識字率向上計画始動!!
洗礼式の説明を受けた次の日からは毎日図書館で自由に本を読むこととなった。
勉強すべき最低限の知識はとても少なかったが、歴史や貴族の成り立ち、領地についてなど、本は色々とあった。
もっとも、私は前世より歴史は好きではなかったので、読む気もしなかったが。
存在だけは知っておこうと思った。前世の歴史嫌いはもしかしたらテストに追われたのが原因かもしれない、もしそうならば、歴史が嫌いと断定するのはまだ早い。そして、無理に勉強するのは悪手だ。
と、自分に言い訳してそっと本を棚に戻した。
しかし、数学に関する本は全くと言っていいほどになかった。
エマとイーヴが合計を出すために数を数えていたのは彼らの勉強不足ではなく、この世界の常識なのだ。
変則7進数な異世界数だからこんなに発展しなかったのではと思ってしまうのは、私が10進数に親しみすぎたせいだろうか。
他に本棚の多くを占めていたのは"研究"だ。
これまでの伯爵家の人たちが命をかけて研究してきたその記録。
これほどに価値のあるものはないだろう。
だが、それも一度はお預けだ。
私が調べているのは、文字の読み書きを広めようとした記録だ。
正確には、どうして広めることに失敗したのか、の記録。
そして、それらを読んで分かったことは、この世界に"学校"という概念がないこと。
"教える"ということに関して専門性が薄いことだ。
彼らは、私がそう教わったように、一人に対して一人または一人に対して三人で教えるというスタイルが基礎にある。教師三人に対して生徒一人とはあり得ない比率だ。実際に文字を読み書きできる人は屋敷に勤める人間くらいなのだから、一度に教えられる人数は決まりきってる上、通常業務もある。無理だろう。
そして、教科書というか、教えるガイドライン・マニュアルが存在しないことだ。マニュアルの是非は未だ意見が分かれるだろうが、何もないのも統一性に欠ける。先に読んできた本が長文で絵も図もなかったこと、話があちこち行っていてわかりにくかったことを考えると、教えにくいというのも頷けるだろう。私がそうだったように、文を読んで分からないところを質問するという形が一般的のようだ。テストもなかった。
そして、学ぶ側の意欲だが、領主がやるのなら協力しようというやる気はあるのだが、個々に読み書きができるようになりたいという欲求はない。日常の中に文字なんてないのだから当然といえば当然だろう。
最後に、子どもの頃から将来就くであろう仕事や親の仕事を手伝っているため時間がない。これについては、お願いすれば時間は作ってくれるらしい。
以上の理由によってこれまで頓挫してきた読み書きを浸透させる計画だが、私は例によってこれの解決策が分かる。ただ、領民は多すぎて、全員に教えられないことだ。例えば、映像授業でもできたらな...。
まずは書き出そう。
名付けて、"識字率向上計画"だ。
①教える側(文字が読める人)の人数が少なすぎる→映像授業?放送?
②個別に教えることができない→1対30のような講義形式にする/黒板が欲しい
③教科書がない→大変だがつくる※部数を作るには??
④テストがない→頑張ろ
⑤意欲が足りない
⑥時間がない→お願いする
問題は意欲だが、そうだな、漫画でもあればな。
読みたいし、続きが気になるだろう。
絵本とかなら、読み聞かせができる。
司祭は文字が読めるそうだから各教会に頼んでみるか?
制作は、誰かに頼むとして。
できるかどうかを相談すること
①家で話しているところを集落?ごとに映し出せるか
②本を何冊も発行できるか
③絵本を描ける人に心当たりがあるか
④教会に協力を求められるか
⑤漫画を描ける人はいるか/絵を描ける人と物語を作れる人はいるか
⑥大量の紙とインクを大量に用意できるか
⑦幼少期に使っていた書いて消せる板の大きい版を用意できるか/色付きで描けるか
うん、こんなものかな。
我ながらかなりの無茶振りだわ。
さすがに無理でしょ。
.......そんな風に思ってたこともありました。
まず、セルジュ、イーヴ、エマに相談することリストを見せると、すぐにお父さまを呼んできてリストを見せつけた。
お父さま曰く、
「このくらい、なんてことないさ。この中にできないことなんてないよ。だが、さすがに理由も分からずそれを用意するわけにもいかない。なんのために使うのかを教えてはくれないか?」
思わず固まった。
計画を話すことなんて構わない。
さすがに、意味もなく大量の頼み事なんて通るわけがないから。
まさか、なんてことなく可能だったとは。
だから、私は説明をした。
「文字の読み書きをできる人を増やしたいって本に書いてあったので方法を考えました。以前、挑戦した人たちの問題点を改善するためにこれらのものを用意してもらおうと思って。私がこの屋敷で大きな書いたり消したりできる板を使って領民全員に向けて文字を教えます。領民には紙の束を本みたいにまとめたものと、わかりやすく教えることをまとめた本を配布します。本は繰り返し使ってもらえるようにして、紙の束を本みたいに纏めたノートというものに書いて勉強するのです。絵本は教会で司祭に読み聞かせといって読んでもらって、面白い話の本も配って意欲の足しにしてもらおうと思います。本を読むために勉強してもらえたらって思うんです。」
どうだろうか??
「わははははは。面白い!!文字を浸透させるためなら失敗は恐れるなとのことだ。問題ない。それに、思いもよらぬアイディア、私は成功する気がしてきている。さすがは私の娘だ。必要なことがあればセルジュに言え。手配くらい、すぐにしてもらえるだろう。私も応援している。この計画が成就すれば、皆と一緒に研究ができるからな。あと、もう一つ。最近、私が引き継いでいる農耕に関する研究で、多くの者たちがより効率的に農業を行うようになった。短時間の仕事で多くの成果が出ている。時間も浮いているはずだ。それに、時間が浮いているからこそ今度は一緒に研究がしたいのだ。」
お父さまはにこやかに言った。
お父さまは本当に農耕研究が好きで、領民が好きなんだと心から思った。
絶対に成功させたい。
お父さまという最大のスポンサーを味方につけて"識字率向上計画"は始動した。
これから慌ただしくなるぞ!!




