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閑話 : 環境要因

 俺は洗礼を受け、嘘を見抜く固有能力を得た。


 固有能力名はポリグラフというらしい。固有能力名が意味不明なのは今に始まった事ではないため、多くの人が名前を忘れてしまっている。もっと分かりやすい名前ならいいのにと思うが、誰が名前をつけているかも不明なため、改善のしようがない。


 その日の夕食後、父上の部屋に向かった。


 「レオン、洗礼おめでとう。」


 「ありがとうございます。」


 お酒も飲めるようになるため、今日が初めての晩酌だ。

 とはいえ、初めてならば少量にしておく。


 「…お前がその能力で難儀しないことを私は祈るよ。」


 父上が俺を心配するように言った。


 「…父上の、固有能力ってなんですか。」


 ずっと聞かされていなかったこと。


 俺の父上の固有能力は俺も知らない。

 社交界で固有能力を隠している人は珍しいが、いないことはない。

 エマールなんかはよく隠していた。


 「…私の固有能力は、お前のに似ているかもしれないね。詳しくは言えないが、人の本音がわかってしまうようなものだったよ。近しい者は皆私に期待したさ。だが、皆求めていたのは私でなく、私の能力と家だった。それは絶望した。親しい友人と思っていた者でさえ、考えていたのは私の地位。結局、私自身には何もないと気づいたんだ。」


 …あまりに壮絶だった。

 確かに、家柄で寄ってくる者にいい印象は抱かないが、その気持ちを隠している者に気づいてしまうのもまた不幸なのかもしれない。気づかずに過ごしていた方が幸運なのかもしれない。


 「だから結局、本当に楽に接することができたのは今の国王や公爵家や辺境伯家などの私に気を遣う必要のない者たちだった。彼らは既に私なんかより地位を持っていたからね。それにエマールの家の者たちだ。彼らは私をなんとも思ってなかっただろうが、それもまた異質で嬉しかった。」


 確かに、エマール家の者は知的好奇心の塊であるが、家柄や地位に全く興味を示さないものな。


 「だからか、視察の馬車の中でのセシリア嬢の言葉は新鮮で少し嬉しかった。誰も、この能力の苦しみを想像してくれる人はいなかったのだから。能力は万能で羨まれることはあったが、それに付随するものには誰も気づいてはくれなかった。望むならば、交換して欲しいと何度思ったことか。」


 「…固有能力は個人の資質や願いによって与えられると聞きます。セシルやノエルは俺にその資質があったから与えられたのだと言ってくれました。しかし、恐らく違います。」


 俺は手元に洗礼式で受け取った紙を取り出した。


 「女神さまからの言葉、それが俺を見て贈られたものだと不思議と感じました。助言によれば、親しい者に使い方を相談するようにとのことでした。そして、その者を力を使って守るようにと。結果、セシルとノエルに相談し、俺自身の能力に対する考え方の誤りを正されました。それを含めて俺にはこの能力が与えられたのではと考えずにはいられないのです。」


 俺自身の資質では恐らく足りなかったのだろう。

 俺では能力を正しく理解できず、傲慢になるところだったかもしれないし、能力に頼りきって大きな危険を冒したかもしれない。


 「能力に対する認識の誤りとは。」


 「嘘がわかるというのは確かですが、真実かどうかが分かるということと同義でないということです。本人に嘘をついている自覚がなければそれを見抜くことは不可能であり、また本人の推測に対しては真偽の判定は不可能です。これらのことから、場合によってはこの能力を出し抜くことも可能であると思います。」


 俺は実際、あのゲームで何度かミスを犯した。

 セシルが計画した検証の一部だったが、これが決定的な場面なら危うかった。


 「…それを見つけ出したのか。」


 「えぇ。俺が聞いた途端、好奇心丸出しで迫ってきましたよ。一言目から俺の能力の限界を試していましたからね。それも二人とも。」


 あれがエマールの血なのかもしれない。

 そして、誰しもがもっていた好奇心、捨て去ってしまったものかもしれない。


 魔法に対してならブルナンどのも負けていない。


 「そうか。私もそれほど気負うものではなかったのかもしれないな。私たちは神ならざる人なのだから。」


 「はい。」


 …セシルはそれを誰よりも自覚しているのかもしれない。

 そんな気がしたが、何故かは分からない。

 あんなにも一人で背負っているのに。


 「それで、例の件はどうするつもりだ。私は手を出さないとは言ったが、何も知らないままというのは問題だからね。」


 「理由は聞き出しました。なんとか…少し狡いことをしましたが。」


 あの日、この能力をもっていたらどうだっただろう。

 セシルは決定的なことを言わなかった。嘘と本当のギリギリを攻めていた。俺の能力でなにがわかっただろうか。


 「…それを私に伝えるつもりはないんだね。」


 「はい。ですが、これだけは言っておきます。彼女は短髪を好んでいますが、短髪になった理由は彼女が意図したものではなく、むしろ彼女を害そうとした悪意です。」


 父上に伝えても問題はないだろう。

 だけど、告げ口をするのは彼女への裏切りになるような気がしたのでやめた。


 「…こちらの準備不足か。申し訳ないことをした。」


 「準備の問題ではなかったかもしれませんが。メイドを3人適当な理由で追放しようと思うのですが。」


 「好きにしろ。にしても、彼女を害した罪でならもっと罰を与えられるが。」


 それはもっともだ。 

 俺としても、追放するくらいでは物足りない。


 「俺もそう思いますが、彼女らに俺の婚約者を害した意識はありません。そして、これはセシルの望みでもあります。」


 平民に恨みが向かないような方法で追放する、これがセシルの本意に合う方法である。

 尚、セシルは追放も望んではいない。俺個人の腹いせである。


 「お前の婚約者だから害されたわけではないということか。ますます理由がわからなくなったが。わかった。私は了承する。うまくやりなさい。その程度こなしてもらわねば」


 「公爵なんて継げない、ですか?そうですね。俺もそう思います。」


 うまく駒を動かして詰みにする。

 あぁ、将棋と全く同じことだ。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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