解読作業
主人公はおやすみ中です。
ノエル、レオン、ブルナンは論文の解読を進めていた。
「EARTHを知っていると書いてある。このWHOは分からないけれど、似た文章を見たことがある。」
ノエルは自分の中にある英語の知識をフルに活用しているが、まだ一文も意味がわかっていない。
"FOR THE PEOPLE WHO KNOW THE EARTH"
「WHOは疑問詞として習ったんだけど、何度か姉さんや瑞稀さんが質問以外で使ったことがあるのを聞いていた。正直、まだ教えてもらっていないと思うんだけど、文法の本に書いてないかな…。」
最初のページから自動詞と他動詞の違いや、文型が続いて、それらしきページを見つけた。
「…よく分からないけれど、後ろは前の言葉を説明するっぽい。ってことは…"EARTH"を知っている人へ?」
「ノエル、悪いがこの意味がわかるか?EARTHというのを調べたのだが、他の言葉には説明が載っているのにこちらには載っていないんだ。確認するとこちらの言葉に該当がないというものらしい。そういう言葉は意外と多いようで数ページ繰るだけでもいくつも見つかる。」
レオンが辞書でEARTHを見つけたはいいが、その先に進まない。
「おい、そこに書いてあったのを書き写したぜ?」
ブルナンは手早く文字を書き写していた。
「…レオンさん、ブルナンどの。ここには、そのEARTHを知る人へと書いてあります。そして、その言葉は該当がない。」
「つまり、俺たちが調べているEARTHというのは未知のもので、それを知っているものに宛てたものということでいいんだな?」
「…そうだと思います。」
レオンは正しくその意味を推測する。
「…なら、セシルはそれを知ってるってことになる。全てを読むことは言うまでもなく不可能と言えるだろう、今の様子を見て確信したぜ?なら、俺らにできることは、そのEARTHを知ることだろ?それが一番の隠し事なら、それでことは片付く。」
ブルナンはやることを絞った。
「僕もそれがいいと思います。EARTHに書いてある文章を僕が見てそれから分かる単語の意味を書くので、分からないものを調べてもらっていいですか。」
「それしかないな。頼りきりになってしまってすまないが。」
「適材適所でしょう。レオンさんが気にすることではありません。」
「…そうは言うが…俺も学んだほうがいいんだろうか。」
「レオンさんにやる気があるなら英語より、別の言語を学んでくれませんか。英語は僕で十分です。姉さんが扱えるのはもう一つあるそうだし、他にも言語は存在します。」
「ならそうしよう。」
ノエルは写されたEARTHの意味、すなわち、英語で書かれた語義を見て自分の分かる単語に意味を振っていく。
(often an initial capital letter) the planet third in order from the sun, having an equatorial diameter of 7,926 miles (12,755 km) and a polar diameter of 7,900 miles (12,714 km), a mean distance from the sun of 92.9 million miles (149.6 million km), and a period of revolution of 365.26 days, and having one satellite.
とはいえ、ノエルにも意味がわかる語などほとんどなかった。
前半部分の説明は、正直、セシルでもドン引きするほど無駄に詳しく、核心に触れない無駄なものであった。
セシルは意外と大雑把なため、地球の半径や円周など覚えていないのだ。
レオンとブルナンはノエルが分からないと印をつけた単語をただひたすらに調べていく。
The Earth is the planet that is in another world and some people have memories of living there in previous lives.
( The Earth は別の世界=異世界にある惑星で前世にそこで生きた記憶を持つ者もいる。)
On the earth, there are great technology and developed society, but there aren't any magic powers and unique skills.
By the way, a lot of people on the earth can speak English. English was the international language on earth.
