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洗礼式の仕組み

 「お嬢さまは教えることがないように思える程に優秀でいらっしゃいますが、"知識"という面ではまだ不十分なところがあるようです。今日は洗礼式についてお話ししましょう。」


 先日は書斎?図書館?に舞い上がってしまって勉強にならなかった。

 故に、今日からが本格的に勉強開始だ。

 教えてくれるセルジュが目の前に座っていて、両隣に憔悴したエマとイーヴがいる。

 結局、貴族の数を数えるという計画は成就したのだろうか。


 「いや、マジで、お嬢に教えることなんかないんじゃないか?」

 「そうねぇ。あの貴族の数をあの短時間で数えるお嬢さまは天才としか思えません!!」


 「教えること?山程あるんじゃないの??」

 「お嬢、そもそも勉強することなんて少ないんだよ。」

 「え?」

 ......??

 「ウキウキしてるとこ悪いが、俺らはそこらの貴族と同じ勉強をしてる。違うところといえば、マナー・芸術講座と魔法の練習がなかったことくらいだ。あとは、エマールじゃやらないが、どうやったら意中の相手を口説けるか、とかだな。政略結婚が大事って貴族は多いらしいと聞く。」

 ......!?

 「そうですよ。机に座った勉強は文字を書くこと、洗礼式を知ること、日付や時間を知ること、貴族の名前を覚えることくらいです。王族やそれに近しい貴族は隣国のことや、貴族から献上されるものを覚えるとかがあるらしいけど、隣国とは良い関係だし、あとは魔物が出てくる人が住めない土地が隣にあるくらいだから、それほど外交も頑張らなくていいみたいですよ。」

 ????

 「お嬢さまは、文字・日付・時間は習得済みです。貴族名鑑もエマールでは重視しませんので、今日洗礼式について学んだら一通りの勉強は終わりになります。勿論、ここには代々エマール伯爵家の方々が研究してきた記録がたくさんありますので自分で勉強はすることができますよ。その後は自由に勉強をして頂いて、魔法の授業を残すのみとなります。」

 ..........???

 「えぇ??嘘??やる気だったのに...」

 「ふふふ、やはり、座って本を読んで字を書くのがお好きなんですね。」

 「エマール伯爵家らしい性格です。」

 「お嬢は大成しそうだ!!」

 皆は嬉し楽しそうだが、全く楽しくない。

 魔法?の勉強とかよりも本を読んでいたい。

 というか、それしかないって世界的な知識不足では??


 まぁ、仕方がない。

 それでも、全ての知識を暗記できる訳ではない。

 まずは、目の前のことをやっていこう。

 そう、"洗礼式"についてだ。


 「まずは、私が文を読み上げますれば、聞いていてくだい。『洗礼式とは一生のうちに7歳7ヶ月7日に一度だけ行われるもので、洗礼式はその人を一人前と認める儀礼である。貴賎上下の身分なく、全ての人間が受けるものとし、それを阻害する者は女神さまからの天罰が下される。洗礼式は女神さまから固有能力を受け取る儀式でもある。全ての人がそれぞれの望みや適正に合わせた固有能力と女神さま直々のお言葉"メッセージ"が頂ける。どちらも生涯に渡って唯一つのものであるから大事にせよ。』ここまでが概要です。分からないところはありますか。」


 相変わらず、分かりにくい説明だ。

 メモをとっていて分からないことは、今のところないかな。

 7歳7ヶ月7日という執拗な7信仰は兎も角、その日をもって成人?じゃないけど一人前になるということだな。

 女神さまの天罰とやらが本当にあるのか、女神さまのお言葉ってやつをどうやって受け取るのかが気になるくらいか。

 前世より、あまり神や仏その他宗教を信じる方ではないんだよな。都合よく信仰するって感じ。クリスマスとか仏教式の葬式とか、初詣。キリシタンでも仏教徒でも神道を信じてる人でもないんだけどね。祭りは取り敢えず騒げってことだよ、多分、うん。

 これも同じ。能力がもらえるなら貰っとけ、みたいな?


 「大丈夫、続けてもらえる?」

 「わかりました。『洗礼式の流れは決まっている定型がある。専用の水晶を挟んで洗礼を受ける人とそれより一段高いところに司祭が向かい合って立つ。まずは女神さまに祈りを捧げる。その後、洗礼を受ける人は手を、司祭は専用の紙を、水晶にかざす。暫くすると、司祭の持つ専用の紙に文字が浮かび上がってくるので、そうしたら、浮かび上がってきた固有能力名を司祭が読み上げる。最後に女神さまに感謝したら洗礼式は終了となる。洗礼式は常時解放されていて、自由に見ることができる。固有能力名は読み上げるが、固有能力自体は洗礼を受けたものにしか分からないもので自分から使わない限り判明することはないが、多くの人が所有する固有能力は能力名から能力が推測されるので注意が必要。固有能力の使い方や詳細は水晶に手をかざした時に頭に浮かび上がってくるため、集中していることを推奨する。洗礼式の後、司祭が使用した専用の紙は"ミシン目"という特殊な線によって半分に分け、片方をその土地を治める領主である貴族へ、もう片方は本人が管理する。身分証明証の役割を果たすことができるのでしっかりと保管すること。本人が管理する紙には女神さまからの"メッセージ"がある。字が読めない人は司祭に頼み読み上げてもらうのが一般的だ。女神さまの"メッセージ"は己を鼓舞したり、知識を与えてくれたりする。』以上となります。どうでしょう??」


