どうしたらいいだろうか。




 (これって、姉さんへのお悩み相談なんじゃないの?どこが課題なのかな?)


  このアイディアを読んだとき、ノエルは溜息をついていた。


 しかし、これのいいところは、実践して、結果も出していることである。




 「指揮系統の混乱と上司と部下のコミュニケーションですね。」


 …引きこもりで人と話さないコミュ障気味な私がアドバイスしていいのだろうか。


 「指揮系統や動線については定期的な見直しが必要ですね。指揮系統とは誰が誰に命令をするのか、動線というのは人の流れですね。指揮系統については、聞いたところ、フィードバックが存在しないようなので、まずはフィードバックの導入を検討。そして、指揮系統を単純化すること、具体的には図に書き記すことですね。二重にならないように気をつけてください。で、掲示板もいいですが、並行して回覧板の利用と、現在授業を行なっているような技術を利用して、掲示板の数を増やすことを推奨します。で、それについて考える際に動線が出てくるのですが…」


 「姉さん、止まって。授業なのに、ダダ漏れだよ。多分、誰も理解していないし。」


 「あ、すみません。失礼しました、先ほどのはお気になさらず。気を取り直しまして、このアイディアのいい点は普段の業務を改善しようとした点、そして、考えた案を実行した点にあります。勿論、誰しもがこのようなことをできる立場にないのは知っていますが、できることなら実行してみるのがいいでしょう。また、上の方の立場にいる人は、そのような案を聞き入れるような工夫をしましょう。進言しやすいのはどうしたらいいのかな?って考えるのがいいですね。まぁ、単純なのは目安箱を設置することですが、それはまあ別の機会にでも。」


 「確かに、環境っていうのは大事かも。姉さんは、僕が"やってみたい"というと、基本的に"いいよー"と言ってくれるから、初めてのことでも挑戦できるんだよね。それに、失敗したことそのものについては怒らないし。姉さんが許可しない時は危険があるときや人を大勢巻き込むときだし、その時は別の方法でできないかと一緒に考えてくれる。僕以外が提案した時もそうだよね。」


 「失敗に対して何かを言うことはないのは当然でしょう?失敗は進歩ですから。それは、当然なことだし、エマール家はそうでないと回っていきませんよ?ウチは研究一家と呼ばれるほどに研究をしてますが、成功の裏には数多の失敗があるんですから。正確には、成功に辿り着くまでの道中にたくさんある、かな?とはいえ、何も咎めないわけじゃないでしょう?」


 「まぁ、失敗の後の反省が甘かったら怒られるけど、それはあくまで、反省について。どこの考え方が足りないのか、具体的に示してくれるから、理不尽じゃないし、むしろ、ためになるし。突き放したりはするけど、突き放すときは僕を信じてくれてるときだし。」


 「心外だな。生まれてから、怒ったことなんてないのに。」


 「…それは有り得ないって言いたいけど…姉さんなら有り得そうなのが怖い。」


 「話が逸れましたね。えぇと、何が言いたいかと申しますと。立場が上の人は、柔軟に下の意見を取り入れる方法を考える必要があるのですね。ただでさえ、自分より上の立場の人に進言するのはとても勇気が必要ですから、それを減らせるようにする努力。そして、失敗したときに責められでもしたら、もう二度と進言なんてしてくれませんから、そこには注意が必要ということですね。最後に、ノエルが言った通り、反省が大事なのです。本当の失敗はちゃんと反省をしないこと。その点に関しては、このアイディアを書いてくれた人は、どうなったかを確認して改善点を書いてました。それが高評価です。」


 「うん、僕も同意見です。では、アイディアに関する話をしていきましょうか。ポイントは"指揮系統"・"動線"・"フィードバック"・"図示"・"見える化"・"褒める"・"短所を長所に"の7つです。では、姉さん、一つずつ。」


