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没落令嬢フランセットは、湖水地方での暮らしを知る

 国の北東部に位置する、スプリヌという湖水地方。

 そこは、季節や時間を問わず、深い霧に覆われた場所だという。


「空が青く晴れ渡る日はごく稀。一年中、ジメジメジメジメ、ジメジメジメジメしています。領地に建つ家は苔で黒ずんだ石造りの家ばかりで、町全体は信じられないくらい暗い。雨が多く、嵐もよく訪れる。そのため、外出もままならない日が続きます。交流をあまりしないからか、内向的で人見知りが多い。その上こんな場所で暮らしていけるかと叫んで都会に出ていく若者が多数。領民は年々減る一方なんです」


 ここまで、ひと息で言い切った。よく息がもつものだと、感心してしまう。


「なんと言っても、スライムが多い。領民よりもスライムが多いくらいです!! 庭にスライム、畑にスライム、窓に張り付くスライム、井戸にスライム、スライムが跳ねる音で目を覚まし、スライムの鼻歌でお昼だと気づき、スライムのいびきを聞きながら就寝する。おはようからこんにちは、おやすみまで、スライム、スライム、スライムなんですよ」


 深い霧、一年中過ごしにくい村、減っていく人口、そしてスライム……。

 ガブリエルが領するのは、年若い娘が嫁ぎたくないような土地だと言う。


「父は婿だったのですが、王都育ちで……」


 湖水地方での暮らしに耐えきれず、ガブリエルが十五歳になった誕生日に勝手に家督を継がせ、翌日には家を飛び出していったようだ。今でも、行方知れずだという。


「えーっと、お父様以外のご家族は?」

「母だけです。あと、離れた場所に大叔父や叔母など、親戚が数名住んでいます。接触はほとんどありませんが、顔を合わせた際は、非常に濃く、酷く不快な時間を過ごしています」

「そ、そう」


 なぜか、話したガブリエルが頭を抱え、落ち込んでいるような様子を見せていた。

 プルルンは可哀想に思ったのか、ガブリエルのほうへ近づき、触手を伸ばし頭を撫でて励ます。


『おちこまないでえ、いいところだよお』

「そりゃ、スライムであるあなたにとっては、天国のような土地でしょう。あそこは、人間が住むべき場所ではないのですよ」


 けれども、湖水地方の人々はその土地で生活を営んでいる。

 ガブリエルは領主なので、逃げられるわけがなかった。


「結婚相手は、貴族の娘から決めなければなりませんでした。父が数名、打診をしたようですが、会う前に断られてしまい――」

「会ったら、結婚してくれたかもしれないのに」

「は!? どうしてそう思うのですか!?」

「だってあなた、綺麗な顔をしているから」


 パールホワイトの美しい髪に、アイスグリーンの澄んだ瞳は彼の美貌を際立たせている。アクセル殿下とはまた違う方向の、美形だろう。


「私、王都の夜会に参加したことがあるんです。誰にも見向きもされませんでしたが」

「おかしいわね」


 ガブリエルほどの美貌の男を、周囲は放っておかないはずだが……。


「なんと言いますか。近寄りがたい陰気なオーラが出ていたのかもしれません。髪は白カビ色、瞳は苔の色みたいだと言われているので」

「そんなことないわよ」

「いいえ、わかっているんです。私は陰の世界で活き活きするタイプだと」


 とにかく、今日まで花嫁は候補すら見つけられなかったようだ。

 そんな中で、ガブリエルは私の弱みを握った。またとないチャンスだと思ったという。


「あなたの意思を無視して、勝手に話を進めてしまったことは、申し訳なく思っています」

「いえ、助けていただいて、感謝しているわ」


 可能であるならば、豪商であるマクシム・マイヤールは敵に回したくない。

 ただ、二十万フランはどうしても返せるとは思えなかった。

 私も、腹をくくるべきだろう。


「あの二十万フランは、あなたにさしあげ――」

「私、あなたと結婚するわ」

「え!?」

「今、何か言った?」

「いいえ、何も言っていません」

『おかね、フラに、ぜんぶあげるーっていって、もがが!』


 ガブリエルはプルルンの口を塞ぎ、満面の笑みを向けている。


「契約成立ですね!!」

「待って。ひとつ問題があるの」

「な、なんでしょうか?」


 にこにこしていたのに、秒で顔色を青くさせる。なんというか、表情が豊かな男性ひとである。


「結婚は勝手にできないの。お父様の許可がないと」

「ああ、そういえば、そうですね……」


 貴族の娘は、父親の了承なしには結婚できない決まりがあるのだ。

 途端に、ガブリエルは肩を落とす。


「父は探偵を使って探すとして、私は婚約者として、あなたの元で暮らせると思うわ」

「い、いいのですか!?」


 こっくりと頷く。ガブリエルは瞳が零れそうなくらい、目を見開いていた。


「ジメジメしていて、領民よりもスライムのほうが多いような土地なんですよ」

「平気よ、きっと」

「同じくらい、私もジメジメとした男なのですが、それでもいいと?」

「面白いじゃない、あなた」

「私が、面白い?」

「ええ。話していて、楽しいわ」

「た、楽しい……!?」


 七色のスライム達が大集合し、ガブリエルの周囲で跳ね回る。『よかったねー』と口々に祝福しているようだった。


「あの、ふつつか者ですが、スライム共々、よろしくお願いいたします」


 ガブリエルはそう言って、頭を深々と下げたのだった。

 

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