 メモをとりながらツッコミたいことはたくさんあったけれど、ひとまずは理解したと思う。

 疑問点もいくつかあるな。

 「質問だけど、司祭ってどうやって決めているのか、あとは、平民は文字の読み書きができない人がほとんどだと聞くけど、司祭は貴族なのか、が聞きたい。」

 「あぁ、お嬢の疑問も最もだな。だが、この話を聞いて、平民が文字読めないってことを思い出すのはすげぇよ。」

 「お嬢さま、司祭は固有能力"司祭"を持つ人がやると決まっていて、固有能力"司祭"を持つと文字が読めるようになるらしいですよ。だから、文字が読めない人の代わりに読み上げるためにその能力があるんじゃないかって聞いたことがあります。」

 エマが丁寧に解説してくれた。

 能力で文字が読めるようになるとは。

 摩訶不思議な異世界だな。

 私からすれば"文字が読めるようになる"ってだけの能力なら勉強すればいいからいらないけど、他にも司祭には能力があるんだろう。そう信じたいね。


 「あとは...その専用の紙というやつを見てみたいけど、流石に無理かな?」

 「俺のでよけりゃぁ、見せますよ?もう片方は、旦那さまに確認とってからなら見せられるんじゃねぇかな?」

 「私のも!!個人が持つ用ならお見せします。」

 「そうですねぇ。では私も。」


 どうやら、個人用のは見ることができるみたいだ。

 そういえば、彼らはどんな能力を持っているのか。


 「俺のはこれだ。固有能力"スタミナン"。一般的な能力だな。体力が飛躍的に伸びる能力だと推測されているな。女神さまに教えてもらった言葉を唱えると土壇場で体力が伸びる。あとは、日常的な体力が上がってると思う。これがある人とない人で結構動きが違うんだ。」

 「私のは"ドレサップ"です。化粧や服など、それぞれの人にあったものを選んで仕上げることができる能力です。年に一度の"年初めの夜会"では私が服を見繕いますよ。元貴族の侍女や貴族令嬢がよく持っていて、羨望の的と聞いてます。奥さまも旦那さまも選ぶのが面倒だし、下手なものを選んでしまうから助かると言ってくださいます。」

 「私のは"ナリッジ"です。記憶力向上という地味なものですが、お嬢さまの様子や調べたことを報告する際に役立ってます。使用人全員の動きや要望も覚えるのに苦労しないことはよかったと思っております。このように、固有能力名は多くの場合、意味がわかりにくいため、たくさんの人が持っている能力でないと、すぐに能力の内容がわかったりはしないのです。」


 わかりにくい??

 "スタミナン"ってスタミナじゃないのかな?つまり体力。

 "ドレサップ"もドレスアップをモジってるし、"ナリッジ"は確か、knowという知るという意味の動詞の名詞形knowledgeだよね?意味は知識。記憶ならメモライズとかになりそうだけど、ここら辺は分からないな。

 こちらの言葉では意味が不明。

 つまり、これは前世=地球の言葉??

 女神さま、会ったことも話したこともないけど、疑問が増えていくばかりだよ。


 閑話休題。

 見せてもらった例の紙には女神さまの"メッセージ"の下に何やら数字が並んでいる。

 その数字たちの前に何故か堂々と"#"がいる。

 # = No. という風に習った記憶がある。

 つまり、個人番号ということだ。

 こんな世界にマイナンバーだと??

 これは気づいていないのか??


 しばらくして、セルジュが戻ってきた。

 彼は紙の束を持っていて、それが件の貴族が預かる側の紙だった。

 裏には#と数字がある。

 そしてもう一つ、おそらく個人側と貴族側を合わせると真ん中に一つのマークが現れるだろうことがわかった。

 よくある、アレだ。アレ、えっと、室町あたりで紙2枚の、朱印状じゃなくて、それは江戸、勘合貿易だ。それだ。


 「これは前の年に洗礼式を受けたものの束でして、必ず年毎に分けて保存しているのですよ。」


 戸籍みたいなものか。

 マイナンバーもあることだし、7歳未満の把握と死亡者の把握ができないことが残念だけれど、かなり整っている。

 何をするかも分からないけど、情報の把握とデータ化が容易だということに感謝しないことはない。


 「これで、領民が把握できるのね。ところで、有名な能力ってどんなのがあるの?"モデリング"という固有能力を持っていた人がいたそうだけれど。あとは、先程聞いた"司祭"やイーヴの"スタミナン"にエマの"ドレサップ"、セルジュの"ナリッジ"。」

 「そうですね、私の同僚に何人かいるのが"ホットハンド"を持っている人たちです。彼女らは冷たい水に手を入れても全く問題がないそうですよ。むしろ、手が暖かいくらいだと。貴族令嬢だと"ヘアロンガー"という固有能力も人気で、髪を自在に伸ばすことができるそうで、いつでも髪型が変えられるんだそうです。」

 「他に有名なのと言いますと、"時計職人"という名前の通り時計が作れるようになるものや"エムピーアップ"という魔力が増える固有能力がございます。後者は貴族子息に人気です。」


 MPアップね。

 魔力が増えるとどんないいことがあるのかはまだ魔法を勉強したことがない私にとってみれば未知の領域。


 「貴族子息は魔力を増やしたいのね。わかんないなぁ。」


挿絵(By みてみん)

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

― 新着の感想 ―
[良い点] すごく独特で、こんな異世界転生は読んだことがありません。九藤は数字に弱いので、いまいちこの世界の数字観念についていけていない感がありますが、7を中心にした考え方はユニークで面白いです。主人…
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