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採寸

 食事を終えて、部屋に戻ってまず行うのが荷解きである。


 「お二人の荷物はお部屋に運んでありますが、中身は見ておりません。どこに何が入っているかを教えていただければ、私どもで片付けさせていただきます。」


 グレースさん?に言われて私は自分の部屋の荷物を確認した。


 こういうの頼むのって慣れてないな。


 「えっと、この袋が服で、こっちが生活必需品?みたいなものです。で、これらが全てノートなどの筆記用具ですので、本棚に入れるとして、あ、あと、これは結構繊細なものなので、私がやります。」


 タイプライターだけは、超丁寧に扱わないといけないから、そっと机の上に置いておこう。で、固定して絶対動かさない。

 幸いなことに、机が複数あるから、片方の机はタイプライター専用にしよう、そうしよう。


 「わかりました。もし、置く場所が決まっているのなら、その袋のものも運びますよ?とても重そうですし。」


 重いのは事実なんだけどね。

 でも、この場合は運んでもらったほうが向こうとしては嬉しいのかな?

 仕事を取り上げたら信用していないみたいに捉えられかねない。

 でも、ここまで至れり尽くせりなのも…前世で引っ越しとかしたことないけど、引っ越しセンターの人ってここまでやってくれるものなのかな?


 「姉さん、運んでもらったら?そっちの机の上でしょ?」


 いつの間にかノエルが来てた。わお。


 「うん。じゃぁ、お願いします。で…ノエルは終わったの?」


 「僕は服と必需品とノートだけだからね。」


 私もノエルもほぼ身一つで来たようなものだから、とても素早い。

 服は一応7セットに加えてパジャマ2セットだけ。


 ちなみに、パジャマを作るのは超頑張った。

 なんか、ヒラヒラしてて、捲れ上がったりしそうで嫌なんだもん。薄すぎるし。

 大人用を見せてもらったら、バスローブだけ?みたいなものや、レースひらひらばかりで、話にならなかった。

 試行錯誤して、前世のジャージ的なユニ●ロの部屋着的なものが出来上がった。着心地はもちろん前世の方がいいけれど、本当に助かった。使っているのは私とノエルくらいだけど、とても楽なんだから。


 生活必需品というのは、石鹸とか?歯ブラシとか、そういうもの。歯磨き粉が欲しい。至急。でも、そこまで気にならなくなってきた自分もいる。このままでいいのだろうか。


 「これだけ、でいいのですか?」


 グレースさんが不安そうに私とノエルに聞いてくる。


 「はい。これで全部です。荷物が嵩張ってしまってすみません。ノートとか本がたくさんあったと思うのですが。」

 「助かりました。ありがとうございました。本まで棚に入れてくださって。」


 ホント、ノートと本が多くてすみません。これは必需品なのです。


 「いえ、むしろ、少ない方で驚いています。こんなに早く荷解きが終わってしまったのは初めてで。服の管理方法などについて詳しく指示される方もいらっしゃいますし、そもそも荷物がここまで少ない方も珍しいですから。」


 そうか、少なかったのか。

 まぁ、他人と比べても仕方がないけれど。


 「旦那さまにはお二人の採寸をするようにと言われていますが、もう始めますか?」


 私とノエルは顔を見合わせて、すぐに始めてもらうことにした。


 「お願いします。」


 私とノエルは別室で、私は侍女さんたちに、ノエルは侍従さんたちに採寸してもらうことになる。


 私は採寸してもらいながら、こんなガキにまでちゃんと丁寧な対応をする人たち凄いなーって考えていた。

 人に色々としてもらうのはちょっと気恥ずかしいけど、我慢我慢。

 制服採寸の時も大雑把に測ってもらったけど、ここまでちゃんとやっていなかった。


 というか、メジャーとかってどうなってるのかな?

 私とノエルで一生懸命モノサシ作ったんだけど。


 そんなことを思っていたら、侍女さんたちは紙かリボンかというものを巻き付けて、印をつけてそこで切った。

 なるほど、数が分からなくてもそれを使えばわかるということか。なるほど。


 私からすれば、そのリボンがもったいないんだけど。


 採寸が終わったところで、部屋の扉がノックされた。


 「セシル。」

 「姉さん。」


 レオンさんとノエルの二人が入ってきた。


 「採寸が終わったと聞いたが、随分と早かったみたいだな。」

 「僕も姉さんより早く終わっていたよ。」


 二人は私の部屋に入ってきて、歓談するスペースに並んで座った。

 侍女さん、レーヌさんがお茶を用意してくれた。


 熱いお茶を飲むのも慣れないと。


 因みに領地ではペットボトルじゃないけど、水筒のようなものに飲み物を入れて対応していた。わざわざ水を飲むために誰かを呼んで読書を途切れさせたくないし、何より仕事中は図書室に人を入れなかったし。テスト問題を見たら不公平だからという理由だ。


 「これから、セシリアさまのドレス、ノエルさまの正装についてご説明しますね。」


 グレースさんが言った。

 そうか、どんな服にするのかを決めなくちゃならないのか。


 マックスさんとダミアンさんが沢山の資料を抱えて部屋に運んできた。


 「グレース、長くなるだろうから座れ。こちらが落ち着かん。」

 

 レオンさんがグレースさんに座るように命じると、一言断りを入れてから座った。


 「こちらが見本となる生地です。色も合わせて見ていただけたらと思います。こちらがデザインです。オーダーなので細かい調整も柔軟に対応できると思いますが、何か希望はありますか。」


