授業休業中の日常
私が授業休業期間中どのように過ごしていたのかといいますと、とても忙しかったとだけ申しましょうか。
この世界で生きていくと決めた私はレオンさんから王族クラスが受ける以上の知識を教わった。当然機密に関しては触れなかったが、政治体系や王宮内の仕組み、その他隣国との関係まで。レオンさん曰く、「これだけ学ぶのは王族の王太子くらいだ、俺もなぜここまで勉強させられたのか不思議でならない。」だそうで、帝王学や王族の機密を除いたほとんどの知識を短期間で詰め込んだ。まぁ、身についているわけではないが、ノートにまとめておけば自分でもう一度学習ができるだろう。
同時に体力を育成している。私は貧弱なのをどうにかするために自転車、縄跳び、筋トレを毎日行う。早起きしてラジオ体操も欠かしていない。
また、魔法に関する訓練も行っている。わからないことだらけではあるが、分かっている最先端のことを習いながら、一瞬でグラフの式を計算し自由な攻撃が可能なように練習しているが、正直、いつ使うのかは謎だ。
魔道具研究では遠隔で押したボタンの自動集計を考えている。下から個体を区別せずに光らせていくのが難点でそこを解消できると棒グラフみたいになって見やすくなる。今はセットのものが光るだけだ。
その傍ら、私は社交界にもたまに顔を出していた。忙しくてげっそりしているが、挨拶だけしたらこっそり抜けるようにしている。レオンさんが隣から絶対に離れないので注目されて辛かった。一人にしてくれないのはなんでだろう。
そして、この屋敷にお父さまが現れたのだ。
「私は何を研究すべきだろうか。」
「好きにしたらいかがでしょうか。」
開口一番で自由研究のネタを聞かれてもそう答えるしかない。だが、そんなことを言えるはずもない。
「任意なので、別にやらなくてもいいんですよ?悩んでいるのなら、普段研究されていないことでもいいですし、普段の研究をレポートにまとめてくださっても構いません。私はお父さまの研究は素晴らしいものと考えております。ただ、成果は思っているよりも少ない。その理由は結果をしっかりと考察できていないところにあると思います。お父さまは授業に誰よりも熱心に取り組んでいると承知しています。故に、その知識を使えば持ち腐れている宝の山を本物の宝とできるでしょう。お父さまに対して何かを強制するつもりはありませんが、データ、結果を集めつつ、せっかくですから宝を発掘してみてはいかがでしょうか。」
「…宝の持ち腐れ…つまりセシル、お前は私の研究にそれだけの価値があると。」
「私はそう考えています。私なんかよりずっと熱心に地道に続けてきた研究に価値がない方があり得ないではありませんか。もちろん、我が家の書庫にある研究もです。もっと生かせる力があれば、もっと豊かになるはずです。だから、私は授業を行うのですから。」
「そうか…そうか…」
お父さまが泣き出した。
どうすればいいんだろう。
目の前で父親が泣き出した時の対処法についてネット検索かけたら載ってないかな。まぁ、この世界にインターネットなんて存在しないんだけどね。
「お嬢さま、私も、私もその宝の発掘をしてもよろしいでしょうかっ!!」
エマ…あなたの主人が泣いているんですけど、それは無視ですかね。
「…いいと思います。ただ、最後にその参考文献として名前を記すことを忘れないように、また、屋敷以外に住んでいる人にもそれらを提供できるように注意してください。コピー、つまり複製で構いませんから。」
「わかりましたっ!!」
セルジュもこそこそとメモしているけど、泣いている主人はどうでもいいのだろうか。
まぁ、私もスルーしているんだけどね。
エマール伯爵家は今日も賑やかだ。
だが、ちょっと心配になる私であった。
賑やかな彼らは去っていった。
父親が泣き止むことはなかった。
「姉さん、父さんに言ったことは本音?」
「概ねそうですね。私は研究者や専門家を尊敬してますし。前世の事例ですが、古くに集められた結果について現代の技術で分析、すなわち考察し直したら新たな発見されるということがありました。だから、あながち嘘ではないんです。まあ、現在いうほど技術もないのですが。」
「ふふっ、まぁね。まだ平均も教えていない段階だから。」
ノエルとの会話は穏やかで、私の心をリラックスさせるのに十分なものだった。
「!!!おいっ !!完成したぞ。」
ブルナンどのの大きな声が響く。
あぁ、件の魔道具が完成したらしい。
「これはっ!!」
古代の魔道具、失われた技術を元にした魔道具は回路が存在した。
まるっきり、電気を魔力に置き換えただけの回路だ。
だから、理屈が通らないといけない。
メリットはとても強力でコスパが良いこと。
デメリットは開発が大変なこと。
その開発ができてしまえば、もはやデメリットなど存在しない。
私が発案したリモコンのdボタンの自動集計的な機械が完成した。
ブルナンどの、実は工学系の才能があるんじゃないかな?
「これなら休み明けの授業でお披露目できるっ!!ありがとうございます、ブルナンどの!!」
ノエルがとても興奮している。
私も興奮しているが、その比ではない。
私はこれがこの世界で実現できたことに興奮しているだけで、これ自体は上位互換を見すぎているが故に驚いてない。
「これを使って授業か、ますます楽しくなりそうだな。いますぐに各地へ配備するよう手配しよう。量産を頼む。」
はぁ、マニュファクチュア=工場制手工業…本当にやばい。
これを何人分作れば良いんだ?
「これって複製できないんですか?」
「無理だな。複雑すぎる。」
マジか。
私たちはレオンさんが配備の手続きをしている中、ずっと無心に回路を組んでいた。
「増員できませんかね。」
さて、誰を巻き込んだものか。




