スライム大公コミカライズ一巻発売記念『アイスクリームを作ろう!』
今日、ついにフランセットが王都で注文していた品が届く。
ガブリエルやプルルンと共に、開封することになった。
「フラン、いったい何を購入したのですか?」
「それは、見てからのお楽しみよ」
厳重に包まれた紙をプルルンが器用に開封していく。
中から現れたのは、ハンドルがついたバケツのような物体だった。
「フラン、これはいったいなんなのですか?」
『きになるう~』
「これはね、アイスクリームメーカーよ」
以前、ガブリエルが領地に新しい名物が欲しいと言っていたのを聞いたフランセットが、アイスクリームを売るのはどうかと思いついたのだ。
「へえ、これでアイスクリームが作れるのですか」
「ええ」
「よくご存じでしたね」
「別荘で家庭教師が作ってくれたのを見た覚えがあって――」
夏の暑い日、今にもバテてしまいそうなフランセットを見かねて、家庭教師がアイスクリームを作ってくれた。
「アイスクリームメーカーの中は二重構造になっていて、内側にアイスクリームの材料を入れて、外側に塩を振った氷を入れて混ぜるの」
氷に塩を入れることにより、さらに低い温度となるので、必要だとフランセットは習っていた。
『フラ、かしこーい』
「休憩にアイスクリーム作りを、と見せかけて、しっかり勉強の時間だったのですね」
「ええ、そうだったの」
今から作ってみよう。そう提案したのはよかったものの、氷を調達しないといけない。
スライム大公家には魔導保冷庫があるため、食品を冷やすための氷は見た覚えがなかった。
「村に行ったら、氷は買えるかしら?」
「いえ、その必要はありません。私が魔法で作りますよ」
ガブリエルはそう言うやいなや、ぶつぶつと呪文を唱え、あっという間に氷を作り出す。
フランセットは賞賛するも、ガブリエルはたいしたことはしていないと答える。
通常、魔法使いというのはひとつの属性しか使えない。けれども、ガブリエルは転移魔法や火魔法、風魔法などさまざまな属性を習得している。
彼はスライムの研究だけでなく、魔法使いとしてもかなり優秀なのだろう。
ガブリエルは謙遜するだけでなく、顔を背けていたが、耳まで真っ赤なのをフランセットは発見してしまう。
どうやら褒められ慣れていないので、照れているようだ。
普段から彼のいいところを褒めるようにしていたのに、まだまだ足りなかったのだな、とフランセットは気付く。もっともっと褒めちぎらなければ、と決意するフランセットであった。
気を取り直して、アイスクリーム作りに取りかかる。
「アイスクリームの材料は牛乳、生クリーム、卵黄、砂糖」
卵黄と砂糖をしっかり混ぜ、これに牛乳と生クリームを加えてさらに攪拌させる。
よく混ざったものを漉しながら鍋に入れてひと煮立ち。
冷ましたものにバニラエッセンスを加え、外側の層に氷を入れたアイスクリームメーカーへ投入。
「あとはこのハンドルを回すだけなの」
「私がやりましょう」
しばらくガブリエルが奮闘していたものの、途中で息が上がってプルルンに交代する。
『いけいけいけー!』
プルルンが目にも止まらぬ速さでハンドルを回転させていたら、バキッと大きな音がする。
『あ!』
「プルルン、壊しましたね」
『ごめんなさーい』
「いいわ。実はこれ、中古で買った物だったの」
アイスクリームを作って紹介できたらいい、くらいの気持ちだったのだ。
フランセットはシュンとするプルルンを抱き上げ、気にするなと励ます。
「アイスクリーム自体は完成しているようですね」
「よかった!」
しっかり凍ったアイスクリームを、フランセットはヘラで掬いあげる。
甘い匂いがふんわりと漂ってきた。
ガラスの器に装い、庭で摘んだミントを添えてみる。
「おいしそうですね」
「いただきましょう」
スプーンで掬ったアイスクリームを、ぱくんと一口。
ひんやり冷たいアイスクリームは濃厚で、バニラが豊かに香る。
とてもおいしく仕上がっていた。
「これは、とても品があって、おいしいですね」
「ええ、そうなの! 王都で食べるアイスクリームよりもおいしいわ」
領地で朝に搾った新鮮な牛乳で作ったからだろうか。
幼い頃に家庭教師と一緒に作ったアイスクリームのような、濃厚な味わいである。
「ガブリエル、これはすばらしい名産になるわ! ぜひとも作ってみましょう」
「いいですね。その前に、アイスクリームメーカーを修理しないと」
『プルルンも、しゅうり、てつだうー』
「そのつもりです」
そんなわけで、アイスクリームメーカーはガブリエルに預けることになった。
翌日――修理されたアイスクリームメーカーが戻ってくる。
「もう修理できたの?」
「ええ。フラン、見てください」
ガブリエルが修理したアイスクリームメーカーには、ハンドルがなくなっていた。
「ねえ、ガブリエル。これはどうやって使うの?」
「これは魔石の力で自動調理するアイスクリームメーカーなんです」
ガブリエルは昨日フランセットが作ったように、氷と乳製品を使い、アイスクリームを作り始める。
「材料を入れるだけで、加熱や製氷も自動でできるんですよ」
「本当に!?」
ガブリエルは説明しながら、材料を入れていく。
アイスクリームメーカーの呪文を指先で擦ると、動き始めた。
表面に刻まれた魔法陣が発光しつつ、アイスクリームの甘い匂いが漂ってくる。
三分と待たずに、アイスクリームが完成した。
「フラン、いかがでしょうか?」
「本当にすごいわ!!」
食べてみると、昨日のアイスクリームそっくりな仕上がりだった。
ただ、ガブリエルは顔を顰める。
「少し香りが飛んでいる気がします」
「ああ、それはバニラエッセンスを加熱してしまったからだと思うの」
バニラエッセンスは加熱すると香りが飛んでしまう。
熱を入れる料理に使うときは、耐熱性があるバニラオイルを使ったほうがいいのだ。
「そうだったのですね。勉強不足でした」
「そんなことないわ。知らないことは、教え合えばいいことなのよ」
「それもそうですね」
何はともあれ、ハンドルを回して作るという大変な調理工程は自動化された。
ガブリエルの発明を、フランセットは心から賞賛したのだった。




