閑話 : 私の自慢の娘について
「セシルお嬢さまは現在、わかりやすく文字を教える本を執筆していらっしゃいまして、見本として渡されたこれをもとに、私は他の文字についてまとめているところです。とても、やり甲斐のある仕事なんです。」
今、私の娘セシルことセシリア・フォン・エマールについて報告しているのは、私の腹心の侍女のひとりで、現在娘につけているエマだ。彼女は、いつでも明るくて笑顔で、見てる方が幸せになれるようなそんな子。私がエマール家に嫁ぐと決まったときに一緒に喜んでくれて、エマール伯爵家で頑張ってくれてる。実家から連れて来ちゃった侍女はエマだけ。実家の侍女はいい子が多かったけれど、エマール伯爵家は未知すぎて慎重になってたのと、あまり実家から連れていくと良くないという2つの理由でエマだけを連れてきた。エマール伯爵家は使用人まで家族のようにあたたかだし、性格があっていると太鼓判を押されていたのもあって、苦労せずに馴染めたし、仲のいい侍女もたくさんできた。
娘ができたときに任せたいと思ったのはエマだった。
娘とは仕事の関係もあって、ずっと一緒にいるわけにもいかず、朝食と早い時間の夕食に顔を合わせて会話をできるのが毎日とも限らない。だから、時間がある日はなるべく一緒にいようとしているし、会ったときには思いっきりハグをして愛を伝えてあげようと思っている。そして、仕事の時間でも屋敷に居られる時はエマを呼んで、娘の様子を報告させていた。この時間がとても幸せだ。
「セシル様はいろんなことが思いつくようで、今日もなにか新しい本を書いていましたよ。お嬢さまが纏めるメモは文字数が少なくてわかりやすいんです。だから、文字を浸透させるのにとても有効だと私は思っています。」
「見せてもらったけど、この全部の文字が書いてあるのも見事ね。それに、エマが書いているのも分かりやすいわ。どこから書けばいいのかも一目で分かる。こんなものがあったのね。ほら、勉強のときに使っていたのって教えてくれる人しか読めないようなもので、一つ一つ教えてもらわないとわからなかったもの。勉強する人が分かる本とは画期的。考えたこともなかったわ。」
「私もです。文字を完璧にするまでに数年かかってしまいましたから。これだったら、もう少し覚えるのが早かったかもしれません。」
過ぎた話ですが、とエマは笑うが、私もそう思う。
これなら、教えてもらわない時間も一人で練習できそう。
「世間、貴族社会じゃ変わり者ね。流石はエマール伯爵家の子ということかしら?ウチではそういう子大歓迎!!」
変わってるという話じゃ、髪を束ねることをはじめたのもセシルなのよね。
エマは自分の固有能力"ドレサップ"も駆使して新しい束ね方を見つけて、今では髪を編んでくれるのよ。
今日もいつも下向くと落ちてくるような髪たちを編んでくれて、残りの後ろ髪は下ろしているが、仕事に集中できる髪型にしてくれたの。最近では領民も真似してるわ。何より、可愛くて美しいしね。
「そうですね。それに、セシルお嬢さまは数えずに数がわかってしまう不思議なことができるみたいで。それを"計算"と読んでましたが、それも領民に広める予定だそうで。」
「あら!研究成果はすぐに領民に還元とはいうけれど、先に私たちに教えてほしわ。気になっているもの。」
これは本音だ。
私だって、独り占めするつもりはないわよ。
でも、ちょっとでも早く知りたいじゃない?
あとは、セシルが領民に教えてるとき、それが聞けるとは限らないじゃない?
私の仕事は領地経営。
毎日のように領地の色んなところに行って領民の話を聞くこと。
屋敷に居られる時間も少ない。
いっそ、休息日とかにやってくれれば、私も仕事はあっても屋敷に居られるのだけれど...。
「それに、成功したら、あの子の弟か妹にも教えてあげられるかしら?」
「そろそろでしたね。お嬢さまは1年でとおっしゃってましたから、字を習う年齢までには、もしかしたら確立しているかもしれませんね。」
「そうね。そうだと嬉しいわね。」
私はお腹をさすった。
お姉ちゃんは頑張ってるのよ。
セシルはいいお姉ちゃんになれるかしら??
