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タイプライターと英語レッスン

 私も勉強をしないわけにはいかない。

 ドワーフの方に手紙で、英文で書かれた書籍と数学に関する書籍を頼んだ。

 あの街ならば、おそらくは、私が学び損ねた数学を知れると思ったから。


 送られてきた本を元に、数学と英語を学び直し始めた。

 民に、人に勉強を勧めておきながら、自らが勉強をしないのは、やはりおかしいと思ったのだ。

 数学を、ときに物理を、ときに英語を。

 分からない単語にぶつかれば、手紙にしたためて質問をした。

 しばらくして、辞書が届いた。

 英語とこの国の言葉の辞書だ。


 私の高校生時代のカリキュラムとは当然異なるから、習ったことあるものも含めて、平方根に虚数、三角関数と、一つずつ勉強していった。目標は微分積分まで理解できるところ。


 英語はなかなかスラスラと読めないが、一つずつ読んでいけば、so that や仮定法が見つかる。


 そして、しばらくして届いたのがタイプライターである。

 なんということでしょう、アルファベットの並びが前世のパソコンと同じ。

 タイピングが好きだった私としては願ってもいない!!


 間違っても消せないところとか、押すために必要な力が大きいところは欠点だけれど、私からしたら、またもう一度タイピングができるだけで、意外と嬉しい。とはいえ、ローマ字打ちが一番速度が速くてストレス発散になるのだけれど、そこら辺は流石に我慢する。


 現在、私が書いた発電機?みたいなものをもとに電動のタイプライターを作成中らしい。

 是非とも成功させて、私に売って欲しい。対価なら支払うから。


 「ぬ?セシルは英語を扱えると聞いていたが。」


 瑞稀が覗き込みながら話しかけてきた。


 「勉強しているところです。少しは話せますが、本当に最低限で、会話をしようとしたり、本を読むなら不足だと思いますよ。」


 何故か敬語で返す。


 「 I see. Can I help you? I can speak English well. Using English is best way to master English. (そうか。我が手伝おうか?我は英語も話せる。英語を使うことは英語を習得する一番の近道だ。) 」


 「 I want you to teach me English. (私はあなたに英語を教えて欲しい。) 」


 「 Of course. (もちろんじゃ。)」


 瑞稀が英語を話せるなら早く教えてほしかったよね。

 だってさ、これまで分からない単語手紙で聞いていたんだよ?

 超大変だったじゃん?


 「 By the way, will you teach English in your classes? (ところで、お主は授業で英語を教えるつもりか?)」


 「 No, I won't teach English. It's very difficult and most of people think that there is only one language in the world. In the first place, I can't teach English. (いや、私は英語を教えるつもりはないよ。難しいし、ほとんどの人は世界にたった一つの言語しかないと思っているんだ。そもそも、私が英語を教えることなんてできないよ。)」


 「 I got it. (わかった。)」


 瑞稀に納得してもらったところで、英語での雑談を続けていく。

 私は英語を学びながら、英語で書かれた本を使って、数学を勉強する。


 「姉さん?ずっと、それ喋ってるの?僕じゃ何を言っているのか分からないけど、なんのために?」


 ノエルが戦々恐々としながら尋ねてくるが、そんなに怖がることじゃないと思うんだよね。


 「私も勉強しているんだよ。瑞稀を先生としてね。皆に勉強しろと言っておきながら、自らが何も勉強しないってあり得ないし、私も教えるストックがなくなってきてしまうから。」


 「いや、それだけ仕事してたら勉強なんてやってられないでしょう、物理的に。」


 「それでもやるんだよ。」


 「それはいいけど、そのよく分からない言葉?で話す必要はなくない?」


 「この言葉を勉強しているの。話せるように。ノエルも会ったと思うけど、ドワーフの方から本を送ってもらっていてね、その本がこの言語で書かれているから、それを勉強するには話すしかないの。」


 「そうなの?というか、だったら僕にも教えてよ。」


 ん?

