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前世のお話。

 朝食を終え、仕事の準備に部屋に戻った時、瑞稀に言われた。


 「随分と自然体になったな。」


 「おかげさまで。」


 確かに、少し肩肘張っていたのかもしれない。


 仕事のために続々と私の部屋に人が集まってくる。


 「セシル」


 「なんでしょう、レオンさん?」


 レオンさんやノエル、ブルナンどのの目は真剣だ。


 「EARTHについて教えてはくれないか。セシルの前の人生について。」


 「へ?」


 EARTHってthe Earthで地球のことだよね?


 …なぜ彼らが知っているのか。

 まぁ、答えはわかりやすいんだけど。


 「瑞稀」


 「別に何かを言ったわけではないぞ?ただ、お主が読んでおったものを渡しただけじゃ。」


 確信犯だよね?


 「…瑞稀さん?僕たちが知ってはまずいことだったのでは?知れたことは、幸運だったと思いますが、まさか、姉さんに許可をとっていないなんて…。」


 「まぁ、セシルに知らせるほどのことでもなかろう。別にセシルも怒ってはいないだろうに。」


 「確かに、いずれ知られると思っていましたから、そこまで考えているわけではありませんよ。しかし、もう少し遅らせることができたんじゃないか、とは思うんですよ。」


 「セシルはいつか俺たちに教えてくれるつもりでいたのか?」


…教えるつもり、というなら否だけれど。


 「知られてしまうなら仕方ない、くらいには思っていましたよ。本当に知られたくなければノエルに英語を教えたりはしません。一つ一つ封鎖していけばいいだけですから。英語を学べば、私がドワーフとの初対面で何を話したかも、日本語を学べば会話内容も当然わかりますから。」


 「まぁ、そうよのう。我がノエルに英語を教えるのを止めなかった時点で完全に隠すつもりはなかっただろうな。」


 なんというか、私が本当に嫌なことはしないでいてくれるんだけど、なんか、癪だよね。


 「私がなんの価値もない凡人に紛れるようになったらもうどうでもよかったのですが、流石に生きている間にそれは無理なので墓場までもっていくつもりだったんですよ。」


 「下手に隠すよりは近しいものには共有した方が扱いやすかろうて。」


 「その通りではありますが、彼らにも危険が及ぶ可能性が僅かながらにあるでしょう。知らなければ、それでよかったのですから。まぁ、途中から諦めていましたけどね。人外にあれだけ知られているんです、いつどこから漏れてもおかしくはない。」


 正直、珍しいものではあったものの、前例があったみたいだし。


 「知られているなら可能な限りお話しします。今後の方針にも関わることですから。」


 私は腹を括った。


 正直、私が考えていることを見透かしてしまう瑞稀が癪なんだけど、助かっているし、助けてもらっているから、感謝はしている。ちょっと面白くないなって思うだけなのだ。それくらい仕方ないよね?


 「授業を行う部屋に移動しましょう。辞書とSDGsの論文ももって、人払いして慎重に。もし、楓と佐助がいるなら、人が近寄らないように見張ってくれると助かります。」


 「そのくらい勝手にやるじゃろうて。」


 瑞稀もそこらへん適当だよな。


 「授業を行う場所でやる理由は?」


 「…黒板があった方が説明が楽だから…でしょうか。」


 質問まみれになることはある程度覚悟している。



 私たちは移動した。


 「さて、どこから話しましょうか。…私には生まれる前の記憶、所謂前世の記憶というものがあります。皆さんが気になっていたこのEARTHというのは私たちが住んでいた星のことです。」


 私は黒板に地球の絵を描いてそこにthe Earthと書き加えた。


 「…待った、お前、星に住んでたのか?ありえねぇだろ。だって落ちるしかないんだぜ?それによ、星なんて届かねぇじゃねぇか。」


 ??ブルナンどのの言っていることの意味が分からない。他のは納得しているみたいだけど、何も不思議に思うことなくない?強いて言えば前世の記憶を持っている部分を疑うくらいでしょう。


 …もしかして、星に住んでいる自覚ないのかしら。


 「…何を疑問に思っているのかが分からないのですが、今私たちも星に住んでいるでしょう?」


 めちゃくちゃ驚いている。

 ここから説明せなあかんのか?

 ってことは、これ今日中に終わらなくない?