そうやって仕事を進めながらお腹をさすっていると、扉がノックされた。
「どうぞ。」
「失礼します、奥さま。」
入って来たのはイーヴだった。
庭師で街中にいる世話焼きな兄ちゃんって感じの子でエマと同じくセシルにつけられている子だ。
「どうしたの?」
「いや、エマを呼びに来ました。」
私に話しかけられてちょっと気まずそうにしながらもエマを呼びにきたと。
今、イーヴは
「急ぎ?というか、イーヴじゃダメなやつなの?」
エマは行きたくないわけではないが、私の手前、どうするか考えているようで、時間稼ぎなのか、考えるための材料なのか、用件を聞いている。
「今ってのは、これは俺の都合かもしれないが、俺じゃダメってより、人数が欲しいんだ。」
「なら、私が行ってもいいかしら?」
「「奥様!?」」
「だって、人数が欲しいんでしょう?私だって娘を手伝いたいわ。私じゃダメかしら?」
「いや、ダメではありませんが、いいんですか?遊び相手みたいなものですが。」
「遊びなら尚更!!私だって娘と遊びたいもの。それに、今セシルがやろうとしていることに繋がることなんでしょう?」
「.....」
返事がないなら大丈夫ってことね。
「さぁ、行きましょう!!イーヴ、案内お願いできる?」
さぁ、娘と遊ぶわよ!
♢♦︎♦︎♢
「お母さま?」
「セシル、人数がほしいと聞いたから来ちゃった。」
「そう、なんですね。仕事は大丈夫、ですか?」
「えぇ。ちょっとくらい。」
そう、ちょっとくらいバックれても大丈夫!
「なら、私とイーヴとエマとお母さまで4人か。追加でカード作っておいてよかった。そこの4人掛けの机でいいですか?」
セシルに促されて、私の右隣にエマ、正面にセシル、斜め向かいにイーヴが座った。
「初めての人がいるから最初から説明しますね。ここに1~7の数字がそれぞれ書かれたカードがあります。そして、それぞれマークが書いてある数字の数だけ描かれています。」
「あれ?マーク増えてません?」
イーヴが尋ねた。
「はい、増やしました。人数が多いと、先程の枚数では少ないと思いまして。まず、これらの中から7を除いて裏返して混ぜます。」
セシルは見慣れぬ方法でカードを混ぜて?いる。これで混ざっているのかはわからないがカードを下から上に持っていってる?これで混ざったということなんだろうか。
「次に裏返したまま、1枚カードを引いて、そのままこの箱の中に入れます。」
表にかいてある数字やマークを見ないように注意しながらおそらくは紙でできた箱のようなものに入れた。どうやって作ったのか?不思議だ。
「そうしたら、先程除いた7も混ぜてもういちど混ぜます。しっかりと混ざったら、裏返したまま1枚ずつ皆さんに配っていきます。配られたものは手札といいます。これは自分以外に見せてはいけません。こんな風に持つと、見られないと思います。」
手早く配ったセシルは扇のようにしてカードを持った。
「最初に手札の中から7を探し出して、見つけたら真ん中に表にしておく、これを捨てると呼びます。」
ほう、私も1枚7があったわ。セシルに倣って机の上に表で置いた。
「次に手札の中から2枚組み合わせて7になるものを探して2枚揃えて捨てます。例えば、私の2と5です。この2枚のマークを数えると7になるでしょう?そういう組み合わせを探して捨ててください。」
確かに、今セシルが出した2枚のカードのマークを数えると7になる。
って、数えてるうちにどんどんセシルが出していく。
速すぎる!私も探さないといけませんね。
えぇっと、先程見たのは2と5でしたね。ひとつあったわ。
私はそれを捨てると、もう1枚2がある。他のカードと組み合わさらないかしら。
2と1だと...マークは3個か。これでは7にならない。
難しい...頭をつかう...。
「よーし!!俺はこれで終わりだな。」
イーヴが終わった??全部探したというの?
