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没落令嬢フランセットは、ある人物を採用する

 私とガブリエルは王都にある騎士隊本部に呼び出される。

 誘拐事件について、事情聴取が行われた。

 通常であれば気まずい取り調べであったが、その場を取りまとめていたのはアクセル殿下だった。

 終始私達を気遣い、味方でいてくれた。心から感謝したい。

 拘束されたガブリエルの大叔父クレマン・ド・グリエットからは、驚きの証言が出てきたという。驚くべきことに、マクシム・マイヤールとの繋がりがあったらしい。

 なんでも私に二十万フランを請求した騒ぎのせいで、アクセル殿下に目を付けられてしまった。その腹いせに、報酬と引き換えに私を娼館へ売り飛ばす犯行を提案したのだという。

 ガブリエルの大叔父は私を追い出すことにより、孫娘ふたりに良縁が舞い込む。

 マクシム・マイヤールは腹いせが成功して、気分がいい。

 私がいなくなることにより、双方に都合がよくなるわけであった。

 完全犯罪とも言える犯行だったが、スライムに阻まれてしまった。まさか、複数のスライムが庭に潜伏していて、私を助けるとは想定もしていなかったのだろう。


 犯罪が浮き彫りになったマクシム・マイヤールも、王都から逃げていたようだがアクセル殿下の追跡からは逃げられなかった。

 現在はガブリエルの大叔父が収容されている刑務所で、同じ窯のパンを囓る仲になっているらしい。


 それらの事件を受けて、マクシム・マイヤールの娘ヴィクトリアは、マエル殿下との関係を解消させられたようだ。

 マエル殿下はヴィクトリアと結婚するつもりだったらしいが、国王陛下がふたりの仲を強引に引き裂いたという。

 なんでも、帝国側から公式に抗議が届いていたらしい。その内容は、マエル殿下が多くの耳目がある場で、遠くない未来に皇后となるアデル・ド・ブランシャールを辱め、名誉をそこなうような言動を取ったと。

 マエル殿下からの謝罪がなければ、食品の輸出を停止するとまで書かれていた。

 仮に帝国から食品の供給が絶たれたら、国内は大混乱となるだろう。

 国王陛下は即座にヴィクトリアと別れ、帝国に謝罪文を送るよう命じたようだ。

 そんな状況だったので、ヴィクトリアの父親であるマクシム・マイヤールの逮捕は、ふたりの破局を大きく後押しすることとなった。

 そもそも、マクシム・マイヤールがよからぬ犯行に走ったのは、娘を王太子妃にするためだったらしい。

 金で縁故コネクションを結び、貴族でない娘がマエル殿下に近づくことを可能としたようだ。

 ふたりの愛を繋いだのは、父親のなりふり構わない犯罪行為と、金だったというわけだ。

 マエル殿下は廃太子されるという噂も流れているという。

 なんというか、この世は悪行を働くと、しっぺ返しを受けてしまうのだろう。


 事件関係で王都に何度も呼び出され、うんざりしていた私達に朗報が届く。

 なんと、アクセル殿下が私とガブリエルの婚約及び結婚許可証を勝ち取ってきたのだ。

 アクセル殿下は必要ないかもしれないがと謙遜していたものの、そんなことはない。

 父はいまだ、重要参考人として騎士隊に身を寄せているらしい。そのため、私の結婚についてあれこれ行動を起こしている暇はないだろう。

 私とガブリエルの仲は、アクセル殿下が認めてくれた。これ以上名誉なことはないだろう。


 こうして、私は正式にガブリエルの婚約者となった。


 ◇◇◇


 事件から一か月も経てば、私やガブリエルにも平和が訪れる。

 だが、再び嵐がやってきた。

 再従姉妹であるディアーヌとリリアーヌが、両親を伴ってやってきたのだ。

 なんでも、大叔父の事件の影響で、財産が没収となったらしい。

 さらに、スプリヌ地方から立ち去るようにと騎士隊から命じられたようだ。

 ご両親は王都で使用人として勤めに出るという。

 ディアーヌとリリアーヌは下働きなどできないと判断し、修道院送りになるようだ。

 本人らはここで初めて待遇を耳にしたようで、顔を真っ赤にして怒っていた。


「お父様、修道院に行けだなんて、どうしてですの!?」

「一緒に王都に行って、結婚相手を探してくださるのではなかったの!?」

「ディアーヌ、リリアーヌ、お前達はもう、結婚は無理なんだ。父上――お前達のお祖父様が、犯罪に手を染めてしまったからね」


 ご両親は私の誘拐事件について、深々と頭を下げた。別に、当事者でない彼らを責めるつもりはない。

 許すというのはちょっと違う気がするけれど、とにかく謝らないでくれと頼み込んだ。


「あともうひとつ。ディアーヌ様とリリアーヌ様、私達の仕事を手伝うつもりはない?」


 突然の提案に、姉妹は目が零れそうなくらい見開いていた。


「あ、あなた、何を言っていますの!?」

「そ、そうですよ。私達、フランセット様にたくさんいじわるしましたのに」


 自分達が悪いことをしたと認めているのは結構。

 たしかに、いじわるをされた。それをわかっていて、私は彼女達を誘ったのだ。


「今、人手がひとりでも多く必要なの。修道院に行くよりは、よい待遇だと思っているけれど」


 一応、彼女らを誘う件については、ガブリエルと義母に相談済みだ。反対されたが、何度も話し合い、理解してもらったのだ。


「な、何が目的ですの!?」

「ま、まさか、汚れ仕事をさせるつもりでは!?」

「違うわよ。あなた達には、社交界で、商品の宣伝をしてもらいたいと思っているの」


 サロンを開き、試供品を配布し、ご婦人方に紹介する。

 姉妹は美しいし、口は達者なので、注目の的となるだろう。


「どうしていきなり、そんな提案をしましたの?」

「こちらに恩を売るつもり!?」


 両親が制するが、暴走し始めた姉妹の口は止まらなかった。

 私が何か企んでいるのではと、これでもかと疑っている。


「別に、恩を売るつもりはないわ。単純に、相応しい人が見つからなかっただけ」

「本当に?」

「嘘はついていませんよね?」

「ええ、神に誓って」


 神の名を出したら、ようやく信じてもらえたようだ。

 ディアーヌとリリアーヌは同時に両親を見つめる。期待の眼差しを、向けていた。


「フランセット嬢、うちの娘達がいたら、迷惑をかけるのでは?」

「私の部下になったさいには、しっかりご指導させていただこうかなと」


 ここで了承は得られなかったものの、後日、話し合う場を設けた。

 ディアーヌとリリアーヌにしてもらいたい業務を説明し、本人達にも確認を取る。

 熱心に訴え、誘ったのがよかったのか、最終的にはご両親の許しを得た。

 そんなわけで、スライム大公家はこれまで以上に賑やかになるだろう。

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