 「ふぅ。この世界の常識と向こうの常識はあまりに異なりますから、私の言うことが正しいとは限りませんが。まず、宇宙という空間に星が数多浮かんでいます。これはわかりますか。」


 「いや、姉さん…落ちないの?」


 ノエルは不思議に思っているけど…別に驚くことでもない。


 「星が空から落ちてこないでしょう。まぁ、稀に<隕石>とか落ちてきますけど、大体が<大気圏>で燃え尽きますね。って、そんな話をしていたら本題に入れないじゃないですかっ!!星が浮いている理由はおそらくノエルが浮かんでいる理由と同じですよ。」


 「僕が浮かんでいる理由、魔法?」


 「正確には魔法の原理の方。そもそも宇宙に上も下もありません。だから、落ちるなんてことはない。そもそも物が地面に落ちるという現象は星の<引力>、つまりは<重力>によって引き起こされるもの。」


 私は黒板に絵を描いた。

 まるを描いて、そこの中心に向かって引っ張る矢印を描いた。


 「星には中心に物を引きつけようとする力が存在するといわれています。<引力>、または<重力>と言います。おそらく英語ではGravitationだと思いますが。」


 私は黒板にGravitationと書いて瑞稀に目で確認すると頷いた。


 「<ニュートン>という<科学者>、つまり研究者がこの法則を見つけたとされています。りんごが落ちるのを見て気づいたとか言っていましたかね。」


 Newtonと黒板に書いた。

 これは最近論文で読んだから覚えている。

 単位にもなっているよね。

 地球で質量100gの物体にかかる重力が1N。


 「つまり、なにが言いたいかというとこの球体の上で立っていられるのはその力のおかげということですね。落ちたりしませんよー。」


 丸い球を描いてそこに重力を示す矢印を引いて1Nと書いた後で、それを吊るしている糸へかかる力の大きさを書いた。


 「…なんとなくわかった。で、セシルはその星で生きていたんだな。」


 「はい。私は<日本>という国で育った歴とした<日本人>です。そう、I am a Japanese.」


 いや、悪ノリが過ぎるな。


 「日本は地球を広げた図、世界地図を用いるとここら辺ですね。島国で海に囲まれていました。」


 ざっくりと世界地図を黒板に記す。

 赤道と本初子午線を書いてなんとなくバランスを取って、六大陸と日本をかく。


 「大雑把ですが、こんなもんでしょう。だから、私は日本語というこの国で話されていた語を話すことができます。佐助や楓が話すことができる言語ですね。」


 日本には日本の国旗とJapanと書き記す。


 「私が勉強中なのが英語。地球、EARTHでは世界公用語とされていて、多くの人が話すことができていました。よって、私も幼少期とまでは言いませんが、ある程度の年齢から勉強していたのです。まぁ、使えるほどには至らなかったのがお恥ずかしい。」


 「いや、言語をもう一つ覚えるという発想が既に意味が分からねえぜ。」


 「で、サエラさんが話していたのはドイツ語。Germanyです。ここら辺ですね。ドイツ語を話す国は他にも幾つかあったと思いますが、残念ながらそこまで興味好奇心がなかったので覚えておりません。」


 「その、完全なる興味なんだが。セシルがいたEARTHというところには一体幾つの国があったんだ?」


 「そうですね…日本が<国交>を結んでいた?とか認めていたのが196(10)カ国とか、かな?<国連>とかが出しているのだと204(10)?」


 私が数字を黒板に記すとノエルが驚いた。

 ノエルは10進数当たり前に使うから算用数字も当たり前にわかる。


 「多くないか?」


 「そうですかね。この世界にもそれくらいあると思うんですけど。大体、国の数二つか三つで戦争がないって平和すぎて気持ち悪いくらいですよ。むしろ、<鎖国>というか、ここが島国的で誰にも見つかっていない方がまだ納得できますね。正直、ここの文明というか技術はあまり発展していません。固有能力と魔法に頼りきりなのでしょう。よって、海の外から他国が攻めてきた時にこちらが蹂躙されるという可能性も当然存在します。正直、怖くてなりませんね、はい。でも、兵器を開発するつもりはありませんよ。何もなければ守れませんが、兵器にも種類があります。少なくとも、大量破壊兵器である必要はないはず…。」


 「…セシル。」


 うっかりしてた。

 また考え込んでしまっていたのか。


 「セシルの考えは理にかなっていると思う。確かにその場合我々は王国として貴族として民を守ることができない。後で可能性についての話、詳しく聞かせて欲しい。」


 「…わかりました。」


 その時は作って欲しくない兵器の話もちゃんとしないと。

 好きではなかったけれど、歴史で戦争はよくないと教育を受けてきた日本人だもの。


 「話を遮ってしまってすまない。…技術や考え方について聞いていては終わりがないように思えてきた。セシルが生きた人生について教えて欲しい。」


 「…それ聞いてなんの価値があるんですか?」


 なんの情報もない、なんの意味もない情報ですよ?

