アズナヴール公爵夫人と公爵令嬢
レオンさんに連れられてたどり着いた部屋がとっても豪華!!
かといって、嫌味な感じではなく、シンプルなのに気品が漂うみたいな部屋。
どこが豪華かというと、トイレと風呂がついているところ。ホテルの一室みたい。
客なんだし、トイレや風呂なんて共用でいいでしょ、とならないのがすごい。
「隣が俺の部屋だから。好きに使っていいよ。中から出入りできる扉は鍵を閉めてあるから安心して。もし、心配なら棚を動かして扉の前にでも置いておくといいよ。ノエルに頼めば可能だろうから。」
いや、ダメでしょ。
扉の前にもの置いたら、いざという時逃げられないじゃん。
特に、地震とかのときにさ、転生してから一度も地震を経験してないけど。マンションとかの蹴破り戸前には絶対にモノを置いてはいけないんだ。逃げられないからね。そういう意味でよくないと思う。
「置きませんよ。因みに、逆側の部屋への非常口はないんですか?」
「?非常口ってどういうことかな?」
レオンさんが不思議そうに聞いてくる。
非常口という言葉が存在しないのかな。
「非常事態に逃げる通路でしょう?もし、火元がレオンさんの部屋の方向なら、そちらに逃げるのは悪手でしょう。」
レオンさんが頭を抱えた。どうしたんだろう。偏頭痛?
「違うよ、セシル。これは非常口ではないよ。そして、ノエル。君は笑わないでくれるかな?」
「いや、すみません。レオンさんが...だって、その...。姉さん、やっぱり物置いた方がいいと思うよ。」
ノエルが爆笑している、いや、笑いを堪えようとしながら笑っている?
「なんで?」
「その、多分だけど、姉さんが使う部屋はレオンさんの妻が使う用の部屋だと思う。だから、夫婦の営みのために繋がってるんじゃないかな?で、まだそれは早いから、塞いでおくべきじゃないかってこと。」
あぁ。そういうことか。
ノエル2歳なのに、よく知っているね。あぁ、そうか、佐助さん仕込みか。随分前だけれど、風俗に疑問を持った際に、佐助が教えるって言ってたからな。
私が教えるよりも、確かな知識に違いないと信じよう。
前世でも経験ないし、噂程度だし。何より、彼氏とかいたことないし。
「でも、だったら尚更、必要ないでしょう。私を襲うほどレオンさんは飢えてはいないでしょうし。何より、鍵なんて執事か誰かがスペアを持っているでしょうから、そこを塞いだって入ってくる気ならは入ってこられますよ。」
うん。4歳が言うことじゃないな。
「なんか、4歳だからそういうことなんて知らないとか、そういうのじゃない気がする。だって、言葉の端々から伝わってくる。俺なんて...。」
レオンさんが急激にネガティブになった。どうしたの?
「ノエル、笑うな。」
「すみません。ホントすみません。」
ノエルはレオンさんがいるとよく笑うよな。
なんか、ちょっと嫉妬する。
「で、ノエルの部屋が向かいだね。客室に設え直したから。セシルから離れすぎるのもよくないと思って。」
「ありがとうございます。」
「こちらの都合もあるんだ、感謝されることじゃない。」
ノエルの部屋も似たような風に整えられていた。が、非常口改夫婦の扉?は存在しなかった。
「なら、俺の部屋のちょっとしたスペースで少し休もうか。セシルがぐったりしていた経緯も聞きたいし。」
レオンさんの部屋に招待された。
今世で弟以外の部屋入るの初めてだ。
レオンさんの部屋はシンプルで、何というか、子供っぽくないよね。
ノエルの部屋もだけど、貴族の部屋ってこうなるのかな。
「で、どうしてあんなにぐったりしていたの?」
バレてたんか。
「よく分かりましたね...。お恥ずかしながら、慣れないことに頭を使いすぎてしまって。」
恥ずかしいわ。
ちゃんと取り繕えてたと思ったのに。
「可愛い...ふふっ、馬車から出てきたときに分かったよ。ところで、慣れないことって?」
うげぇ。
そんな最初から。
これは何とかせねばな。
さて、どうやって質問に答えるか...と思ったら袖から瑞稀が出てきて、人型に戻った。
「我が説明した方がはやかろうて。我がドワーフが話していた言語を教えていたのじゃ。慣れない言葉で延々と会話を続けたから疲れたのじゃろう。全く、情けない奴よ。」
「ごもっともです。」
瑞稀が全部説明してくれた。
「貴方は、白蛇の...お久しぶりです。」
「久しぶりじゃな。レオン。」
意外と誰とでもフランクに馴染むよな。
「佐助と楓もそこら辺にいるのじゃろう?驚くことではないわ。」
いや、驚くでしょ。
普通に侵入されてるじゃん。
「瑞稀、話がややこしくなるから、私の腕にでも巻きついていてくれないかな?」
「む。ならば良いぞ。セシルが誰かから害を加えられそうになれば我か、そこらのが助けるから安心して良いぞ。とはいえ、悪口程度ならば手は出せないが。」
「安全を確保してくださるだけで助かります。」
「うむ。」
瑞稀は無事、私の腕に巻きついて落ち着いてくれた。
全く話が進まないよ。
「ということで、最近は自分の勉強にもかなり時間を使えるようになっていたのです。」
私は総括してレオンさんに伝えた。
「それはよかった。今回の王都滞在では魔法を練習するし、その上、いくつかの集まりには参加するだろうから。あ、勿論、それに伴って授業に関する雑務は俺に投げて構わないから。確かに、俺ではできないことはあるだろうけど、手間がかかる雑務に関しては速度がとても上がったんだ。」
レオンさんは笑顔で言う。
でもさ、考えてもみなよ。身分も上、年齢も上の人に仕事、それも雑務を投げられるでしょうか、答えは否。
「助かります。遠慮なく頼みますね。」
「あぁ。ノエルが仕事の進捗などは管理しているのだったな。よろしく頼む。これでも俺が授業の施策は全て責任を持っていたから、仕事をこなすのが速くなった。」
いや、子どもにやらせることじゃないでしょ?