①指揮系統

②動線

③フィードバック

④図示

⑤見える化

⑥褒める

⑦短所を長所に


 「はい。一つずつ、と言っても、色々と繋がっていますから、綺麗にはいかないでしょうが、ゆっくり解説しましょう。指揮系統というのは、誰が誰に命令を言うのか、命令の通り道のことですね。組織の効率を良くしたいなら、これを明確化し、できるだけシンプル、単純にする必要があります。でここで大事なのが④と⑤。図にして見える化しましょう。」


 「図にするのはわかるけど、見える化ってなんです?」


 「見える化とは、見えないものを見えるようにすること。命令が決まっていても、まだ、明確には見えていない。図の書き方もあるでしょうから、私は事前にこの授業に関する指揮系統を図にしたものを拡大し、よりわかりやすく明確なルールを定めて書いてみました。こちらをご覧ください。各授業会場がこの四角形。各領主やそのほか束ねるところを菱形。で、私たちがいるのが丸になっています。」


 頑張った組織図を指さしながら説明していく。


 「で、大事なのがフィードバック。フィードバックには様々な意味があります。結果を原因側に戻すことで原因側を調節すること。物事の結果や反応を見て改良、調整を加えること。客や対象者の意見を取り入れ、改善すること。上司から部下に結果の良し悪しを説明すること。まぁ、なんといいますか。出力を入力側に戻すこと。どんなことにも大事ですが、えぇと。わかりやすく説明するのが難しいですね。ん…具体的には。命令が届いたかどうかを確認すること、ですね。こちらでは必ず双方向のやりとりになるようにしています。」


 「僕たちが何かを手紙で送れば、その返事が手紙で返ってくるよね。報告書、のようなものだけど。」


 「そういうこと。私が察するに、そういう仕組みがないのだと思います。命令が届いたら、届いたよ!!って命令を出した人に伝える仕組みを作ることです。そうすれば、実際になにか重大なミスが起こる前に、変更が伝わっていないことに気づくでしょう。」


 「なるほど。その加工なら難しくなさそうだね。特に、魔道具なんかを使ってしまえば。僕は最近理解したんだけど、意外と単純なことで考えとかって伝えられるんだよね。それこそ、赤と白の旗を持って空に掲げるだけで、何かしらの意思が伝わる。これだってそうでしょう?」


 ノエルは流し目で4色+1の光の塔(今はOFF)を見る。


 「そうですね。実際、世の中0と1だけで大抵は表すことができてしまう。なんと単純…そして、複雑なんでしょう。」


 あの、今はもう懐かしきコンピュータたちは。


 「感慨に浸っている場合では有りませんね。掲示板、いいアイディアだと思います。ですが、私なら、もう一工夫加えますね。この授業に用いる魔道具で、その掲示板を映し、各会場にあるようなものに映す。そうすれば、いつだって、最新の掲示板がたくさんの場所で見ることができるでしょうね。」


 リアルタイムで…


 「といっても、どのタイミングで誰が見るかなど分からないので、見たことを知らせるものが必要です。そこで、回覧板、というか、命令を紙に書き、その下に読んだ者が自分のサインを書いてゆく。そして、最後に命令者の元に戻ると。あらかじめ、見せるべき人の名前を記しておけば、誰が見ていないかも一目瞭然。欠点があるとするなら、時間がかかること。」


 「緊急は別途にすべきでしょうね。」


 「加えて、施設内の動線を整えましょう。動線とは、仕事のために、誰がどのように動くか。屋敷図などを書いて、なるだけ最短距離になるようにつくること。例えば、台所だとするなら、このようにして、一方通行になるようにする。」


