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棚機津女伝説ではなく牛郎織女


 「七夕の起源やいかに。紙芝居劇場。」


 七夕合同授業の企画について必要な短冊の枚数や笹の調達について検討しているときに急に楓が現れてそう言った。


 楓は紙芝居劇場と言うだけあって紙芝居を手にしていた。

 それも、ちゃんと木枠に入っている本格的なやつだ。


 「自転車から取り外してきた。」


 楓はそうなんてことないように言ったけど、私にとっては衝撃以外のなにものでもない。


 「え?自転車あるの?」


 「あるよ。」


 楓の"あるよ"の言い方に既視感を覚えて遠い目をしたくなる。

 なんか、検事のドラマで出てくる行きつけのBARの人がその一言を毎回言っていたような。


 「テメェ、乗れんのか?」


 「身長が心配材料ではあるけど、まぁ、乗れるよ?やり方は分かるし、多少大きくても乗れる。」


 佐助はそうやって心配するけど、日本人だぞ?大多数の人が自転車に乗れると思うのだけれど。


 「皆の者、静まれいっ!!」


 あれ?楓の口調、変だな?


 「さあさあ、お立ちあい、御用とお急ぎでなかったら、ゆっくり聞いておいで。」


 ガマの油売り?


 「今回のお話は『牛郎織女』。あの七夕の起源だっていうから、驚きだ。」


 「ちょっと待って。ね、ナニコレ。姉さんも佐助さんも瑞稀さんも聞く気満々だけど、理解できていない僕が異常なの?なんか、口調も変だし、なんで皆んなは普通に受け入れちゃっているの?」


 「ノエル、テメェ、だってもなにも、そういうもんだろ?」


 ノエルの正論?は佐助に当然の如く退けられた。


 「要は、これを授業でやらぬか、というデモンストレーションじゃろ?楓からの提案じゃ。楓の理屈は正しい。なぜ、行事を行うのか理解せねば授業として成り立たんだろうからな。」


 「デモンストレーションというのが分かりませんが、これを授業で?」


 「ノエル、読み聞かせの延長にあるようなものだよ。そうだね、他も巻き込んで劇みたいにしたらいい。紙芝居の良さも欲しいから、その横で、セリフ読み上げる人がコスプレする見たいなイメージだけど。そうだ、主演を目立つ人にやって貰えば面白いと思うよ。」


 「コスプレ、ですか。また、よく分からない言葉が。だけど、わかってきた。要は、父さんと母さんに主役をやって貰えばいいんだ。」


 ノエルはこの会話で一番ヤバそうな結論に辿り着いた。


 「楓さん、遮ってすみません。続きお願いします。」


 だが、誰も止める気はなかった。


 そして、楓の紙芝居が継続される。


 「さて今日は『牛郎織女』について語ろうじゃないか。っと思ったが、困った。『牛郎織女』を忘れちまった。だから今日は『織姫と彦星』という話をしよう。七夕のお話だ。」


 「これはなぁ、お決まりなんだ。必ず織姫と彦星の話なんだが、何故かかならず忘れたっつーフリが入るんだが、真相はわかっちゃいねぇ。」


 こそっと佐助が言った。

 へーよく分からない風習だけれど、何らかの意味があるんだろうな。


 「むかーし、むかし。夜空に輝く天の川の側に、天の神様とその娘、織姫が暮らしておりました。織姫はいつも機を織って神様たちの服をつくっておりました。いつも頑張っている織姫をみて天の神様は、年頃となる織姫にお婿さんを探すことにしました。」


 うん、そんな感じの話だったね。

 絵も味わいがあって好きだな、なんか、日本って感じがする。


 「天の神様は織姫の婿に天の川の向こう岸で牛の世話をしている彦星というものを選びました。彦星は毎日牛の世話をしている立派な青年だと気に入り、織姫の婿に迎えました。」


 うん、日本の昔話って雰囲気が伝わってくる、やわらかい絵だ。


 「二人はたちまち相思相愛となりました。」


 周りにある薔薇が雰囲気を壊している気がするけど、まぁ、そんな感じだよな。

 なんか、この場面だけ何枚も絵があるんだけど。


 トクン…とか描かれているし、紙芝居を逸脱していないか?