責任者?みたいなことで手紙が送られてきてたけど、マジで全部やってたの?なんか、ヤバくない?
私だって、面倒な交渉とかは全部放り投げたもん。教科書と授業とテストくらいしかやってないよ。
というか、スルーしてたけど、ノエルは遠慮がなさすぎるでしょ。
「それは役に立ちそうです。」
ノエルも笑顔で、便利そうみたいな目をしないの。
「あの、手伝って頂けるのは大変ありがたいのですが。その、社交関係は、マナーとかが心配で。」
「なんてことはない。マナーくらい、こちらで教えるさ。俺が教えてもいいし、何より、子どもの集まりだ。そこまで気にはされんだろう。」
レオンさんはそんなことを言うけれど、無理でしょ。いや、子どもだって貴族。レオンさんみたいな人だらけなんでしょ?
「全くといっていいほど触れてこなかった領域なのですが。」
「大丈夫。ダンスが重要になってくるのはもう少し年齢を重ねてからだから、今年はやらなくていいよ。それに、二人を連れて行くのはほんの一部だけだ。心配はいらない。何より、授業の際の話し方は好評なんだ。大丈夫。」
楽観的にも程があると思いますよ、レオンさん?
「いくら何でも、流石に楽観視しすぎだと思いますが。僕としては基本的なマナーを知れるなら、いい機会だと思います。」
え?
ノエル?
マナーは大事だけどさ、積極的に突撃するところではないではないか。
「それはよかった。」
いや、よくない!!
よくないと声を大にして言いたいが、マナーの重要性を分かっているだけに、言えない。言えないよ。
「さて、この後、俺の姉と母に紹介するのだが、お前たちは服を変えたりするのか?」
私とノエルは顔を見合わせた。
「その発想はなかったみたいだな。問題ない。ただ、着替えを必要とする人もいるから聞いただけだ。十分素敵だから問題ないよ。」
この服じゃまずいかな。
でも、レオンさん問題ないって言っているし。
「では行こうか。姉上と母上が待ってる。」
レオンさんに差し出された手を取りながら、ノエルに手を差し出す。
「だから、姉さん、それっ...いや、だってさ...。」
ノエルはなんか言っているけど、反抗期かな?というか、姉離れする時期なのかな?
「姉さん、たぶん見当違いだから、その発想はやめてね?」
先回りされた!!
まぁ、いつものノエルだね。
「いい?二人とも行くよ?」
あ、レオンさんに声をかけられた。
三人手を繋いで連なった状態で廊下を歩いた。
……歩きにくい。
そして、たどり着いた場所には大きな扉が。
「ここは食堂なんだ。食事をしながら話をしよう。」
レオンさんがそう解説すると、私と手を繋いでいない方の手で扉をノックした。
「レオンです。二人を連れてきました。」
レオンさんが扉を開けると中には公爵さまと見目麗しい女性が二人。
やっぱ、目の保養だよ。
レオンさんが目線で挨拶するように言っている、と思う。
「はじめまして。公爵家の皆さま。セシリア・フォン・エマールです。この度は招待ありがとうございます。」
「同じくエマール伯爵家のノエル・フォン・エマールです。姉共々、よろしくお願いいたします。」
二人同時に頭を下げた。
「二人とも、頭をあげてほしい。」
公爵さまから声がかかって私たちはゆっくりと顔を上げた。
「紹介する。私の妻のロザリー・フォン・アズナヴールと娘のイザベル・フォン・アズナヴールだ。」
お二方はにこやかに微笑んで会釈なさった。
その絵になること!!
身に染み付いた礼儀は美しくて、惚れ惚れしてしまう。
「よろしくね。私のことは義母と呼んでいいのよ。」
公爵夫人は可愛らしい人に見えた。
コロコロと笑いながら笑顔で手を振ってくれる。
「よろしく......って、目の前で見て実感したけれど、レオンが同じ年齢だったときの何倍にも大人だわ。」
公爵令嬢は目を見開いて驚いていた。
隣にいる公爵夫人の服をくいくいと引っ張りながら必死に訴えている様子が仲睦まじいようでほのぼのとする。
「詳しい話はゆっくりとしよう。まずは席に着こうか。」
公爵さまに促されて、私たちは席に促された。
……ふと思ったのだけれど、食事のマナーって大丈夫だったっけ?