 グレースさんの説明も資料も細やかで、デザイン画は沢山ある。


 「僕は特に。おまかせでいいです。」

 「私は……首まで隠れて、装飾がシンプルなものがいいです。それ以外は特に。」


 ちょっと、わがまますぎたかな。

 ノエルは本当にどうでもよさそう。


 「わかりました。では、セシリアさまはこちらのデザイン、ノエルさまはこちらのデザインを基としてはどうでしょう。セシリアさまのデザインは装飾が沢山ありますが、そういう部分はオーダーのときに調整できますので、形としてはどうでしょうか。」


 ノエルのデザインは現代のスーツに近しいと思う。相違点があるとするなら、短パンであること、ネクタイではなく蝶ネクタイであること、シャツがスタンドカラーであること。特筆すべきはスリーピースであることだろうか。細かいところとか見ていくと違うんだろうけど、そこまでちゃんと見たことない。


 私のデザインは装飾がゴテゴテしているが、首までしっかり襟があって、形としては、Aラインという奴だろうか。あんまり詳しくはないけれど。思ったよりも、嵩張らないところに好感を抱く。袖も長袖で、裾も足首まである。


 「足首までのズボンはありますか。それ以外はこれでいいです。」


 ノエルは長ズボンを御所望のようだ。


 「それは可能だと思います。レオンさまもかなり早い段階で長ズボンに切り替えていらっしゃいましたし、型が大きく変わるわけではありませんからね。」


 そうなのね。


 「私も、形としてはこれでいいと思います。」


 「わかりました。あとは色、生地、装飾ですね。合わせて付けるアクセサリーなども含めてご検討ください。」


 さて、色だけど、黒、茶、灰あたりで抑えていきたいところではある。白も入れていいかもしれない。でも、ドレスとするならばあまり合わない色かもしれないな。紺くらいで我慢しておくか?


 「ネリーを呼んでおいてくれ。基本的にはこちらの希望で進めるが、意見は聞きたい。」


 レオンさんはネリーさんを呼ぶようグレースさんに言った。


 「ノエル、希望は?」


 「特に。シンプルに纏めてもらえれば。」


 「分かった。全般的にネリーに任せよう。ネリーはそういう系統の固有能力を持っている。で、セシルは?」


 そうか、ネリーさんを呼んだのはそういうことだったのね。


 固有能力というのも最近は怪しい気がしているんだよな。

 全体的に計測機能を何かの知識と無意識的に結びつけているような。

 例えば、色相環やそれに準ずる知識が本能的に刻み込まれて、それと瞬間的に照らし合わせて合う合わないを決めているのではないかな。そうすると、実際には色相環を覚えたことに等しい。おそらく目も良くなっているのだろうけど。


 「…セシル?」


 「あ、すみません。私は黒、茶色、灰色あたりでできるなら。妥協して紺色ってところですかね。勿論、アクセントで他の色を入れるのはありだと思いますけど。」


 流石にわがまますぎただろうか。


 「アクセサリーの希望とかはないのか?」


 「特に。自分が付けていて邪魔、というか違和感を感じなければ。」


 地味であれば特に言う事なし。というやつです。

 前世の私は黒いオーバーサイズのフード付きパーカーにスキニージーンズを履いていた。

 ショートヘアも相まって、なかなか纏まっていたと自負しているが。


 「……こちらに任せてもらっていいだろうか。できるだけシンプルに纏めるから。」


 あ、流石に色が暗すぎたみたい。

 ドレスとの相性は悪そうだよね。


 「わかりました。お願いします。」


 そんな会話をしているうちにネリーさんがやってきた。


 「んー、ノエルさまはですね…、これらの組み合わせが合うと思います。それと、蝶ネクタイよりも、クロスタイの方が合うと思います。いくつか組み合わせを提案させていただきますね。それらから気に入ったものを選んでもらえれば。あとは、クロスタイにする場合、タイを止めるピンについても考えてみてくださいね。」


 ノエルをじっと見て、テキパキと提案していく。


 聞いたことがある話だと、肌にはイエローベースとブルーベースというのがあって、それによって似合う色が異なるんだと。それも直感的に分かってやっているのだろうか。だとしたら、すごい固有能力だな。


 「セシリアさまはどうなさいますか。」


 「…ノエル同様、シンプルに纏めて欲しいそうだ。色も暗いものを選びがちだ。が、色に関しては組み合わせを沢山出して欲しい。デザインはシンプルに纏めるが、色に関しては気にしない。ついでに、俺の色の入れ方も考えてくれると嬉しい。」


 おー。


 「かしこまりました。」


 なんか、色々話している。

 内容はサッパリ分からないのだけれど。


 「こちらを使うのでしたら、これを使った方がよろしいのでは?」


 「そうだな。ここにもこの色を入れられるだろうか。」


 うん、もう、任せるよ。


 レオンさんとネリーさん私以上に真剣にドレスを考えてくれる。


 そして完成したのが、青色が多めのドレス。縁とアクセサリー?には黄色があしらわれている。あとは、白などが使われて、纏まっている。うん、いいんじゃなかろうか?


 私は茶髪だから、どんな色でも変なことにはならないだろう。例えば、髪が緑とか青の人が赤と黄色の服を着たら大変なことになる。もはや、信号機だ。


 因みに、ノエルは青っぽい黒髪、レオンさんは金髪である。


 瞳の色は髪の色に準じる人が多いと思っていたけれど、レオンさんは青色の目で驚いた。私とノエルは髪と似たような色をしているが。


 「僕はこれにします。」


 ノエルも決まったようだ。

 クロスタイは赤で他は濃紺のジャケットと灰色のベスト、クロスタイを止めるピンは深緑かな?


 「わかりました。セシリアさまも宜しいですか。」


 「はい、それでお願いします。」


 ふぅ。

 やっと終わったよ。

 私は何もしていないに等しいけれど。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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