「イーヴ速くない?本当にもうないの?というか、なんでそんなに速いの?」
「そりゃな、さっきやったばっかだし、一応まだ薄っすら覚えてんだ。お嬢が言うには、さっきのだと、2は5じゃなきゃ7にならないから、2は5以外とくっつかねぇんだと。他も同じらしい。」
狡い、と思ったが、最後のはヒントになるわ。
2は5以外とじゃ駄目。
ってことは5も2以外とでは駄目なのではないか?
つまり、2と5以外で考えないといけない。
そして私は考えた末に、3と4という組み合わせを見つけた。
「そろそろ、出し切ったかな。次の説明いきますが、大丈夫、ですかね?」
ここまでにかなり頭を使ったのだが......。
「では、最初に私がお母さまの手札から1枚引いて手札にします。そして、手札をもう一度見て、7になる組み合わせを探して、あったら捨ててください。捨てるか、手札で組み合わせができないことを確認したら、次はイーヴが私の手札から1枚引いて手札にしてください。同じように組み合わせを探してから、今度はエマがイーヴのを引きます。その次はお母さまがエマのを引いて、また最初から私がお母さまのを引きます。これを繰り返して、手札がなくなるまでやります。手札が速くなくなった人の勝ち、1枚だけ残るようにしているので、手札がなくならなかった人の負けです。」
「お、おう、わかった。2人じゃないときはそうやるのか。右側の人から引いて、前っていうか左側の人に取られるわけだな。」
「そういうこと。大丈夫そう?」
「大丈夫よ。私のから引くのでしょう?どうぞ。」
セシルは私の手札から1枚引いて、すぐに合わせて捨てた。
その確認はとても速かった。
手順を繰り返して、最終的に手札がなくならなかったのはセシルだった。
負けちゃった、と笑っていたけれど、手札の確認の手早さからセシルの勝ちな気がした。
なにより、面白かった。
ちょっとずつだけど、どれを組み合わせたらいいかがわかってきた。
「よし、これを俺が同僚に広めたらいいんだな?」
「うん。これで7になる数の組み合わせを考えることなく出るようになればいいな。カードがもっとあったらいいね。」
「私が作るわよ。」
考えることなく口にしていた。
「私がつくると言ったって、もちろん誰かに頼むのだけれど、手配とか私がやるわ。」
「お母さまが?」
「私も娘のお願いを叶えたいのよ。あとは、次こそはスムーズにこのゲームをやるんだから。」
自然ともう一度この遊びをすることを考えていた。
「お母さまがゲーム好きだとは知りませんでした。今度は他のゲーム考えておきますね。」
楽しそうな笑顔に私も嬉しくなった。
新しいゲームを娘とやるのが楽しみだ。
♢♦︎♦︎♢
あのゲームをした日から暫くが経った。
あの後、カードを手配して、すぐに量産した。
イーヴやエマがゆっくりとこのゲームを流行らせている中、私は何回もエマと遊んでいた。
因みに、こっそりと領地の視察で流行らせているのは秘密だ。
そうして、気づいたことがある。
「この書類は7枚必要で、今4枚書いたから......あと3枚ね。」
仕事中にふと私は呟いていたのだ。
数えてもいないはずなのに、7になるためにはあと3が必要であることが分かった。
「可笑しいわね。数えていないのに分かるなんて。あと3枚、だったら頑張れるかな。」
仕事をしているときも、娘とゲームした日を思い出す。
あのときは...ゲームで精一杯だったけど、不思議な箱があったわ。
普段ゲームするときは木箱を使うけれど、何故か紙みたいなものでできていた箱。
あっっ!!
あの不思議な箱の作り方を聞くのを忘れていた。
見たことのないものだったから、きっとセシルがつくったものだろうけど。
ゲームに夢中になり過ぎた!!
善は急げよ。
私はすぐに、娘の元へむかった。
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