雨期の救世主!?
今日も今日とて、しとしとと雨は降る。
霧がかかったスプリヌ地方は幻想的で、まるで童話の舞台になりそうだ。
それだけだったらよかったのだが、雨期は野生のスライムがたくさん繁殖しているようで、ガブリエルは毎日のように討伐に出かけている。
ガブリエルだけでなく、領民も協力しているようだ。
私も何か協力したい。そう思って義母にアドバイスを求めたところ、できるのは男衆の帰りを待つだけだ、と言われてしまった。
家を守るのも、重要な仕事なのだろう。
ただ、それだけではソワソワして落ち着かない。
そう思った私は、プルルンに相談してみる。
「というわけで、私にできることはあるかしら?」
『うーーん、あ! ガブリエルを、だきしめたらいいかも~!』
「それは毎日しているわ」
ガブリエルだけでなく、領民達の助けになるようなことをしたいのだ。
なんて、具体的に説明すると、プルルンが提案してくれる。
『だったら、さしいれ、するのはどう?』
「それだわ!」
さすがプルルンである。差し入れであれば、家にいてもできるだろう。
さっそく、何を作ろうか考える。
「どんなものがいいのかしら?」
『甘いの! しょっぱいの! いろいろ~』
「甘いのと、しょっぱいの、ねえ」
すぐに作れて、甘いものとしょっぱいもののバリエーションが作れる料理。
しばし考え、ピンと閃く。
「蒸しまんじゅうにしてみようかしら?」
甘いものはカスタードやチョコレートクリーム、ジャムなどを入れ、しょっぱいものは挽き肉と野菜を混ぜて作った餡を入れたものを作ってみよう。
さっそく、作業に取りかかる。
「そうだわ! 食紅を使って、生地に色を付けて、ガブリエルと契約しているスライムみたいにしてみましょう」
『プルルンのもある~?』
「ええ、もちろんよ」
それぞれの色に合わせたクリームや餡を入れたら、わかりやすくていいかもしれない。
プルルンまんは桃ジャム、赤スライムまんはイチゴジャム、黄色スライムまんはカスタードクリーム、黒スライムまんは挽き肉あん、青スライムはブルーベリーゼリー、緑色スライムはブロッコリーのマヨネーズ和え。
それぞれ色づけした生地に餡やクリーム、ジャムなどを包み、蒸して完成させる。
「領主印のスライムまんの完成!」
『おお~~~~!』
さっそく、ガブリエルの従僕に頼んで現場に運んでもらう。
喜んでもらえたらいいのだけれど……。
三時間後――ガブリエルが帰宅してくる。
「フラン!!」
ガブリエルは私を発見するなり駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きしめてくる。
「ガブリエル、おかえりなさい」
「はい、ただいま帰りました!」
なんだか嬉しそうな様子だったので、何かいいことでもあったのかと尋ねる。
「フラン、差し入れ、本当にありがとうございました! とってもおいしかったです」
どうやらしっかり食べてくれたらしい。お口に合ったようなので、ホッと胸をなで下ろす。
「領民達も皆、よろこんでいました」
「そう、よかったわ」
なんでも村で発注していた食事が届けられる予定だったようだが、手違いがあって届かなかったらしい。
空腹を我慢していたところに、スライムまんが届けられたようだ。
「皆、また食べたいと口々に言っていました」
「いつでも作るわ」
「それだとフランが大変ですので、思い切って製品化してみませんか?」
「スライムまんを?」
「ええ。観光客にも、人気が出ると思うんです」
たしかに、いいかもしれない。
「製品化するのであれば、スライムの目や口をつけたら、もっと売れそうだわ」
「フランは天才ですか!? すぐに作ってみましょう!!」
そんなわけで、スライムまんは製品化され、村で販売されるようになった。
手軽に食べられ、安価なことから、スライムまんは飛ぶように売れたらしい。
売り上げでスライム討伐の人員を雇えるようにもなり、ガブリエルや領民達の負担が減った。
スライムまんは雨期の救世主となるような商品となったのだった。
コミカライズ版『スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約』第2巻が5月1日に発売します!
今回、狸田にそ先生の描き下ろし漫画が巻末に収録されております。
楽しい一冊となっておりますので、ぜひぜひお手に取っていただけたらなと思います。
あらすじ
スライム大公領で没落令嬢を待っていたのは……ラブラブ婚約生活!?
実家が没落した公爵令嬢フランセットは、父母姉とも別れ下町で独力で暮らしていた。
ある日、道で弱っていたスライムを助けると、それをきっかけに偉大なる〝魔物大公〟の一人・スライム大公と婚約することになる。
そして結婚までの期間、スライム大公領のスプリヌで婚約者として暮らすことになるが――!?
縁結び役はまさかのスライム??
ワケあり婚約から始まる、異色の溺愛ファンタジー第2巻♥