 まさか、ノエルから教えてと言われるとは。


 「良いではないか。どうせ、亜人のことも知っているのだ。それに、いつか、それらの本の翻訳に追われて倒れるのは目に見えているぞ。尤も、レベルが違いすぎるから、セシルと一緒にという訳にはいかないがな。」


 「ありがとうございます!!」


 え、ねぇ、瑞稀とノエルで話を終えてしまわないでよ。


 「うーん......でも、確かに、翻訳に追われる可能性を否定できない。」


 「そうであろう?なに、我が教えるからセシルの仕事は増えんよ。」


 まぁ、確かにそれはありがたいけれど。


 「ノエルは大丈夫なの?ただでさえ、たくさん仕事任せてしまっているのに、普段の勉強に加えて、佐助から算盤まで習っているみたいだし。体壊さない?」


 「大丈夫。それを言うなら、姉さんの方がたくさん仕事しているし、それを支えるためにはもっと勉強しなくてはいけないんだ。」


 ノエルが凄い。全米が泣いた、姉思いの弟に。


 「ありがとう。そう、思ってくれるだけで、嬉しいよ。でも、ノエルはまだ2歳なんだ。もうすぐ3歳だと思うけど、3歳ってそんなに忙しくない年齢だと思うんだ。そうでなくとも、未成熟な体に違いはないんだから、もっと体を大事にして。」


 後ろで「セシル、お主も4歳じゃろう?」と呆れたような声が聞こえたが、無視無視。私は4+17歳なんだ。


 「思うだけじゃ、なんの助けにもならないんだよ。姉さんが苦しんでいるところをそのまま見続けていろと?姉さんはこれからもたくさん仕事を抱え込む。そんなときに誰一人助けられない状況でいいはずがない。僕はそんな時に指を咥えているだけなんて、我慢ならないんだから。」


 お、おう。

 最近、スルーしてたけど、あまりに大人びている。語彙力とか、色々。


 「セシル、もういいだろう。我が教えるから問題ないし、なんなら、数学だって我が教える。身体を労るのはお主のほうじゃ。」


 あ、そうだね。瑞稀......ただの呑んだくれじゃなくてちゃんと神獣だったわ。


 「なら、お任せします。身体にだけは気をつけて。」


 これは、私が折れるしかない。


 「ノエル、セシルからは了承が出たぞ。だが、新たな言語を学ぶというのは大変なものだ。覚悟を決めよ。取り敢えず、セシル、英語で自己紹介をしてみろ。名前、年齢、住んでいる場所、あとは趣味でいいぞ。気を遣ってゆっくり話したりするでないぞ。」


 瑞稀に指名された。


 「わかりました。では。Hello. I'm going to introduce myself. My name is Cecilia von Aimard. Call me Cecile, please. I'm 4 years old. I live in Aimard. My hobby is reading books. That's all. Nice to meet you. (こんにちは。これから自己紹介しますね。私の名前はセシリア・フォン・エマール。セシルと呼んでください。私は4歳です。エマールに住んでいます。趣味は本を読むことです。以上です。よろしくお願いします。)」


 私は、咄嗟に思いつく範囲で自己紹介をした。


 「よいか、ノエル。これが初歩だ。これで気が引けるというなら、諦めよ。」


 瑞稀は突き放すように言った。

 対してノエルは、笑った?


 「分からないことだらけで楽しそうではありませんか。瑞稀さん、よろしくお願いします。」


 ノエルはこれを本音として言ってしまえるから恐ろしい。


 「うむ。今はセシルの時間ゆえ、お主はそこに隠れている佐助にでも相手をしてもらえ。算盤をものにするのじゃろう?」


 「はい。」


 そうノエルが答えると、満足気に瑞稀は微笑んだ。

 天井から影が落ちたと思ったら現れたのは佐助だった。


 「クッソ。みっちゃん、なんでバラしたんだ。」


 「そこに居るのなら、相手でもしたらどうだ?勉強嫌いは知っておるが、それでもやらぬわけにいかないだろう。」


 「ヘーイヘイ。」


 佐助も観念したように両手を上げて適当な返事を返した。


 「我は向上心のある者は好きなのだ。そのためならば、手を貸そう。」


 そう言って微笑んだ瑞稀を見て、長生きの面影を感じた。

 瑞稀は頼りたくなる、そんな人だ。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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