 「行ったり来たりするのは時間がかかるからね。」


 「飲食店、というか、仮に料理を作って提供する店があったとする。」


 「そんな店、ないけどね。」


 なんか、ノエルの笑顔が怖い気がするのはなんでだろう。


 「その場合、お客さんは注文して、ご飯を食べて、お金、じゃない、対価を払って、出ていく。この流れを考えたときに…いくつかパターンがあって。」


 前世の飲食店をイメージする。

 ファミレス、定食屋などの食券があるところ、うどん屋さんなどにある進みながら天ぷらをとり、最後にうどんが出てきて会計など。


 「どれも一長一短。何が良いのかは店のコンセプトによりますよね。この店なんかは、とても早いけど、ゆっくりしたい人には不向き。」


 「いつも授業で言っているよね。目的があってそれに向かって考えるのだと。それに齟齬があってはいけないと。」


 「うん。その通り。今回は素早い移動が目標だから、行ったり来たりしないような動線確保が望まれるね。誰がどんな仕事でどこを使うのかを考えるところから始めるのがいいでしょうね。」


 「前半部分のはこんな感じかな。姉さん、後半の部下との接し方について、どう思う?」


 「私の人生経験って豊富じゃなくて、とても偏っているから、コミュニケーション関連はあまりうまいこと言えないと思うのですが…。」


 「まさか?そんなことないでしょう?」


 ノエルの笑顔が怖い。

 なんだろ。

 褒めてくれている、というか、フォローしてくれているはずなのに、天使の笑顔が怖い。


 「…ふぅ。1つ注意すべき点があるなら3つくらいは褒めたらどうですかね。良いところと悪いところを両方あげること。注意する点の方が少なくなるようにするなんてどうでしょう?良いところって、あまり言いませんよね?でも、そういうことを言ってくれると、見てくれてたんだって安心すると思うんです。褒める部分を探すのってとても興味深いと思います。あとは、感情的にならないことだと思います。怒鳴るよりも、理論的に、納得できるように説明すること。理解してもらうようにすること、ですかね?罪を憎んで人を憎まず、じゃないけど、その人を貶したり、ダメだっていうんじゃなくて、その行いを正すようにしたら良いと思います。」


 「怒鳴っていると、互いに平静じゃないから、何を言われたのかも納得できずに終わってしまいますからね。」


 「あと、気になったのが、自分が劣っているから言われて当たり前。上司の方が完全に優れている、って考え方は少しいただけないですね。人間長所と短所が存在するのだから、全てにおいて勝てる人なんていないんですよ。知ってます?長所は短所に、短所は長所になりうるんですよ。全ては見方によるのです。」


 「視点を変えるってことだね。…じゃあ、"ノロマ"、"意気地なし"、"臆病者"、これらは長所になる?」


 「…なると思いますね。みなさん、少し考えてみてください。いくつ浮かびますかね。」


 「…どうだろうね。」



 「で、姉さんはどう思うの?」


 「…これらは、その人が慎重であることを言っていると思うので、その人は注意深いんじゃないかなと思います。小さな変化にも気付きそう。書類とか、細かいミスは少ないんじゃないかな。意気地なし、っていうけど、そういう人が軍とか兵を率いたら、負傷者が少なそうだよね。長期的にみたら、良い成果を出すんじゃないかな。ノロマ、ゆっくりってことだよね。行軍ペースをゆっくりにすることで、疲労を貯めずに戦場にたどり着けるかもしれない。子供の面倒を見るときに、ちゃんと子どものペースに合わせてあげられるかもしれない。これらが短所になる場面もあるけど、長所になる場面も数多あると私は思います。」


 「確かに。じゃあ、"ハキハキしてる"なんて、短所になりそうもないけど、それも?」


 「んー、長所を短所にするのは好みでは有りませんが、まぁ、ハキハキしてる人って、たまに五月蝿いですよね。あとは、のんびりしたい日にまでハキハキされては、休めないでしょう。ポジティブ、前向きすぎる人が周りにいると、自分が卑屈になってきますよね…。なんというか、惨めっていうか。嫉妬なんでしょうけど。」


 「あー、うん。そうだね。眩しすぎるかもしれないね。」


 「長所は短所だし、短所は長所ということ。私だって、短所まみれの人間だし?ノエルはいい子だけど。」


 「はぁ。姉さんが思ってるほどじゃないよ。」


 「これを言ってもいいのか、分かりませんが。私って正直、講師とか向いてないと思うんです。」

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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