 レオンさんが興味をもつ意味が分からない。



 「価値ならあるだろう?これから人生を共にするセシリアについて詳しく知りたいのだ。それは何より大事なことだろう?」


 「…よくわかりません。」


 急にセシルでなくセシリアと呼ぶからなんかムズムズするような?


 「俺にはある。何よりも価値がある。」


 「はあ。よく分かりませんが、別に大した人生ではありませんでしたよ?」


 レオンさんがそう言うなら別に話したくないわけでもないし。


 「私は生まれて学校という教育機関に通って、そして死にました。恐らく死んだのは17(10)歳、こちらで換算すると…17/1.5で筆算をして11.333…(10)歳、小数第一位で四捨五入して11(10)つまり…14(**)歳ってところですね。」


 最近は小さな数なら瞬時にこちらの数に変えられるようになった。


 「私がまともにペンを持てるようになってから計算したところ、ここの1年って向こうの1年半みたいなんですよ。よって、こちらの年齢で14(**)歳ですね。」


 「…あまりに若いな。結婚して間もないだろうぜ?」


 ブルナンどのはそう言うけど。

 あぁ…訂正しなければなりませんね。


 「あぁ、結婚はしてませんよ。法律上、結婚できるようになるのはこちらで言う13(**)とかなんですけど、改正されて15(**)になりましたね。男女共通です。ちなみに、この最低年齢で結婚する人の方が稀です。結婚にあまり興味なかったので分かりませんが、27(10)歳とか…つまり、18(10)、24(**)も全然遅い感じではありませんでしたよ。むしろ早いくらい?そこらへんの事情に疎いのですが。それに、独身で一生を終えることも意外と考え方として受け入れられていますし、結婚だけが幸せの価値観じゃないよなって。」


 「なら、結婚とかしたことねぇのか。」


 「ですね。それに私は恋愛とかに疎い方でしたので、彼氏、つまりは恋人もいたことありませんし。あーいう年頃は彼氏というか、恋人とかつくってる人が多いんですけどね。交際して別れてを繰り返していってで、結婚する感じです。お見合いとか政略とかないので、恋愛結婚が一般的です。結婚相談所という場所もあってそういうので結婚する人もいますから、マッチングとか、そういうのもビジネス、金儲けの対象でしたね。」


 …ん?

 私はなんの話をしているのだろう。


 「そもそも、私は働いたことありませんしね。学校という、授業を朝から晩まで受ける教育機関が存在するんです。ある一定年齢は義務として、その後も基本的に進学、教育を受ける人がほとんどですね。私はその途中にいましたから、専門的な知識も実務経験も皆無なのです。学歴がそのままその後の<給料>つまりは生活というか地位に直結しますから、お金と頭があれば進学しますよね。正直、そのシステムもどうかと思っていますけど。」


 「専門的な知識なしでアレか…?」


 「そうですね。私程度、どこにでもいます。偶然、その記憶を持っていたからここでは重宝されましたが、向こうでは何もできない餓鬼です。人生のその段階だといえば変ではありませんが、正直、役立たずですね。ただ食料と住む場所を奪っている以上マイナスかもしれません。まあ、両親はそんなこと思ってないと思いますが、実情を冷静に判断するならそうです。将来的に介護とか考えたらまた別でしょうけど。」


 「…セシル、中身は14(**)歳、いや、21(**)ってことだよな?」


 「は、はい。そうで」


 「違うな。」


 瑞稀??


 「基本的に精神の年齢は肉体に引っ張られる。よって、完全に大人の情緒を理解し、精神年齢が大人であるとはいえぬな。知識や記憶はあるから、大人びてみえるようだがな。お主にも覚えがあるじゃろ?」


 …ないわけではない。


 理性が感情に押し負けた記憶が幾度か。


 特に、屋敷でメイドに絡まれたとき、もっと冷静でいられたはず。

 もっと感情を消していられたはずなのに…。


 「そう、ですね。」


 「お主は4(**)歳には違いないのじゃ。そこを忘るるな。」


 瑞稀の話は心に留めておこうと思った。


 意識しておけば防げるものもあるだろう。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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