デジャヴ
「<デジャヴ…>」
「なんじゃ?目を覚まして一言目がこれか?それに、それはフランス語じゃろう?」
小さな蛇の姿の瑞稀は枕元で、お前話せるのか?と聞いてくる。
「<いや、日本に入ってきた外来語だから最早日本語だよ。>…まずい、普通に既視感を覚える。」
「急に倒れよって。奴にも話してしまったぞ。」
周囲を見れば、溜息をついているノエルとレオン、そして、ブルナンどのがいた。
やっぱり、呆れられているよね。
それに、ブルナンどのはなんか、汗の量が半端じゃない。
「これで3度目…ですかね。呆れられるのも仕方ありません。で、瑞稀?ブルナン殿に話したって言っていたけど、心臓に優しくない伝え方をしたのではありませんか?」
大丈夫かな、流石に不味いと思うのだけれど。
「そこまでのことはしておらぬ。ちゃんと見極めたさ。」
そう、ならいいけど。
「姉さん、心配したんだよ。」
「セシルが急に倒れるから、瑞稀がいなかったら頭を打っていたのだぞ。」
頭を打っていた、か。
打ちどころが悪ければそれは死ぬけれど、貧血で失神なんてよく聞く話だからな。
「善処します。で、過労ではないと思うのですが、原因はなんでしょう。」
「ただの魔力切れじゃ。我らにまで干渉する魔法まで使うから魔力が尽きたのじゃろう。あと、他の者なら過労になる仕事量を平気でこなしているのだから、過労の可能性を一番に消すでない。ノエル、レオン、お主らもじゃ。」
魔力切れか…。
魔力の量は生まれつきだろうか、増やせるのだろうか。
どっちでもいいけど、前兆が掴めた方がいいな。
「セシルめ…当たり前のように過労の部分をスルーしおって。」
白蛇の瑞稀ってなんか可愛いよな。
「セシル、体力をつけよ。食事をしっかりと採り、適度に運動をせよ。さすれば少しはマシになるじゃろうて。最大魔力量は変わらぬが、魔力の質と魔力を生み出す速度は成長できる。それは努力次第じゃ。」
そっか、なら頑張ってみようか。
よく考えてみれば、全く運動していない。
そりゃ、体力がなくて当たり前だ。
前世も今世も運動は好きじゃないけれど、大事なことには違いないから、腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワットから始めよう。
「それは持久力方面でいいんだよね?あとは、栄養バランスとかは?」
「栄養は最低限わかっておるだろう。バランスよくだ。持久力方面で間違いないが、いきなりマラソンすると体を壊すぞ。」
うん、それは分かっている。
だから、まずは始めよう。
「運動?あてはあるの?貴族の男児は基本的に剣術を嗜むが、令嬢が運動というのは聞いたことがない。俺も剣術は習うが、そこにセシルを入れるのは…。ノエルなら歓迎するぞ。体がまだ足りないだろうが、俺が幼少期使っていたものなら扱えるだろう。」
「剣術…それもいいかもしれませんね。」
剣道とか、意外と憧れだったんだよな。凛としててかっこいいし。
「え?」
「大丈夫です。今のところは室内で少し運動するだけなので。」
今の筋力じゃまともに腕立て伏せできないかもな。
でも、正しい筋肉の使い方はわかっている。
上達はアドバンテージがある分、早いはずだ。
「具体的には?」
瑞稀が聞いてきた。
なんか、試されているような気がするのは気のせいじゃないと思う。
「腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワット、それぞれ10回を3セット、少ないですが、初めはこのくらいかと。ランニングは適当なところで始めたいですね。」
「そうか。なら、サイクリングでもするといい。そろそろアレが届くそうだぞ。」
ニヤッとした気がする。
サイクリングでアレとは…
「自転車届くの?やったー!!」
「長い距離でなくとも今は鍛錬になるだろう。基礎体力をつけねば、剣術などできん。それに、もっとセシルに似合う戦闘技術もあるだろうしな。」
剣術でなくともいいのか、うん、そうだよね。
弓道もかっこいいもんね。
よし、頑張ろう。
「で、その様子だとブルナン殿の件も片付いているみたいだし、うん、問題は全て解決したということだね。」
「解決してねえ!!」
騒ぎ出したのはそのブルナンどの。
「結局あの話の疑問は全て解決していないんだ。解決するまで付き合ってもらうよ。」
あ、ノエル、がんばってね。
戦々恐々とした顔でこちらを見ているけれど、ノエルの管轄だよ。
「大丈夫。他の業務は私が滞りなく進めておくから。」
こういう人って全て解決するまで絶対に止まらない。
「ちょっと、姉さん?」
「ブルナンどの。もう、時間ですので、お引き取りください。俺らも仕事が降り積もってるので。」
レオンさんが帰るように促した。
「はあ?俺にこのモヤモヤした気持ちを持ったまま帰れっていうのか?」
「知らん。俺には関係ない。言っただろう?仕事があるんだ。」
「なら、その仕事を手伝うから、合間にでも説明しろ。」
「…ノエルが許可するならいいだろう。」
「え?私の許可は?」
「働いてくれるなら喜ばしい限りです。お願いします。」
「え、無視された?やっぱり、私の許可は関係ないんだ…。」
「ではそういうことで。ここで仕事をしようか。道具を用意するよ。」
どんどんと先に進められていく。
私の存在って…。
その夜、私は一人で筋トレをした。
簡易的なものだが、とても体が重いので、明日は筋肉痛になるに違いない。