(地球には、素晴らしい技術と発展した社会があるが、魔力や特別な能力は存在しない。ところで、地球の多くの人々は英語を話すことができる。地球上で英語は国際語だったのだ。)
本当にノエルらにとって意味があるのは後半部分。
それから何時間も時間が過ぎた。
ノエルらはplanet(惑星)の意味をとるのに難儀していた。
Astronomy (天文学)
と一言目に記されていて、以下に詳しい意味が記されていた。
セシルなど、地球で暮らすものにとってみても、惑星の意味を正確に説明できるものは多いとはいえないだろう。
セシル=七瀬ならば、「地球みたいに自ら光らず、自ら光る恒星の周りをくるくるまわっている星のことだと思うけど、詳しいことは分からないね。ネットで検索してみたら?」と答えるだろう。
ノエルらが苦労するところを瑞稀はじっと観察していた。
(…面倒な奴らじゃ。そこまで意味がわかっているなら適当に意訳すれば良いものを。セシルとて、本当に全部など理解せずに読み切ってから意味を調べておるというのに。お主らが理解できるはずがなかろうて。じゃが、慎重な性格は悪くはないな。)
それからどれほどの時間が過ぎたのだろうか。
やっと意味が取れるようになってきた。
「…これは、EARTHについて。別の世界に存在する星らしい。で、前の人生?でそこで生きた記憶をもつ人もいる。ってことだと思う。」
「つまり、これはその前の人生、前世の記憶をもつ人を意味しているのか?」
レオンが尋ねる。
「恐らくは…。だとするのであれば…」
「セシルは前世の記憶を持っているってことになるぜ。元々大量の知識を持っていたことになるな。で、EARTHを知る人に当てはまったというわけだ。」
ブルナンが推測を総括する。
「続きを少し読んだら、Englishって単語が出てきて、これは英語というこの言語の名前だと瑞稀さんに習ったのだけど。EARTHの多くの人がこれを話すことができたんだって。」
ノエルはその部分だけは読み解くことができた。
「英語はInternationalな言語だったと書いてあった。」
「なら、セシルがドワーフと会ってあの言語で話した時点でその可能性が十分にあったといえるな。…どうせ知っているから隠す必要がなかったと佐助は言っていた。つまりはそう言うことだったんだろう。ドワーフはセシルと初対面でそれに気づいていた。そして、瑞稀やそのほかが関係を持とうとした。俺たちはそれを知らなかったから気づかなかった。違和感があっても、メッセージは伝わらなかったんだ。」
レオンは腑に落ちたように言った。
「…僕たちが聞き取れなかっただけで、似たような話をしていたのかもしれませんね。目の前で堂々と。」
ノエルは悔しそうに言った。
「…隠し事だから聞き取れない言語で話せばいいってことか?あんまりだぜ、セシルの野郎は。」
「全く、でも、そうだね。隠した理由は知らないけど、信頼してもらえなかったのかな、僕たちのこと。」
ノエルは生まれたときから一緒にいただけに悔しそうだ。
「…違うんじゃないか?」
レオンが否定する。
「ノエル、お前はセシルに信用されていたし、大事にされていたんだろう。初めて会ったときからそんなこと分かりきっている。佐助は、セシルは自分の価値を認識していると言っていた。つまりは、それだけの知識があるんだろう。そのEARTHがどれだけ進んでいたのかは分からないが、そこで生きていたときの知識によって狙われることだってあるだろう。俺たちの前に晒していることですら、危険を孕んでいるんだ。セシルが認識をしているのなら、彼女なりに危険と思われるものは出していないはず。つまり、それらはありえないほど危険なものということだ。それを知っていたら、俺たちの命も危ういだろうな。」
「…つまり、いくらでも利用できるし、そうでないなら殺してしまいたいほど厄介になるかもしれないということ…?あぁ、だから、瑞稀さんは僕たちに見せたんですね。自分たちで理解できない程度なら知らなくてもいい、くらいには思って、この試練じゃないが、問題を設けられたということですかね。」
ノエルの問いにため息をついて瑞稀は言った。
「まぁ、そうじゃな。我らには人間の世界の知識などない。よって、守るものが増えるのは歓迎すべきことなのじゃ。じゃが、有能な敵よりも無能な味方の方が厄介でのう。その程度も力がないなら放っておこうと思っていたのじゃ。で、それを知ってもセシルの味方でいるつもりか?」
瑞稀は目を細めて尋ねる。
彼らが味方になりうるか、裏切る心配はないかを見定めているのだ。
「当然です。」
「愚問だな。」
「チッ、まぁ、魔法の知識が増えるなら、それでいい。」
「…ロームも、まぁ、素直で分かりやすくていいか。世界を滅ぼすような魔法を探しているわけでもないしな。単純なる知的好奇心なら悪くない。なら、構わぬ。わかっているとは思うが。」
「箝口令ですか?わかっていますよ。」
「ならよい。まぁ、セシルもあやつなりに覚悟を決めたようだしな。明日からは忙しくなるぞ。」
瑞稀は楽しそうに笑った。
(まぁ、なにより、奴らに暴露したことに対しての反応が見ものじゃのぅ。)
心の内というのは分からないものである。
だが、瑞稀の行動は必ずセシルのためを思っている。
さぁ、明日からが楽しみだ。