 少女漫画的絵になってキ、キスをしたっ!!

 で、その後所謂お姫様抱っこをして…なにこれ。何を見せられているの?


 「ところが、二人は結婚をしてから遊んでばかりで、仕事をせずに怠けるようになりました。織姫が新しい服を作らない為神様たちの服はボロボロになり、彦星が世話をせずに放置された牛は病気となりました。」


 お、よかった。

 絵柄が戻ったよ。

 困っている神様たちの絵。


 「それらを見て聞いた天の神様はすっかり怒ってしまい、二人は天の川を隔てて離れ離れで暮らすことになってしまいました。」


 怒った天の神様の絵が見事なこと。

 迫力満点です。

 でも、画風が違う。


 「二人は悲しくて仕方がありませんでした。彼らは悲しさのあまり、涙を流しながら仕事をするので、全く仕事になりませんでした。」


 離れ離れにされた二人の絵がガラスでできた仮面みたいな漫画の絵になっている。

 ロミオ、なぜあなたはロミオなの。


 「困った天の神様は二人が一生懸命働くのなら、一年に一度、7月7日の夜だけ二人が会うことを許しました。それから織姫と彦星はそれぞれ一生懸命に仕事をしました。」


 最初の画風に戻った。

 うん、一生懸命に仕事をしている。


 「そして、7月7日の夜、カササギが天の川に橋をかけ、織姫はその橋を渡って彦星に会いに行きます。これが七夕の始まりなのです。」


 再会した二人の絵は見事なのだが、見事に少女漫画だ。

 何度もいうが、画風が違うんだ。


 瑞稀と佐助は拍手をしている。

 それを見たノエルも拍手をしているが、これは拍手をしていいのだろうか。


 画風が暴走していて正直、中身が全然入ってこない。


 「何度聞いてもいいものじゃな。」


 瑞稀、本当にいいものだろうか。


 「ノエル、お前はどうじゃ?分からない部分はあったか?」


 「不思議な服を着ているということと、空に川があるというのが不思議でした。あとは、機を織るというのがよく分かりませんでした。」


 瑞稀がノエルに不明な点を聞いて、ノエルがそれに答えている。

 授業で扱うのなら大事な点だが、そこじゃないんだよ。


 「そうか。人間どもは固有能力に頼って布を得ていたな。当然、機織りなど知らぬわけか。よいかノエル、機織りとは布をつくる作業じゃ。で、それ以外の部分は想像で補うが良い。」


 適当だな。

 で、服の部分はやっぱりコスプレってことで。


 「セシル、テメェは何が不満なんだ?」


 「不満なんてありませんよ。うろ覚えですけど、こんな感じの話でした。そうじゃないんです。その、あの紙芝居、変じゃありませんか。」


 「どこが?」


 「画風。画風が暴走している。」


 「よく分からねぇが、最初からこんなもんだったぞ。」


 前の転生者が日本人で時代劇とかそういう方面に精通しているのは分かったけど、どうしてこんな破茶滅茶なことになっているの?なんで昔話の画風がこんなことに?


 「もう、いいです。」


 諦めよう。

 考えた方が馬鹿を見る。


 「で、どーすんだ?」


 「脚本をうまく書き換えて誰かに演じてもらいます。演者には登場人物と似たような服を用意しましょう。簡易的にで構いません。地の文を読むナレーター、天の神様、織姫、彦星、困った神様役でいいですかね。これを授業の冒頭で取り上げ、理解してもらった上で、笹の葉への飾り付けを行いましょう。笹の葉を調達し、短冊を用意。できれば、折り紙も扱いたいのですが、生憎私は得意でないので、誰かに知識を頂きたい。」


 「折り紙なら、佐助が得意。」


 「分かりました。そうですね…私かノエルに知りうる限りを教えてください。で、話の方は脚本を書いてから、あとはここに居ない人たちに任せましょう。脚本は、ノエルでいい?あなたが書くのが一番皆にとって分かりやすいだろうから。」


