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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第四章

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没落令嬢フランセットは、脱出方法を考える

 問題はここからどうやって逃げるか、だろう。

 選択肢はふたつ。窓から下りるか、どうにかして扉の鍵を開けて廊下から外に出るか。

 まず、窓を覗き込む。逃走防止だろうか。木や生け垣はいっさいない。先端が尖った鉄格子が、地面から突き出ていた。その周囲を、用心棒の男達が行き来している。

 花街なだけあって、周囲は煌々としていた。夜の街は常に明るいのだろう。皆が寝静まってから逃げるなんてことは、通用しない可能性が高い。


「どうしよう。どっちが安全……なんてことはない、か」

『うん、どっちもキケン』


 見つかったら最後。どんな扱いを受けるかわからない。

 慎重に、どちらかを選ぶ必要があるだろう。


 扉に身を寄せ、聞き耳を立てる。

 廊下は人通りが多いようで、話し声や足音が忙しなく聞こえていた。

 耳を澄ませたら、会話が聞こえてくる。従業員同士のお喋りに聞こえた。ということは、この階はここで働く者達の居住区なのだろう。

 見ず知らずの人間が通ったら、引き留められるに違いない。

 誰にも見つからずにここを通って、外に出るのは不可能ということである。


 続いて窓を覗き込む。どうやら、用心棒の男達は娼館の周囲をくるくる回っているようだ。人数は、五名ほどか。

 隙を見て地上に、というのは無理そうだ。

 そもそも、窓から地上へ高さはかなりある。落ちたら大怪我確実だろう。

 かといって、第三の選択――ここで働くというのは絶対に嫌だ。


「プルルン、鍵って、開けられる?」

『うん、できるよお』


 やはり、プルルンは解錠も可能としているようだ。有能過ぎる。

 誰かに見つかった場合、勝手に忍び込んだ少年として、外に追い出してくれないか。

 いや、そんなにうまくいくはずがないだろう。捕まってすぐに私だとバレて、体罰を与えられるに違いない。


 残るは、窓からの脱出だ。

 窓は蝋で固められている。これを、溶かすところから始めなければならない。

 部屋に置かれている魔石灯は、大きな塊ではない。たくさんの欠片が詰め込まれている状態だった。暖炉には火鋏が刺さっていたので、それを引き抜く。

 魔石灯の蓋を開けて、赤く燃える魔石の欠片を火鋏を使って取り出した。これを、窓枠に近づけて蝋を溶かす。

 じわ、じわと蝋が溶けていった。魔石の火力が強いからか、あっという間に蝋は溶けていった。


「ん、んんん!」


 蝋は溶けたはずなのに、なかなか窓は開かない。単純に私の力がないからだろう。

 袖から、プルルンの触手が伸びる。窓枠に添えられ、力が加えられた。

 ガタッと大きな音を立てて、窓が開かれる。

 すぐに閉じ、口に手を当てて姿勢を低くした。誰かに気づかれたのではないかと、ヒヤヒヤしてしまう。

 いったいどれだけの時間、息をひそめていたのか。誰も様子を見に来ないので、大丈夫だろう。


 窓からの脱出方法を考えなければ。シーツやカーテンを繋げて、縄代わりにできないだろうか。以前読んだ、ロマンス小説で、監禁されていた主人公が使った手段だ。

 ひとまずシーツを引き剥がしたものの、驚くほど薄い。私の体重を支えきれるほどの強度があるようには見えなかった。カーテンも、信じがたいほど薄い布だった。この辺も、逃亡を予測して、用意しているのだろうか。わからない。


「他に何か安全な方法はないの――?」


 考えろ、考えろ、考えろ!

 今、私が使えるのは、魔石の欠片がたくさん詰まった魔石灯と、薄いシーツやカーテンだけ。鉄の火鋏は何かに利用できるかもしれない。


 仲間はプルルンのみ。


「プルルン――そうだ、プルルンよ!」

『んー?』


 安全で、誰にも見つからない、いい方法があった。

 さっそく、プルルンに頼み込む。


「ねえ、プルルン、私を呑みこんで、ここから脱出することは可能?」

『できるよお。でも……』

「でも?」

『フラ、こわくないの?』

「怖い?」

『だって、プルルン、ガブリエルとけいやくしてない、ただのスライムなんだよお』

「怖くないわ。だってプルルンは、私を助けにきてくれた、勇敢なスライムですもの」

『フラ……』


 プルルンは服の変化を解いて、私の前に跳ね上がりながら言った。


『フラがいいのならば、そのさくせんで、いこう』

「ええ、やりましょう、プルルン」


 作戦を実行する前に、ちょっと待ってもらう。

  このままの姿では、外に出られない。シーツやカーテンを巻き付け、ちょっとしたドレスのような形にした。かなり不格好ではあるものの、肌着姿で歩き回るよりはいいだろう。

 火鋏は武器として携帯しておく。魔石灯は、灯りとして借りよう。

 もしも助かったら、すべて返すつもりだ。


『フラ、だいじょうぶ?』

「大丈夫。たぶん」

『やっぱり、こわい?』

「正直に言うと、ちょっと、怖いかも」

『プルルンを、しんじて』

「ええ、信じるわ。お願い」


 プルルンはスーッと空気を吸い込む。すると、大きく膨れ上がった。

 口をパカッと開き、私をごくんと呑み込んだ。

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