 「分かった。」


 「で、折り紙はテメェがやんのか?」


 「はい。これでも折り鶴程度は作れますので。」


 「なら話ははえぇ。」


 「後の調達はなんとかしましょう。」


 「僕がやるよ。脚本さえ書いてしまえば、暇なんでしょ?脚本はおそらく台詞とかを書き連ねたものだろうから、授業ノートみたいに書けばいいし、問題ない。」


 「ありがとう。でも、授業のと違って台詞は一字一句ちゃんと書いてね。」


 「了解。」


 やることは決まった。

 あとは全力を尽くすのみ。

日本

七夕は日本に入ってきた当初、貴族の文化であった。


日本の「たなばた」は、元来、中国での行事であった七夕が奈良時代に伝わり、元からあった日本の棚機津女たなばたつめの伝説と合わさって生まれた。


「たなばた」の語源は『古事記』でアメノワカヒコが死にアヂスキタカヒコネが来た折に詠まれた歌にある「淤登多那婆多」(弟棚機)又は『日本書紀』葦原中国平定の1書第1にある「乙登多奈婆多」また、お盆の精霊棚とその幡から棚幡という。また、『萬葉集』卷10春雜歌2080(「織女之 今夜相奈婆 如常 明日乎阻而 年者将長」)たなばたの今夜あひなばつねのごと明日をへだてて年は長けむ など七夕に纏わる歌が存在する。


そのほか、牽牛織女の二星がそれぞれ耕作および蚕織をつかさどるため、それらにちなんだ種物たなつもの機物はたつものという語が「たなばた」の由来とする江戸期の文献もある[4]。


日本では、雑令によって7月7日が節日と定められ、相撲御覧(相撲節会[5])、七夕の詩賦、乞巧奠などが奈良時代以来行われていた[6]。その後、平城天皇が7月7日に亡くなると、826年(天長3年)相撲御覧が別の日に移され[7]、行事は分化して星合と乞巧奠が盛んになった[6]。


乞巧奠(きこうでん、きっこうでん、きっこうてん[8]、きぎょうでん)は乞巧祭会きっこうさいえまたは単に乞巧とも言い[9]、7月7日の夜、織女に対して手芸上達を願う祭である。古くは『荊楚歳時記』に見え、唐の玄宗のときは盛んに行われた。この行事が日本に伝わり、宮中や貴族の家で行われた。宮中では、清涼殿の東の庭に敷いたむしろの上に机を4脚並べて果物などを供え、ヒサギの葉1枚に金銀の針をそれぞれ7本刺して、五色の糸をより合わせたもので針のあなを貫いた。一晩中香をたき灯明を捧げて、天皇は庭の倚子に出御して牽牛と織女が合うことを祈った。また『平家物語』によれば、貴族の邸では願い事をカジの葉に書いた[10]。二星会合(織女と牽牛が合うこと)や詩歌・裁縫・染織などの技芸上達が願われた。江戸時代には手習い事の願掛けとして一般庶民にも広がった。なお、日本において機織りは、当時もそれまでも、成人女性が当然身につけておくべき技能であった訳ではない。


明治6年(1873年)1月4日、太政官布告第一号で神武天皇即位日と天長節の両日が祝日として定められると共に、徳川幕府が定めた七夕を含む「五節句」の式日が、次の通り廃止された[11]。


wikipedia


たなばた‐つ‐め【棚機津女・織女】

〘名〙 (中世は「たなばたづめ」とも、「つ」は助詞で「たなばたの女」の意) (はた)を織る婦人。特に、牽牛(ひこぼし)に対応する星で、初秋の頃、天の川のほとりに見える琴座の主星織女(しょくじょ)をいう。はたおりひめ。おりひめ。たなばた。

※万葉(8C後)一〇・二〇二九「天の河かぢの音聞ゆ孫星(ひこほし)織女(たなばたつめ)今夕(こよひ)逢ふらしも」

[語誌]→「たなばた(棚機)」の語誌

出典 精選版 日本国語大辞典


【牽牛・織女】より

…この2神は,後には七夕たなばたの行事と結びついた恋愛譚の主人公となる。牽牛星と織女星とが並んで歌われる例はすでに《詩経》小雅・大東篇にみえるが,その背後にいかなる伝承があったのかはうかがいがたい。漢代の〈古詩十九首〉にも牽牛星と織女とが歌われ,当時すでに両者の間に恋愛と離別の物語があったことが知られる。…

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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